大空のさらに下から顔を出す太陽。朝日に照らされ浮島に光がさし込んでいた。
「なるほどねぇ〜…、時間経過ギミックか〜…。普通にプレイしてたらまず気づかないよね〜」
昨夜、探索を隅々まで行った機械仕掛けの島。そのままログアウトしたユキが一眠りし、翌日。那由花との約束の時間までまだ4時間ほどある。その暇つぶしにログインしたのだ。
別に早く行ってもいいのだが、流石にまだ5時である。那由花の生活リズム的にはまだ起きてすらいないだろう。
そしてログインしてユキはその光景を目の当たりにした。
昨夜隅々まで探索した機械仕掛けの島が、まるで違う形に変化していたのである。
一瞬見間違いかとも考えたが、明らかに昨日あった建物のような何かが無かったり。更には昨日無かった物がどこからともなく現れていたりした。
「いや〜、骨がおれるなぁ〜。これ昨日はなかった通路とか部屋とか増えてるでしょ〜…」
ユキの言う通りである。昨日隅々まで見た島の内部、見たことあるような場所もあれば昨日はなかった部屋などが当たり前のように鎮座していた。
またもや、ユキはこの島の探索を始め出す。
昨夜、作り上げた立体地図を見ながら。どこが違うのか。どこに道が移動してるのか。そして、どこに不明な空間があるのか。その全てを考察とマッピングを駆使しながら特定していく。
そしてある程度の目星を付け、複雑な道を歩いていると…
「おお〜」
今までの部屋とは明らかに違う雰囲気漂うその部屋は、少し暗い。窓もないので当たり前だが、そこまでの道や部屋は照明が機能していた。だが、この部屋はその照明の代わりに、何か物々しい発光するラインが幾何学模様に壁を伝い部屋中に張り巡らされている。
さらにそのラインはその部屋の中心へと集まり、何か光り輝く物を台座のようなもので上下から挟んでいた。
見たまんま言えば、何かよく分からないけど、「取ったらヤバイよ」とでも言いたげな「コア」のように見える。
流石にこの先のテンプレじみた展開に予想がつくような。そんな予感に一旦、再度地図を確認したユキは…。
…
コアをそっと手に取った。
『警告!警告!クリスタルが何者かに奪取されました。これより崩壊シークエンスを開始いたします!』
「ですよねぇ〜!」
途端に鳴り響くブザーと警告ランプが視界を赤く染め、さらに激しく振動し始めた地面が、明らかにヤバさを醸し出している。
そして当たり前のようにアナウンスが自爆だの吐き出していた。
急いでコア…、もといクリスタルをインベントリに入れ一目散に出口を目指すユキ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チェインクエスト:きらびやかな物
クリア条件:「封核クリスタル」を鶏に届ける
クリア状況:0
参加者:ユキ
報酬:?
特別報酬:?
特別報酬条件:「封核クリスタル」が無傷であること
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
チェインクエスト:壊れた浮島
クリア条件:「封核クリスタル」を保持したままこの浮島からの脱出。
クリア失敗条件:
・「封核クリスタル」の紛失
・「封核クリスタル」の破損
・プレイヤー死亡
・脱出失敗(一定高度島ごと落下)
クリア失敗時:「封核クリスタル」没収
参加者:ユキ
報酬:「封核クリスタル」の獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
途端に現れるクエスト通知。鬱陶しいと思ったのも一瞬。普通のクエストよりはるかに条件の多いクエストの失敗条件に驚く。
さらに読み進めていると…。
「あれ〜?これ1回きりなのに死んだらインベントリからクリスタル没収ってこと〜…」
そう、現在進行形で崩れますと言いたげな揺れと、それにプラスしてクリア失敗条件にしっかり「脱出失敗(一定高度島ごと落下)」と記されているのである。つまりこのクエストは機械仕掛けの浮島ひとつまるまる使ったクエストであり、崩れた以上もう元には戻らない。
全速力でユキは来た道を引き返すも…。
「シェルタ〜!?」
目の前に立ちはだかる来た時は無かった壁。
「このッ!」
即座にそのシェルターに〔爆発〕の魔弾をぶつけこじ開けようとするも…。
「無傷ッ!?」
『警告!シェルターにクリスタルを一定時間はめてください』
どこからか聞こえたアナウンスが懇切丁寧に指示をくれたおかげか、ユキはシェルターのど真ん中にちょうどクリスタルがはまりますよ!という感じのくぼみがあるのを発見する。
「破壊ってそういうこと…。てことははめたら…」
素早くインベントリからクリスタルを取りだしそのくぼみに少し慎重にはめるユキ。そしてはまった直後。
『外敵!発見!排除する!』
「だよね〜!?こういう一定時間はめといてね系で妨害が無いわけないよね〜!?」
いつの間にか後方の壁からすり抜けるように現れた機械仕掛けの敵モブに勢いよく氷弾をぶち当てるユキ。
唐突に始まった運搬系タワーディフェンス。なお制限時間ありやり直し不可。という鬼畜クエストになおかつ1人で挑む。これは普通にトラウマになってもおかしくない。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!