「というわけで、えっと松村藤吉先生……」
「……村松藤次だよ」
「はっ、これは失礼いたしました! なにぶん文系なもので、先生とこうしてお話をさせていただくのは入学して以来、初めてのことで……」
「まあ、別にいいけれどさ……」
「……あらためて、村松藤次先生……よろしいでしょうか?」
「えっと……」
「はい?」
「そのカメラは必要なの?」
「ええ、密着取材ですから」
放課後、同好怪の部室に残っていた新聞部の彼女はスマホをこちらに向けながら頷く。
「密着取材って……なんで俺を撮る必要が?」
「まずは顧問の先生からお話を伺おうと思いまして。インタビューです」
「インタビューと言われてもな……」
「お茶でも飲んで気軽にお答えください」
「気軽って……」
俺は自らの後頭部を軽く抑える。
「まず、簡単な質問から……三人の生徒がおりますが……」
「うん」
俺はペットボトルのお茶を軽く口に含む。
「……ぶっちゃけ、誰が好みですか?」
「ぶふっ⁉」
俺はお茶を噴き出してしまう。
「おっと⁉」
「な、なにを聞いてくるんだよ⁉」
「軽いジャブからと思いまして……これはひょっとして……」
「ひょっとして?」
「図星ってやつですか? 意中のお相手がいらっしゃるという……」
「い、いるわけないだろうが! 教師と生徒だぞ!」
「そうですか」
「そうだよ」
「では……この同好怪?とやらはどういった活動を行っているんですか?」
「……」
「先生?」
「………」
「あの~?」
「…………」
「えっと……黙ってしまわれると困るのですが……」
新聞部も困惑するが、俺も困惑している。まさか、これまで見たまんまを馬鹿正直に話すわけにもいかないだろう。大体言ったところで頭がおかしい奴扱いされるのがオチだ。
「……………」
「黙秘ということですか? ……それはあれですか? よっぽどなにか人に聞かれたら困るようなことを行っていると考えても?」
「! い、いや……」
俺は少し慌てる。そうだ、なにか言わないと逆に怪しまれてしまうのか――もう既に怪しいと言われればそれまでなのだが――さて、どうしたものか……?
「いや……なんですか?」
新聞部が首を傾げる。
「フィ、フィールドワ―クを行っているんだよ」
「フィールドワーク?」
「ああ」
「こんな暗くなってからですか?」
「そ、そうだ」
「ああいうのって、昼間に行うものなんじゃないですか?」
「この地域に伝わる怪談の類を調査するにはこれくらいの時間がちょうどいいんだよ」
「怪談?」
「ああそうだ、怪談だよ」
「……同好会の会の字が怪の字なのは、そういうことなんですか?」
「そ、そうそう、そういうこと」
俺は首を縦に振る。
「ふむ……」
「納得してもらったかい?」
「……気にかかる点が……」
「な、なんだよ?」
「先生は理系の教師ですよね? 怪談なんて非科学的なことを調べようだなんて馬鹿馬鹿しいとお考えにならないんですか?」
「うっ……あ、あれだよ、生徒たちの興味関心を大人が一方的にかき消してしまうのも良くないことだと思ってさ。言い換えれば、自主性の尊重とでも言うのかな?」
「むう……」
「もういいだろう? 時間も遅いから君もそろそろ帰りなさい」
「……お三方にも話を聞こうと思います。皆さんにも部室に入ってもらいましょう」
新聞部は廊下などに出ていた疾風たちを呼びに行く。
「………………」
「あらためて自己紹介をお願いします。紅蓮さんから」
「必要か? 紅蓮龍虎……」
「疾風晴嵐です」
「カメラ回ってる? 綺麗に撮ってね♪ 雷電金剛だよ~」
「……まあ、お三方とも学園きっての有名人なので、今さらと言えば今さらなのですが……」
「おいおい、じゃあなんで聞いたんだよ……」
紅蓮が呆れ気味に呟く。
「成績優秀、品行方正な疾風さん」
「はい」
「人望の厚く、誰からも好かれる雷電さん」
「は~い♪」
「修羅の道を往き、既に夜叉と化している紅蓮さん」
「ちょっと待て」
「お三方は三者三様のお人柄です」
「オレは人扱いされてねえけど⁉」
紅蓮が声を上げる。
「こう言っては失礼かもしれませんが……」
「もう十分失礼だぞ!」
「お三方がそれぞれにご交流があったというのは意外です」
「そうでしょうか?」
疾風が首を傾げる。
「ええ、そうです」
「……一つ訂正させて頂いても?」
「はい、なんでしょうか?」
「ここにこうして一緒にいるからといって、交流があるというわけではありません」
「? では……?」
「単なる腐れ縁です」
「く、腐れ縁⁉」
新聞部が戸惑う。
「まあ、それはそうだな……」
「もっとかわいい言い方しても良いと思うけど……」
紅蓮が頷き、雷電が苦笑する。疾風が眼鏡の縁を触りながら呟く。
「……よろしいでしょうか?」
「い、いやいや! もう少し、お三方の共通項について深掘りをですね……うん⁉」
黄色い光を放つ発光体が部室に入ってくる。
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