1969年7月12日、PM11:00、インド洋海上。
吹き荒れる豪風、地面に激しく打ちつける豪雨。誰の目にとっても海に近づくべきでないとわかる今日この時、闇に包まれた海の上にうっすらと小さなゴムボートが見える。
そのゴムボートは波にのまれそうになりながらも、必死に砂浜に近づこうとしており、海上を暴れまわっている。
そして、幾分か経つとどうやら砂浜までの糸を手繰り寄せれたようで、ゴムボートが砂浜に乗りあがった。
すると、そのゴムボートを操縦していた男がゆっくりと立ち上がり、首元のスロートマイクに話しかけ始めた。
「こちらクリード、目標地点に上陸」
<予定通りだ。よくやった、クリード。それにしても気分はどうだ?>
男の耳に、しわがれた老人の声が雨音交じりで聞こえる。
「そんなもんは最悪だよ。こんな状況が俺のCIA工作員としての初陣とはな」
男は顔を少し歪ませて言った。
<まぁ、そう言うな。君の双肩には我々の多大なる希望がかかっているのだから>
「はいはい、わかったよ。それはちょっと大袈裟だがな」
男はそう言うとゴムボートに積んでいた荷物に手を付け始めた。
大粒の雨が降りかかってくる上、あまりの強風のため時折態勢が崩れそうになるものだから荷物の開封にてこずっていると、近くの空でいきなり光線が走るとともにひどく大きな雷鳴が轟いて、あたりの空気感がより重くなった。
そして、また再び老人の声が耳に入ってきた。
<それではクリード。本任務の概要について私からもう一度説明させてもらおう>
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