神様、ちょっとチートがすぎませんか?

「大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!!」
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101.王宮からの召集令状

公開日時: 2021年1月20日(水) 19:38
文字数:3,666

 レイクさんのお屋敷本館の客間。

 アル様が逗留しているのはその中でも1番格式が高い部屋らしい。

 実際、広いしなんかすごく高そうな絵画が飾ってあるし、ベッドも大きい。

 僕とリラにあてがわれた部屋とは雲泥の差だ。いや、別に不満はないけど。

 そのアル様の部屋に、アル様、レイクさん、セバンティスさん、僕、リラ、キラーリアさんの6人が集まっていた。


「キラーリアがこんなものを王宮から持ってきた」


 アル様が僕に封筒を投げよこした。中には紙――たぶん、手紙だろう――が入っているみたいだ。

 表面に書いてあるのは……えっと、アル様の名前と、あとは読めない。おそらく、アル様宛の手紙だろう。差出人の名前はどこかな?


「差出人は国王だ。封筒には書いていないがな」

「国王陛下専用の封蝋が押してありましたから間違いありません」


 アル様の言葉を、セバンティスさんが補足する。

 ちなみに封蝋というのは封筒のとじ目に使う溶かした蝋のことで、貴族や王家は書類の偽造防止にそれぞれ判子みたいな印をつけるらしい。

 王家でも、特に国王から直接送られてくる場合はまた違う封蝋が使われるとか。


 ――って。


「そんなものを僕が見ていいんですか?」


 王様から王女様への手紙なんて、僕が触っていい物とは思えない。


「かまわんぞ。何なら読んでみるか?」


 むしろ、読んでみろといわんばかりのアル様。レイクさんやセバンティスさんも止めない。


 ――いいのかな?


 僕は封筒の中から手紙を取りだしてみた。


 封筒もだが、前世の本などに使われていた紙とはずいぶん肌触りが違う。

 紙を作る技術がこの世界と前世とでは全く違うのだろう。

 そもそも、ラクルス村でも旅の途中でもほとんど紙なんて見かけなかった。

 お師匠様やレイクさんに文字を習ったときも、地面に書いたり木片に書いたりしていた。


 それはともかくとして、書かれている内容は……


 ……読めない。

 いや、読める単語もあるけど、読めない物が多い。文法も使い慣れたものと違うっぽい。


 僕の様子に、レイクさんがため息交じりに言う。


「パドくんに読めるわけがないでしょう。この手の召集令状は文語体ですし、しかも王家のものはさらに分かりにくい古語が使われますから」


 わざわざ分かりにくく書いているのかな?


「ま、そうだろうな。レイク。代わりに読んでやれ」

「かしこまりました。と言っても、それほど長い内容ではありません。

 そのまま読んでも理解しにくいですから、口語体に訳します。

『キラーリア・ミ・スタンレード殿からの報告は受け取った。

 アル王女ならびに神託の子どもは手紙を受け取り次第、可及的速やかに王宮にて陛下に謁見すること』

 ざっと纏めるならこんなところですね」


 神託の子ども――要するに僕のことだ。

 謁見っていうのは、たぶん王様と面会するみたいな意味……だよね?


「えっと、つまり、王様が僕と会いたい?」

「額面通りに受け取るならそうなるな」


 アル様は吐き捨てるように言う。

 それはつまり、額面通りではない意図がこの手紙にあると、アル様は――たぶんレイクさんやバンティスさんも――考えているってことか?

