最強の妹

「僕の奥さんが考えた妹ものです……」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

公開日時: 2022年12月12日(月) 06:44
文字数:1,776


 テーブルに並べられた今夜のメニューは。

 肉じゃが、コロッケ、ポテトサラダ、ジャーマンポテト、じゃがバター、ポトフ、フライドポテト、じゃがいものきんぴら等々。

 主に芋をメインとした品々だ。

 これは全て妹香の大好きな料理であり、幼い頃から、俺が作ってきたものだ。

 

「いただきまーす」

「ああ、しっかり食べろよ。おかわりも、まだまだ沢山あるからな」

「嬉しい~ お兄様の料理がこの世で一番大好きです」

「ふふ。俺もお前の笑顔が何よりも嬉しいぞ」

 二人して見つめ合い、束の間の幸福を味わう。


 ただ、俺たちを囲む黒い空気清浄機が、非常にうるさい……。

 食事をしながらも、未だ妹香の放屁はとどまることを知らない。


「ぶっ、ぶっ……ぶぶぶ、ぶおおおお!」

 

 その度に、空気清浄機がレッドアラームを発動。

 爆音で強風を放つから、うるさいし、冷たい風が頬に当たる。

 そして、加湿機能も同時に作動するため、リビングは真っ白だ。

 視界が悪い中、晩飯を楽しむ。

 

 そうだ、俺の自慢の妹だって、アイドルの前にひとりの人間だ。

 妹香の弱点は、自制できない放屁だ。

 しかも、好物は芋類のみ。

 成長するに連れて、芸能活動に支障をきたすようになった。

 だから、プライベートを守るため、このタワーマンションの最上階にした。

 トップアイドルの剛田ごうだ 妹香まいかが、鼻がひん曲がるほどの悪臭を、可愛らしい小さな尻から連発するなんて……。

 スクープされた日には、俺たちの今の生活は破綻するだろう。


 俺と妹香の平和を脅かす存在は、排除しなければならない。

 ファンだろうが、ストーカーだろうが、マスコミだろうが、一般人だろうが、全て排除する。

 誰もこの幸せを壊す事は許されないのだ。


  ※


 妹香の身体は、どんどん成長する。

 つまり、その分、新陳代謝が激しくなり、放屁の回数も劇的に増えるということだ。

 俺以外には、女性のマネージャーさんだけが、この事を把握している。

 マネージャーさんがよく俺に電話をかけてくる。



『兄くん! 大変よ! 妹香ちゃんの“発作”が起きそうよ!』

「わかりました。今どこですか?」

『港でロケ中なの、今はロケバスに私と二人よ! もう出そうって泣いているわ!』

「俺に任せてください。秒で着きます」

 

 地下の駐車場へ向かい、バイクに乗り込む。

 夜の国道をフルスロットルで走らせ、港に到着。


 ロケバスの中で妹香は、顔を真っ青にして、縮こまっていた。

 それを見るや否や、俺は駆け寄り、抱きしめてあげる。


「妹香っ! お兄ちゃんが来たぞ、もういいぞ!」

「あ、お兄様……マネージャーさんは?」

「いない。二人きりだ」

 そう言うと安堵からか、涙を流す。


「ぶおおおおお! ぶぅっ!」


 車内は心なしか、黄色に染まった気がする。



 他にも学園内でトラブルは多々ある。

 俺と同じ高校に入学した理由は。

「少しでも二人きりでいたいから」

 というのもあるが、それよりも……。


 

 授業中、スマホのブザーが鳴る。

 着信名は……妹香。

 聞けば、発作が止まらないそうだ。

 女子トイレの個室で出せるが、他の女子生徒に噂を流されそうで、怖いらしい。


 俺はすぐに教室を飛び出る。

「おい! 剛田、授業中だぞ!」

 担任の教師が注意してきたが、構わず廊下に向かう。

「すいません! 腹が痛いんでトイレです!」

 そう言うと、妹香のいる下の階まで階段を駆け下りる。

 この間も耳から受話器を離さない。

「今、どこだ?」

『お兄様……妹香は一階の廊下にいますわ……』

(くっ! この声、かなりきているな。急がねば!)


 一階に降りると廊下で、一人座り込む妹香の姿が。

「妹香! もう出るんだろ!?」

「はい……持ちませんわ」


 辺りを見回すと、近くにあったスチール制のロッカーが目に入る。

 本来なら、掃除用具を入れる時に使うものだ。

 俺は妹香の腕を引っ張って、狭いロッカーの中に二人して逃げ隠れる。

 扉は閉めた、これなら誰からも見られない。


「いいぞ、妹香」

「ごめんなさい。お兄様……」


「ぶおおおおお! ぶーーーーっ! ぶりゅ、ぶふふっ……」


 いつもより長くうるさく、そしてとても臭く感じた。

 だが、これでアイドルである妹香の名声は保てた。

 この大罪は俺が背負う。


 妹香には教室へ戻るように促す。

 俺は少し時間をずらして、扉を開けた。

 もうその時には、チャイムが鳴っていて、休み時間だ。


 たくさんの下級生たちが、俺を見て、鼻をつまむ。


「くっせ!」

「うえっ!」

「最低な奴」


 こんな言葉、妹香の労働に比べれば、なんてことない。

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