同好怪!?

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第7話(3)参りました

公開日時: 2025年3月10日(月) 12:54
更新日時: 2025年3月22日(土) 16:21
文字数:2,208

「……はい、すみません……失礼します」

 俺はそう言って、学園への電話を切った。

「ズズッ……」

 俺は鼻水をすする。もしかしなくてもまだ風邪である。昨日多少元気になったからと言って、はしゃぎ過ぎてしまったのがいけなかった。

「ふう……」

 薬を飲んだ。効き目はやはりあるようで、起きたばかりよりは大分体が楽だ。しかし、油断は禁物。今日はとにかく大人しくしておこう……。

「♪」

 ん? なんだ? インターホンが鳴ったぞ。特に何も注文はしてはいなかったはずだが……とにかく応答する。

「……はい」

「おはようございます、村松先生」

「!」

 俺は驚いた、何故なのかは知らないが、ドアの外に眼鏡のよく似合う優等生……疾風晴嵐がいるのだ。俺は戸惑い気味に玄関のドアを開ける。

「参りました」

 疾風はギリギリ冷徹さを感じさせないほどのテンションで呟く。

「……道場破りならお断りだが」

「ギャグを言うほどの元気はあるようですね。それほど面白くはありませんが」

「ぐっ……何の用事だ?」

「風邪をひいた方にお見舞い以外の用事がなにかありますか?」

 疾風は手首に提げたドラッグストアのビニール袋を見せてくる。

「……気持ちだけありがたく受け取っておくよ」

 俺はドアを閉めようとする。疾風はさっと、長い足を伸ばし、ドアを閉じるのを防ぐ。

「……ちょっとお待ちください」

「風邪が移るといけない。それにお前、学校はどうした?」

「……いわゆるひとつのサボりですね」

 疾風は眼鏡をクイっと上げる。

「ん~どうでしょう? ……じゃなくて、今からでも行きなさい」

 俺は再度ドアを閉めようとする。

「繰り返します、ちょっとお待ちください。『優等生のおみやげ』、食べたくありませんか?」

「……自分で優等生って言っちゃうのか……。まあ、確かに間違いではないんだが……分かったよ、おみやげだけありがたく受け取っておくから……」

「そもそも村松先生が一昨夜言ってきたのですよ、『お前らのことをよく知りたい』と……」

「⁉」

 俺は疾風を見つめる。疾風はいつものとおりのポーカーフェイスだ。ふざけているわけではないようだ。俺は疾風を部屋に入れる。

「おじゃまします……意外と片付いていますね」

「……ええっと」

「はい?」

 俺より先にリビングに入った疾風が振り向く。

「俺が一昨夜言ったことだが……」

「これですね」

 疾風は自分のスマホを見せてくる……うん、同好怪三人のグループRANEに、俺が『お前らのことをよく知りたい』という文を送信している。

「ああ……」

 俺は軽く頭を抑える。一昨夜の軽率な行動を再び恥じる。

「村松先生は今日もお休みだと聞いたもので、こうして参った次第です」

 疾風は再度眼鏡をクイっとする。

「ああ……そうか、分かった。しかし、悪いが今日は帰ってくれ。繰り返しになるが風邪を移したらいけないからな」

「大丈夫です。そんな弱弱しい体ではありませんから」

 疾風は右手を俺の顔の前にグイっと突き出す。

「しかしだな……」

「なんてったって……『怪異』ですよ?」

 疾風はどうだとばかりに胸を張る。俺はハッとする。

「! そうだ……それについて聞きたかったんだよ」

「……お見舞いをさせてくれたら、話すかもしれません……」

「……分かった。おみやげをご馳走になろうか」

「どうぞ」

 疾風がビニール袋からある物を取り出し、俺の顔の前に突きつける。ゼリー飲料だ。

「こ、これは……」

「おみやげです」

「えっと……」

「効率的に栄養分を摂取出来ます。ちなみにこれは私のおすすめです。どうぞ」

 俺はゼリー飲料を口にする。

「……美味いな、そうか……こうやって何事においても効率を優先した結果、怪異に肉体を乗っ取られてしまったわけか」

「全然違います。意味不明な論理です。まだ熱があるのでは?」

「そうか」

 強めの語気で否定された。熱はある程度下がったはずなのに、顔が赤くなってしまう。

「ふむ……やはりバウアーとアルベルトが巨星でしたね」

「……」

「予想通りです」

「………」

「ですが、面白いですね『乱撃の巨星』……評判になるだけのことはあります」

「…………何をやっているんだ?」

 ベッドで寝ている俺の横で漫画を読んでいる疾風に尋ねる。

「どこからどう見ても看病ですが」

「どこがだよ、帰れよ」

「読み終わったら帰ります」

「貸してやるよ」

「それには及びません。このペースならもうすぐ読みおわります」

「あのな……」

「私もうっかり秘密について話してしまうかもしれません」

「ちっ……」

 俺は舌打ちしながら目を閉じる。しばらく経って目を開けると、パソコンの画面を見て笑いを必死で抑える疾風の姿が目に入ってくる。

「ふふふっ……」

「……何を観ているんだ?」

「ネトフレです」

「勝手に人のアカウントで……バラエティー番組か?」

「いいえ、『生まれたてのセシル』です」

「わ、笑える要素あったか?」

「むしろ笑える要素しかありませんよ」

 疾風はズレた眼鏡を直す。

「そ、そうか、まあ、感性は人それぞれだからな……って、もう帰れよ」

「もう少々、このエピソードを観たら……」

「ったく……」

 それからまたしばらくして……。

「……はい、勝ちです」

「くそ、何度やっても勝てない!」

「先生、私にゲームで、しかも『ロミオカート』で勝とうだなんて甘いです……」

「もう一度だ!」

「良いですよと言いたいところですが、こんな時間ですし、そろそろ帰ります」

「あ、ああ……」

 疾風は帰宅する。秘密については聞けずじまいだった。またなにやってんだ、俺……。

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