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(一人称/教皇スラルス・ミルキアス視点)
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商業都市アラルバの教会。
教皇である私のために用意された客室にこの街の教会の代表が訪れた。
曰く、教皇である私がせっかく訪れたのだから、せめて夕餉を共にさせてほしいとのこと。
疲ているのでとやんわり断り、名代として枢機卿ラミサルを送り出した。
1人、部屋の椅子に座ると先ほどラミサルが言った言葉が頭の中によみがえった。
『そもそも『常人の魔力』とはどの程度を示しているのでしょうか』
彼の疑問と、そこから膨らむ疑念は確かに正しい。
後日、もう一度パドくんに接触して調べる必要がある。
――だが。
「パドくんの件は、それ以上の疑念があるのですよね」
誰もいない部屋の中で、小さく声に出してしまう。
考え事に耽るとつい声が出てしまうのは若かりし頃からの悪癖である。
さすがに教皇になってからは人前では気をつけるようにしているが、1人になると気が緩んでしまうらしい。
「『闇』の行動、パドくんの魔法、あまりにもできすぎている」
『闇』が神託の少年の住む場所を2度を襲ったこと自体は偶然ではないだろう。
いくらなんでも、謎のバケモノが適当に襲った場所に、偶然神託の少年がいたなどという可能性は考慮外だ。
2度目の襲撃は私かアル王女を狙った可能性も0ではないかもしれないが、そうだとしても偶然が過ぎる。
――問題は。
「パドくんの価値を私たちに認めさせるために動いているようにも見えたということ」
私たちがパドくんの身柄を確保しようとアル王女と交渉し始めた瞬間、『闇』は現れた。
そして、ラミサル、アル王女、キラーリア、アラブシ殿が必死に戦っても勝ち目がない状況に陥る。
この4人は大陸中の人族の中でも指折りの実力者だろう。
アル王女は言うに及ばず、剣の心得のない私から見てもキラーリアは常人離れした剣士だった。ラミサルは戦い慣れないとはいえ、教会最高峰の――つまり、人族で最も優れた魔法使いである。いや、実際にはアラブシ殿の方が上だったようだが。
その4人を相手に、対等以上の戦闘力を見せた『闇』。
一方で、パドくんの漆黒の刃だけが『闇』に通用した。
『闇』を操っているのがルシフだとしたら。
これではまるで、パドくんの必要性を自分たちに示すために『闇』を送り込んだようにも見える。
ルシフは私に――いや、この大陸に住む人間全てに、彼の重要性を認識させ神託を覆させようとしていたのではないか。
証拠は何もない。
パドくんと『闇』やルシフが仲間だとは思わない。
先ほどラミサルに言ったことは嘘ではない。
あの状況下でパドくんを抹殺するなど無理筋だった。『闇』への唯一の対抗手段であるパドくんを排除するのは早計だろう。個人としてパドくんに好意を持っていることも本当だ。
だが。
それでも。
神の言葉に逆らってパドくんの抹殺を諦めた結論が正しかったのかどうか、私は判断できないでいた。
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