キダンの剣は僕の服だけを斬って止まった。
「……どういうつもり?」
「簡単に終わったら、つまらないだろう?」
尋ねる僕に、キダンは余裕の表情。
実際、余裕なのだ。
今のキダンの動き、僕は目で追うこともできなかった。
あのキラーリアさんの動きですら、ここまでではない。
「くっ!!」
僕は光と闇の剣をキダンめがけて振り下ろす。
どういうつもりかは知らないけれど、動きを止めたならチャンスだ。
だが。
「無駄だよ」
そう言うと、キダンの姿は再び消えた。
「こっち、こっち。遅いよ、パドお兄ちゃん」
背後から声が聞こえ、僕はハッと振り返る。
――どうなっている!? 幻覚か?
「もしかして、幻覚かなとか思っている?
残念でした。単に全力疾走しただけだよ」
そういうと、キダンは再び消え、今度は僕の首根っこに彼の剣が突きつけられた。
僕の首の皮がほんの少しだけ斬られ、ひとしずくの血液が流れる。
――うそ、だろう?
今のは少しだけ見えた。
確かに幻覚じゃない。ワープしたわけでもない。
単純に走って僕のそばに接近しただけだ。
信じられないようなスピードで。
「くそっ」
僕はやけっぱちのように光と闇の剣を振り回す。
もちろん、キダンはこれもあっさり避ける。
――ダメだ、動きが捕らえられない。
「言い忘れたつもりはないんだけど、俺は強いんだよ」
ダメだ。
立ち止まっていては勝ち目がない。
僕は200倍の力を全開にしてキダンに向かって駆ける。
キダンに闇と光の剣を次々に繰り出す。
だが。
ヤツは全く動じた様子がない。
僕の剣を、あえて紙一重で躱してみせる。
本当はもっと余裕で避けられるくせに遊んでいるのだ。
「ほらほら、パドお兄ちゃん、遅いよー」
気がつくと、キダンの姿は桜稔の幼少期の姿に変わっていた。
「ふっざけんなぁぁぁぁ!!」
僕はさらに光と闇の剣を振るうが、むなしく空を切るばかり。
「はぁ、はぁ、はぁ」
僕は荒い息をつく。
一方、キダンは余裕顔。
「あーあ、ガッカリだなぁ。パドお兄ちゃんならもっとボクと戦えると思ったのに」
稔の顔でキダンは頬を膨らませて不満顔。
――くそっ。
――完全に遊ばれている。
200倍の力と1000倍の力。
問題なのはそれだけじゃない。
そもそも、キダンは何年も戦い続けたのだ。
それに対して僕は実戦経験も劣っている。
しかも、先ほどから光と闇の剣が僕の魔力をガンガン吸い取っている。
――ダメだ、このままじゃ勝てない。
その時だった。
「パドー!!!」
叫び声と共に、現れたのはドラゴン形態のリラ。
そのまま、口を開け、キダンに噛みつこうとする。
だが。
「無駄だよ、リラお姉ちゃん」
キダンはにっこり笑うと、リラの鼻先に無造作に手を当てた。
それだけで、ドラゴン形態のリラが吹っ飛び、転がり、そして人の形態へと戻る。
「無理しない方がいいよ、リラお姉ちゃん。ここに来るまでにもかなり消耗しているんでしょう? パドお兄ちゃんも酷いよね、リラお姉ちゃんをこんなに苦しめて、龍族にも犠牲者をいっぱい出してさ」
いけいけしゃあしゃあ言ってのけるキダンに、リラが叫ぶ。
「どの口がそれを言うのよ!?」
「ま、そうだけどね。
そのあげくがこうやって、ボクに遊ばれて終わりとか、情けないよね、パドお兄ちゃん?」
キダンはそう言って僕を挑発する。
リラ、ありがとう。
僕にとって、君は勇者だ。
だから。僕は……
こうなったら、もう――
「くそっ。もう魔力が……」
僕は光と闇の剣を消す。
「あーあ、もう終わりかぁ。もっと楽しみたかったんだけどな」
キダンはそういうと、無造作に僕に近づく。
そうだ、そうやって近づいてこい。
そうしたら、使ってやるから。
大神が僕に授けたもうひとつの魔法。
キダンが僕にさらに一歩近づいたところで、僕は飛び跳ねる。
そして、ヤツに抱きつく。
「なっ、どういうつもりだ!?」
初めて慌てた声を出すキダン。
「パドっ!!」
リラが悲鳴のような声を上げる。
彼女は知っているのだ、これから僕が何をしようとしているかを。
わかっている。
この方法を使ったら僕は――
――でも、仕方が無いじゃないか。
僕は負けるわけにはいかない。
リラ、バラヌ、ジラ、お父さん、皆が住む世界を護らなくちゃ。
だから。
「リラ、ごめんっ!」
僕はそう叫び、最後の魔法を発動した。
かつて、お師匠様が、教皇が僕を救い、アル様がバラヌ達を救ったのと同じように。
命を、魔力にして燃やす。
「僕の200倍の命と、残りの魔力、全部お前にぶつけてやるっ!!」
「きさまっ、これを狙って……」
「もしも、僕とお前が同類だというなら、一緒に逝こう、キダンっ!!」
僕は叫んで、命と魔力を暴走させた。
「パドォォォォ」
最後に聞いたのは、リラの叫び声だった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!