ああ? 弟子達について話せって?
いきなりやってきて、かつての師匠に挨拶もそこそこ、一体何を話せって言うんだよ?
え、どうして今更弟子を取ったか?
まあねぇ。あんたも知っているとおり、私は元々教師だったからね。
基本的に子どもは好きなんだよ。
え?
あれだけ厳しくしておいてよく言うって?
ふん、あんたへの厳しさなんてたいしたもんじゃないね。
さすがに侯爵の子どもをぶん殴るわけにもいかなかったからね。
ああ?
そうさな。パドとリラは毎日ぶん殴ってるよ。
虐待?
なんとでも言いな。
で、あの子達のことだろ。
2人とも、まあ根性がひねくれまくっているね。
いや、悪い子じゃないよ。
むしろ、あの子達は責任感が強すぎる。
何かことが起きると、全部自分の責任だと思い込む。
それこそ、世界が自分中心に回っているという、あの年頃にありがちな傲慢な考えさ。
実際の所、リラの問題は彼女の両親に起因するものだし、パドの問題はそれこそ神様のせいだろう。
もっと開き直るべきなのに、自分が産まれてきたために皆が不幸になったとでも思っているんだろうね。
それでもリラはまだマシさ。
獣人達から引き離して、ここで薬師としてやっていくなら十分生きていけるだろう。
獣の因子がどういう形で目覚めるかにもよるが、今のままなら鱗を隠しておけば普通の人族さ。
薬師としては優秀だね。
本人を前には言わないが、この4ヶ月でこの辺りの薬草は全部使いこなせるようになった。生来の勘が良いのか、最近では私よりもあっさり薬草を見つけてみせるよ。
文字を覚えるのも早かったね。
四則演算はパドに劣ると思っているようだし、実際その通りだが、パドの方が元々知っていたみたいだから参考にはならない。4ヶ月で2桁の割り算までできれば上出来だ。
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問題はパドの方さね。
最初に一目見たときから、あの子は危ういと思ったよ。
神様からもらったとかいう、200倍の力と魔力。
それだけでも危ういが、あの子は一見しっかりしているようで心が弱い。
ちょっとしたことで、すぐに落ち込むし、立ち直るまでにも時間がかかる。
何より問題なのが、重要な決定を他人任せにする癖だね。
ルシフとかいうのに付け込まれたのもそのせいだろうよ。
まずは、自分で考え、自分で決定するよう矯正しないとね。
あれほど契約は2度とするなと言ったのに、ちょっと追い詰められたらあっさり自分の片手と魔法を引き換えやがって。馬鹿な子だよ。
え? もっと強く魔法の契約について教えておけば良かったんじゃないかって?
パドもそんなことを言っていたね。
私も、さすがにルシフとかいうのがあの子の母親を殺しかけるようなことをしてまで契約を迫るとは思っていなかったからねぇ。
そこまでヤバイヤツだと分かっていたら、教えておくべきだったと後悔したよ。
パド達にはごまかしておいたけど。
この3ヶ月、パドはひたすら扱きまくってやった。
毎日クタクタに疲れて、寝不足で、倒れる寸前になるまで追い込んだ。
毎日午前中休みなく走らせ、勉強をたたき込んで、獲物を求めて走らせ、夜は自分の小屋を作らせた。それこそ、寝る間もなくね。
やっぱり虐待じゃないかって?
だから余計なお世話だよ。
パドは確かにここに来る前からなんとか力を操れるようになっていた。
だけど、それは万全の体調の時だけだ。
ちょっと疲れたり、落ち込んだり、追い詰められたりすると、それでもう暴走してしまいかねない。
万全の体調の時に力を制御できるのは大前提。
本当に必要なのは、追い詰められ、疲れ切っていても力を制御しきることだ。
それができないならば、パドは災厄を呼ぶ悪魔となってしまう。
実際、ラクルス村が崩壊しかけたからね。
見てきたんだろう、ラクルス村?
そうかい、それじゃあ、それなりに復興したんだね。バルも頑張ったのかね。
ともあれ、この3ヶ月、パドには倒れる寸前で動いても、なんとか力を制御できるよう訓練を施した。
もっとも、命がかかった戦いが目前に迫っても制御し続けられるかはわからないね。
ここで静かに暮らしている分には命がけの戦いなんてないと思うんだが、そういう希望的観測は捨てておくべきか。
なんにせよ、良い子か悪い子かというなら、2人とも良い子だよ。
だが、危うい。非常に危うい。
パドはもちろん、リラも色々と危うい。
ちょっとバランスが壊れたら、自分を恨み、世界を恨み、神をも恨むだろう。
特にパドはその気になったら世界を崩壊させることすらできる力と魔力を秘めている。
この老婆やラクルス村の村長が恨まれ役をわざわざ買って出たのは、パドに世界そのものを恨ませないためでもあるからね。
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で、レイクよ。
一体今更私に何の用なんだい?
後ろにいるお姉ちゃん2人は何者だ?
え、1人はキラーリア? ああ、ガラジアル公爵の一人娘か。
で、そっちは?
……なんだって?
あの時の陛下の……
……そうかい。そういうことかい。
今更あんたがここに来たのは私に力を貸せということか。
いや、それだけじゃないね。
それだけならば、弟子達の話をいの一番に聞きたがるわけがない。
先ほど言っていた神託について、弟子達が帰ってくる前にもう少し詳しく教えてもらおうか。
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