最強の妹

「僕の奥さんが考えた妹ものです……」
味噌村 幸太郎
味噌村 幸太郎

公開日時: 2022年12月12日(月) 06:35
文字数:1,496


 俺の妹は、可愛い。

 最高に、最強に。

 世界で誰よりも美人だし、頭も良い。

 スポーツも万能。


 年子で生まれた兄の俺と同じ高校に通っている。

 性格も良いし、男女関係なく、誰からも愛されている、自慢の妹だ。

 勉強で言えば常に校内でトップをキープ。

 所属しているテニス部にて、全国大会で優勝をおさめ、また世界記録を塗り替えた持ち主。

 またプライベートでは、芸能活動。

 日本で今、一番売れに売れているアイドルとして、世の男たちを虜にしている。


 死んだ父親似の俺とは全然違う。

 兄である俺といえば、妹と比べて、全てが凡人。

 唯一、得意な事は料理や家事ぐらいか。


 幼い頃、両親を失って以来、兄妹二人でどうにか暮らしてきた。

 家計を支えてくれるのは、3歳から芸能活動を精力的に頑張ってくれた妹だ。

 子役として、CMなどでちょこちょこ仕事をこなし、気がつけば、今ではこの日本におけるアイドルのトップに君臨する。

 これも全て俺たちの生活のためだ。


 どうしようもない兄の俺を支えてくれるため、妹は日夜、学業と仕事に励んでいる。


 その名は……。


「おい、聞いているのか? けい?」

 教室から窓の外を眺めていると、クラスメイトが話しかけてきた。

「ん? なんのことだ?」

「兄~ そりゃないぜ~ お前さ、妹香まいかちゃんの兄貴だろ~ サイン入りの写真とかくれよ~」

「あぁ……またその話か。悪いが友人だからと優遇するわけにはいかん。公式のファンクラブで抽選会とかやっているはずだ。そこでゲットしてくれ」


 俺の周りには、こういう輩がよく訊ねてくる。

 大半はアイドルである妹狙いだ。

 断じて、俺が阻止する。


 妹香は血さえ繋がっていなければ、俺が結婚したいぐらい可愛いんだ。

 実の兄である俺でさえ、その魅力に毎日やられそうだと言うのに。


 俺たちの暮らしを脅かすような存在は排除する。

 それが兄妹の掟でもある。


「おにーさまぁ!」

 

 噂をすれば、妹香の登場だ。


 艶やかな長い黒髪を揺らせて、俺の元まで走ってくる。

 制服のスカートがヒラヒラと左右に踊る。

 丈が短いせいで、僅かに下着がチラチラと目につく。

 今日はピンクのレースか。

 俺が兄じゃなければ、告白したいぐらいだ。



「妹香。仕事上がりか?」

「うん! ドラマのロケが終わったから、少しでも早くお兄様にお会いしたくて……」


 なんて上目づかいで、頬を赤くする。

 よく見れば、額に汗が滲んでいた。

 そんなに俺に会いたかったのか。

 愛らしい。


「ああ、俺も会いたかったよ、妹香」

 ズボンのポケットからハンカチを取り出し、妹香の顔を優しく拭いてあげる。

「お兄様。妹香は幸せでございますわ……」

 慎ましいが、俺への愛はブレることがない。

「ふふ。じゃあ、今晩はお前の好きな料理を作って待っているよ。まだ仕事が残っているんだろ?」

「はい……寂しいです。でも、お兄様の料理があるなら、妹香、お仕事も頑張れます!」


 なんて健気に両手で拳を作ってみせる。

 俺は妹香の頭を優しく撫でてやった。



 先ほどのクラスメイトが、俺たちのやり取りを見ていて、ぼやく。


「いいなぁ~ あのトップアイドルの妹香ちゃんと二人暮らしかぁ……きっと女の子らしい可愛い部屋なんだろなぁ。甘い香りがふわ~ってしてさぁ。一度でいいから遊びにいきたいぜ」


 俺はそれを聞いて、咄嗟に叫び声をあげる。

「おい! それだけはダメだ!」

 彼の『香り』という言葉に動揺したからだ。

「な、なんだよ。急に……兄」

「ダメと言ったら、絶対にダメだ! いくら友達でも我が家には一歩も踏み入れることは許さん! 妹香は俺が守る!」

 興奮しているせいか、ずいっと彼に顔を近づけて、睨みをきかせる。

「わ、わかったよ。アイドルだもんな、ハハハ」

「そうだ。妹香は特別なんだ……俺にとってな……」

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート