同好怪!?

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第7話(4)徒歩で来た

公開日時: 2025年3月22日(土) 17:34
文字数:2,210

「……はい、すみません……それでは失礼します」

 俺はそう言って、学園への電話を切った。

「ズズズッ……」

 俺は鼻水をすする。ひょっとしなくてもまだまだ風邪引きの身である。昨日ちょっと元気になったからと言って、はしゃぎ過ぎてしまったのがいけなかった。

「ふう……」

 薬を飲んだ。効き目はなかなかあるようで、起きたばかりよりは大分体が楽である。しかし、これ以上の油断は禁物。今日という今日はとにかく大人しくしておこう……。

「♪」

 ん? なんだ? インターホンが鳴ったぞ。何も注文はしてはいなかったはずなのだが……とにかく応答する。

「……はい」

「うーっす、村松っちゃん」

「!」

 俺は驚いた、何故なのかは知らないが、ドアの外にスカートと気の短いヤンキー……紅蓮龍虎がいるのだ。俺は戸惑い気味に玄関のドアを開ける。

「徒歩で来た」

 紅蓮は片拳を掲げて呟く。

「……プリクラでも撮ってきたのか?」

「後で気が向いたらな」

「……何の用事だ?」

「お見舞いだよ、お見舞い」

 紅蓮は手首に提げたドラッグストアのビニール袋を見せてくる。

「……お礼参りじゃなく?」

「オレにどういうイメージ持ってんだよ……」

 紅蓮が目を細める。

「……気持ちだけありがたく受け取らせてもらうよ」

 俺はドアを閉めようとする。紅蓮はがっとドアを掴む。

「……ちょっと待ちなって」

「風邪が移るといけない。一応聞くが、お前、学校は?」

「はっ、んなもんサボりに決まってんだろ」

 紅蓮は胸を張る。

「威張るな、今からでも行け」

 俺は再度ドアを閉めようとする。

「だから待ちなって。『ヤンキーズフード』、食いたくねえのか?」

「自分でヤンキーって言うな……分かった、それだけありがたく受け取っておくから……」

「つーか村松ちゃんがこの間言ってきたんだろ、『お前らのことをよく知りたい』って……」

「⁉」

 俺は紅蓮を見つめる。紅蓮はいつものとおりの勝気な表情だ。別にふざけているわけではないようである。俺は紅蓮を部屋に入れる。

「おじゃましまーすっと……へえ、意外と片付いてんな」

「……ええっと」

「ん?」

 俺より先にリビングに入った紅蓮が振り向く。

「俺がこの間言ったことだが……」

「これだよ」

 紅蓮は自分のスマホを見せてくる……うん、同好怪三人のグループRANEに、俺が『お前らのことをよく知りたい』という文を送信しているね。

「ああ……」

 俺は頭を抱える。三日前の軽率な行動を三度恥じる。

「村松っちゃんが今日も休みだっつうから、こうしてやってきたんだよ」

「ああ……そうか、分かった。しかし、悪いんだが今日は帰ってくれ。繰り返しになるが風邪を移したりするといけないからな」

「心配すんな。そんなヤワっちい体じゃねえから」

 紅蓮は右腕を曲げて力こぶを作るポーズを取る。

「しかし……」

「なんつったって……『怪獣』だぜ?」

「! そうだ……それについて聞きたかったんだよ」

「……お見舞いをさせてくれたら、話すかもしれねえな……」

「……分かった。ヤンキーズフードとやらをご馳走になろうか」

「ちょっと待ってな……えっと……よし」

 紅蓮からスマホを操作する。しばらくすると、俺の家に宅配ハンバーガーとコーラが届く。

「こ、これは……」

「ヤンキーズフードってやつだ」

「ええ……いや、まあ、ある意味ヤンキーズフードか……しかし風邪には……」

「この店は食いやすいんだって。ちなみにこれはオレのおすすめな。さあさあ食いな」

 俺はハンバーガーとコーラを口にする。

「……美味いな、そうか……こういうアメリカンな食事を取ることによって、ダイナミックな怪獣と肉体を同化させたわけか」

「全然違えよ。わけわかんねえこと言うな。まだ熱があるんじゃねえか?」

「そうか」

 にべもなく否定された。熱はかなり下がったはずなのに、顔が真っ赤になってしまう。

「ああん⁉ バウアーとアルベルト、巨星かよ! マジか……」

「……」

「信じていたのによ……」

「………」

「だけど、面白いな『乱撃の巨星』……人気になるのも分かるぜ」

「…………何をやっているんだ?」

 ベッドで寝ている俺の横で漫画を読んでいる紅蓮に尋ねる。

「何って、看病だろうが」

「どこがだよ、帰れよ」

「これ読み終わったら帰るよ」

「貸してやるよ」

「良いよ、オレは読むの結構早ええんだよ。小難しいところは飛ばすからな」

「あのな……」

「ついうっかりと秘密を話しちまうかもしれねえぞ?」

「ちっ……」

 俺は舌打ちしながら目を閉じる。しばらく経って目を開けると、パソコンの画面を見て興奮する紅蓮の姿が目に入ってくる。

「うおおっ!」

「……何を観ているんだ?」

「ネトフレだよ」

「勝手に人のアカウントで……格闘技の試合か?」

「いや、『善良天使』だよ」

「こ、興奮する要素あったか?」

「むしろ興奮する要素しかねえよ」

「そ、そうか、まあ、感性は人それぞれだからな……って、もう帰れよ」

「ちょい待ち、このエピソードを観たらな……」

「ったく……」

 それからまたしばらくして……。

「……はい、勝ち~」

「くそ、何度やっても勝てない!」

「村松っちゃん、オレにゲームで、しかも『金太郎鉄道』で勝とうだなんて甘えよ……」

「おかしい、頭を使うゲームなはずなのに……もう一度だ!」

「なんか引っかかる言い方だな……別に何度だって構わないぜ! ……と、言いてえところなんだが、もうこんな時間だ、そろそろ帰るぜ」

「あ、ああ……」

 紅蓮は帰宅する。秘密については聞けずじまいだった。またまたなにやってんだ、俺……。

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