 なんだろう。僕には分からない。

 僕が理解できない様子なのに気づいたのか、アル様が話し始めた。


「気になる点が1つ。おかしな点が1つ。それらによって生じる疑念が1つといったところか」


 ……と、言われても、さっぱりだ。


「気になる点は、国王が『神託』について知っているということだ」

「それって、おかしいんですか?」

「おかしいかどうかは微妙だな。

 そもそも、私に神託について教えてきたのは、テミアール・テオデウス・レオノル第二王妃――教皇の娘だ」


 国王第二妃が教皇の娘だということは聞いている。

 この世界には通信魔法のようなものがあるらしい。

 レイクさんが持つ魔石とテミアール妃の持つ魔石で通信ができるらしい。


「テミアールが王家で真っ先に神託について知ったのは、教皇の娘としてのコネだろう。教皇自身が話したかどうかまでは知らんがな。

 とはいえ、神託からすでに半年近く経っているからな。国王の耳に入る可能性は十分考えられる。テミアール自身が国王に教えた可能性も否定できんしな」


 確かに。

 テミアール王妃が話したかどうかは別として、国王だって教会とのコネくらいあるだろうし、情報なんて漏れるのが当然だ。


「だが、神託の子ども――ようするにパドを、私が連れて来たと知っている者はほとんどいない。テミアール王妃にすら話していない。

 ここにいる者以外で知っているのは、教皇、枢機卿くらいだ。もちろん、エルフや龍族は別だが」


 ふむぅ、『神託』そのものはともかく、今僕がここにいるという情報が漏れる余地はあまりなさそうだ。

 アル様が子どもを連れて来たという情報は調べられるだろうけど、それが即、神託の子どもと結びつくとも思えない。


 ちなみにセバンティスさんが神託について知ったのは、この手紙を読んでかららしい。つまり、漏らしたのは彼でもない。他の使用人たちは知りようがないだろうし。


「もっとも、ベゼロニアでお前が力を見せたことから推察された可能性はあるがな。あるいは先日の逃げた盗賊の口から漏れた可能性も0ではない。が、正直可能性は低いだろう」


 うーん、確かに。


「そして、おかしな点。こちらの方が問題だな。今の手紙の文言、気になる点はなかったか?」


 ――気になる点……そういわれてもなぁ。

 ――そもそも、文語体を口語体に翻訳してもらったわけだし……


 などと、僕が考えていると、リラが答えた。


「王様が書いたなら、『陛下に謁見すること』って書くのは不自然かもね」


 いや、それは気になったけど、単に翻訳するときにレイクさんがそう言い直しただけなんじゃ……と思ったけど、アル様の顔を見る限り正解だったらしい。


「リラの言うとおりだ。国王自身の書いた手紙ならば『報告に参上せよ』といったところだろう。『陛下に謁見すること』と国王自身が書くのは不自然極まりない。

 それらの事実から生じる疑念が『この手紙の本当の送り主は誰か』ということだ」

「え、だって、キラーリアさんは王様から手紙をもらったんじゃないんですか?」


 てっきり、キラーリアさんが直接王様に話して、そのまま手紙をもらってきたんだと思ったんだけど……ちがうのかな?


 僕の疑問を察したのか、レイクさんが解説してくれた。


「キラーリアといえど、国王陛下ご自身に簡単に会えるわけではありません。内務省を通し、内務大臣にアル殿下よりのお手紙をお渡しします。その御返答を持ってきたということです」


 つまり、キラーリアさんは王様に直接会ったわけじゃないんだ。それなのに5日もかかったのか。いや、むしろ何人も人を介して手紙をやりとりしたから時間がかかったのか。


「要するに、この手紙は国王の名を借りた何者かが出した――あるいは、国王に出させた手紙ではないかという疑いがあるということだ」


 王様の名を借りて手紙を出すって、そんなことできるのか?

 よくわからないけど、一般の人が――いや、貴族がやったとしても大罪なんじゃない?


 そんな僕の内心の疑問に答えるように、セバンティスさんが補足する。


「できるとすれば、テルキース殿下かホーレリオ殿下、あるいはフロール殿下でしょう」


 諸侯連立側の王子、王女たちか。


「まあ、ホーレリオではないな。小心者の文化人がわざわざこんな面倒なことはせんだろう。フロールが1番やりそうだが、実行したのはテルキースかもしれん」


 アル様の苦々しげな声。


「えーっと、それはつまり……」

「要するに、諸侯連立側の罠の可能性が捨てきれないという話だ。王の名を借りて手紙を書いて私とお前を呼びつけようとしているわけだ。

 目的は神託にかこつけた私の失脚、あるいはもっと単純に抹殺かもしれん」


 うわぁ。

 なんか、一気にきな臭い話に。


「とはいえ、だ」


 アル様は続ける。


「紛いなりにも国王からの召集令状だ。逆らえばそれこそ私は失脚する。

 罠かもしれないというのも、あくまでも限られた情報を元にした推論にすぎん以上、逆らうわけにもいかん。

 そもそも、あの王子たちにしたところで、お前の情報を得られるかといえば、国王と大して事情は変わらん。いずれにせよ、情報の出所は調べねばならん」


 どうやら油断はできないけど、事情が分からない以上行くしかない状況らしい。


 と、そこで僕は思い立つ。


「あの、情報の出所なんですけど、まさかルシフじゃないですよね?」


 その僕の問いに、アル様とレイクさんが嫌そうな顔をする。


 ――あれ、僕何かマズいことを言った?


 レイクさんがちらっと視線を横に――セバンティスさんの方へと向ける。


 ――あ、そうか、セバンティスさんにはルシフや『闇』のこと秘密だったんだっけ。


 アル様はため息をつきつつ。


「まあ、その可能性は否定できん。アイツは何を考えているのか未だにつかめないからな。

 だが、仮にそうだとしてもこちらにできることはあまりないだろう」


 王都を『闇』が襲う可能性だってあるわけだが――いや、それはセバンティスさんの前で言うべきではないか。


 なんにせよ、王都での戦いはまだ始まったばかりだった。

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