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112.ルシフのシナリオ

公開日時: 2021年1月25日(月) 09:52
文字数:2,513

 倒れたままの僕の横に立ち、ルシフはニヤニヤ顔で言う。


『さあ、お兄ちゃん、今度こそ契約しようよ。もう、お兄ちゃんを助けられるのは、ボクだけだよ』


 契約。そう、契約ね。


 ……


 …………


 ………………


 ……するわけないだろ、バーカ。


 僕はそう答えて|嗤《わら》ってやる。


 だってそうだろう?

 僕が契約して何になる?

 ルシフとの契約は『闇』になるってことだ。

 確かに死なないで済むかもしれないけど、リラたちは余計ピンチになるだけだ。

 ちょっと考えれば分かる単純な理屈である。


『そうだろうね。お兄ちゃんならそう答えるだろうって思ったよ。

 ……だから、さ。もう一人呼ぶことにするよ』


 ルシフがそう言うと、僕らの目の前に一人の少女――リラが現れた。


『パドっ!! ここって……ルシフ!?』

『やあ、ひさしぶりだね、リラお姉ちゃん』


 ルシフはニヤニヤしたまま言う。


『どういうことよ?』

『いやぁ、このままだとパドお兄ちゃんが死んじゃいそうだからさ。助けてあげたいんだけど、パドお兄ちゃんは絶対契約なんてするもんかって言うんだよね。

 だからさ……』


 ルシフはそこで、これまでで一番凶悪な笑みを浮かべた。


『代わりにリラお姉ちゃんが僕と契約してよ。パドお兄ちゃんを助ける魔法をあげるからさ』


 その言葉に、僕の中の感情が逆立つ。

 コイツはっ!!


『私が頷くとでも思っているの?』

『頷くさ、パドお兄ちゃんはこのままなら死んじゃうよ。そして、王妃様えっと、テミアールだっけ? 彼女は君も、王様達も、王都の人間も、皆殺にしちゃう。

 でも、君が僕と契約して、パドお兄ちゃんを治してあげれば、パドお兄ちゃんがテミアール王妃を倒せるじゃないか』


 リラっ、よせ。


『分かってる。パド、私は頷いたりしない』


 そうだ。

 コイツと契約すれば、今度はリラが『闇』になってしまう。


『もちろんそうなるね。そして、契約にはリラお姉ちゃんが愛する者の死が必要』

『私にパドを殺せって言うの!?』

『ひゅうっ、愛する者っていわれて、あっさりパドお兄ちゃんのことって考えるんだねぇ。ヤケちゃうなぁボク』


 殴りてえ。とりあえず、コイツを殴りたいっ!!


『だからさ、簡単なことだよ。ボクと契約して、リラお姉ちゃんはパドお兄ちゃんのケガを治す。そのあと、あらためてリラお姉ちゃんにはパドお兄ちゃんを殺してもらう』


 意味が分からん。


『でも、パドお兄ちゃんにはボクが与えた刃の魔法があるからね。『闇』になった、リラお姉ちゃんを逆に殺せばいい。あ、もちろんテミアール王妃もね。

 ほら、これでパドお兄ちゃんも助かるし、王都の人たちも助かる。バンザーイっ!!』


 今度こそ、ボクの感情が沸騰した。


 ルシフっ!!

 お前はっ!!


 ボクは立ち上がろうとし、しかし力が入らない。

 そんな僕を横目に、ルシフはリラに近づき、耳元で囁く。


『どうだい、リラお姉ちゃん? リラお姉ちゃんの犠牲だけで、パドお兄ちゃんも、アル王女達も助かるんだ。お得な契約だろう?』


 リラ、よせ。

 ソイツの言うことなんて聞くな。


『私は……私は……』

『どのみち、このままだったら君もテミアール王妃に殺されるさ。それならパドお兄ちゃんを助けた方がいいんじゃないの?』


 リラの表情に迷いが浮かぶ。

 ダメだ。

 迷うな。

 リラっ!!


『私はっ!!』


 よく考えろ、リラっ!!

 お師匠様ならなんていうか。


『お師匠様……ブシカお師匠様なら……』

『決まっているじゃないか。彼女だって最後は自分を犠牲にして君たちを救ったんだ。リラお姉ちゃんも同じようにすればいい』


 違う!

 それは絶対に違う!!


 そうだ。

 そもそも、ルシフの目的は何だ?

 リラを『闇』にして、僕に殺させて、それで一体何が起きるって言うんだ。


 ルシフの目的は世界を滅ぼすこと。

 そして、その為に、僕を『闇』にすること。


 それなのに、リラと契約したところで意味が……


 ……あっ。


 そうか、そういうことなのか!?

 この世界では僕の思いつきがそのまま、ルシフやリラにも伝わる。


 リラがハッとなり、ルシフが苦々しげな表情を浮かべる。


 やっぱり、図星かよ。


 ルシフは、僕に愛する者を殺させたいのだ。

 たとえ『闇』と化したあとであっても、僕がリラを斬れば、僕は愛する者を殺したことになる。

 その時、僕もまた、『闇』に変えられる。

 そういうシナリオだったのだ。


 僕を大けがさせて、リラに契約を迫り、リラを『闇』に変え、そのリラを僕に殺させる。その結果として、僕もまた『闇』へと落ちる。


 なんとも回りくどいやり方だ。だが、僕が最大限にルシフに警戒している中では、確かに他に方法がなかったかもしれない。


『で、それが分かったからなんだって言うのさ。パドお兄ちゃんはこのままなら死ぬし、そうなったら『闇』は止められないよ』


 憎々しげに言うルシフ。


 だが、僕は笑う。


 心配いらないさ。

 アル様もキラーリアさんも、僕なんかよりずっと強いから。

 テミアール王妃のなれの果てなんて、アル様がやっつけてくれる。


『何を馬鹿なことを。ボクの与えた剣もなしに、アルに『闇』が倒せるはずがないだろう!?』


 それも問題ない。

 ピッケがいるからね。


『何?』


 龍の飛行能力なら、レイクさんのお屋敷から王宮までなんて一瞬さ。剣を届けるのもすぐだ。そもそも、ピッケなら『闇』をたおせるかもしれないし。


『連絡できなければ意味がないだろっ!!』


 はははっ。気づいてないのかよ。


『なんのことだ!?』


 レイクさんはね。最初からピッケを王宮に呼ぶつもりだったんだよ。

 本当は国王陛下説得の切り札だったんだろうけどね。今となってはそんな意味はない。

 でも、ピッケかルアレさんか、あるいはセバンティスさんに通信用の魔石は渡しているはずだよ。


 出かけに、レイクさんがピッケに何か頼んでいた。

 あれは、そういうことなのだろう。


 だからさ。

 僕が死んだって問題ない。

 リラも助かるし、アル殿下も、レイクさんも、キラーリアさんも助かる。

 そういうことだ。


 リラが震える声で叫ぶ。


『でも、でも、それじゃあ、パド、あなたは……』


 死ぬだろうね。

 でも、リラや僕が『闇』に変わるよりはマシだ。


 さあ、ルシフ。僕らを元の世界に戻せ。

 僕らは絶対に契約なんてしないから。


『……好きにしろ』


 ルシフが冷たい声でそう言い放ち、僕らは漆黒の世界から追い出されたのだった。

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