「でね、聞いてくれる？この前、流れ星を見たの。
この町で見る初めての流れ星。
そのときね、これを誰かに伝えたいなぁと思って…。
そこで、ぱっと浮かんだのが、玲、あなたの顔だったのよ。
いつか一緒に見てみたいね 沙世子」

のウインドウは開きっぱなしだ。

潮田玲は夢見るような表情で窓の外に視線を上げた。
（ほんと、一緒に見られるといいよね）
…と、一度両手で顔を拭った後、一転して夢から覚めたように、「って一体どういうつもり？　だいたい、貴女ねぇ！　こっちから返事のメール出しても梨のつぶてだしさ」と急にひとりで毒づきはじめた。

同時刻、向かいの窓辺で黒髪の少女が肘をついていた。

「ねぇ、きいてるの？この間、ほうき星をみたの。この太陽系で初めて見るほうき星。
そのときにね、この気持ちを誰かと
で、ぱっと思い浮かんだのが、ソニア、あなたの顔だったのよ。
いつか一緒にみようね。…ねぇー……」
コムにむつごとが流れていく。

サンダーソニアは夢見る表情で、
窓の外を見つめた。

■体育館裏の木陰

「……………………」

二人の乙女の独白を聞いていたボクは思わず絶句してしまった……まさか二人がそういう仲とはな……。しかもサンダーソニアが玲のことを好きになってるなんて想像もしなかったことだからだ……。確かに言われてみれば思い当たることはあるような気がするが。それにしても……二人とも自分の恋心には鈍感なんだな……。

しかしこれは…？！
何かあるに違いないっ。

二人の想念的な関係をボクは想像してしまった。何だろう。ドキドキしてきた。そろそろひんやりと冬色を帯びた風がボクのプリーツスカートを揺らす。
まぁ、ボクだって身も心も乙女であるからしてその時の体調や感情で世界観が極端から極端へ揺れる。
それでも学級委員長としては、不倫はよくないと判断するよ。

沙世子は玲に徹底的な塩対応を貫いている。
何か二人の間に何か秘密を抱え込んだのだ。

二人は俺の想念的な関係であるとか何とか関係してる感じになってる。
そう言われたら自分まで恥ずかしくなってきた。

いやいやまあ、あの二人はあれだけ露骨なアプローチをしているのに気づいていないし。
そんなバカなことがあるわけない。うん。そうだよ……。
でも、もしそれが本当だとしたらそれはきっとお互い様だよね。
うん？
なんかおかしいぞ？
そもそも玲ってソニアのこと好きなんじゃなかったっけ？
いつからこうなったんだろう。
ああもう訳わかんない。
ここの先生も用務員も出入する業者のオネエサマがたも美人ぞろいだ。
百合の花が咲き乱れてる。
ボクは女の子だけど彼女らみたいに繊細じゃない。だからますます分からない。
ボクの思考回路はもはや完全にオーバーヒートしている。

自分の頭を冷やそうと、保健室の方に向かった。セーラー服のリボンごしにボクの胸がざわめいた。

「それは私の方から話して…」
エルフ耳の先まで真っ赤に染めた金髪少女が憤っていた。
「うっさいわね！　あたしの耳はロバの物でも地獄産でもないわ！」
サンダーソニアは普通の娘じゃない。それで腫れ物扱いされる待遇が不満らしく通りすがりのボクを睨んだ。
まずい。立ち聞きがばれてる。

ボクは観念して、
玲の想念をこの場で二人に伝えた方がいいと思い
「えっとね、そのことでまた少し話しがあるんだけど……」
「あっ、何？　何かあった時のためにちゃんと話しっ」
「ちょっと待ってくれ、今日はもう学校終わったし、もう帰る時間じゃないか？　なんでそんな話をするんだ？」
「え……だって今日は午後から用事があって遅くなるから、それに……」
「はぁ、そうか。それじゃあ、仕方ない、
今日はもうお開き、ボクも帰るからねっ」

そう言って急いで席を立った。
そして、そのまま職員室の方へ行き、教師に洗いざらい話した。
「貴女も盗み聞きはよくありませんわよ」
担任のササヤマは釘をさした。
「でもボクは『いいんちょ』ちゃんですから」
華は清楚たれ、という掲示を見やり、ひらりとスカートを揺らす。
「まぁ……ええ、そうでしたわね」
ササヤマはどぎまぎした。彼女はオールドミスだ。指導査定は婚活に響く。
イニチアチブを握ったボクは先手を打つ。
「この件について、ボクに任せて貰えませんか？」
と頼んだ。
「はい……、はい、分かりました。」
ササヤマはたじたじだ。
「よろしくお願いします」

「あぁ、あと、後ろの二人も……」
ササヤマがそういう。
つられて職員室の扉の方を見ると………。
「おっ、来た来た。」
「あぁ、悪い。じゃあ、行こっか。」
「うん、また後で。」
そう言って職員室に戻る二人の二人の様子を、ボクは唖然と眺めていた。

（というわけだ……）
と言って聞かせると玲は目を輝かせ、興奮した口調になった。

一方の沙世子は黙って俯いていた。
その時の彼女はどんなことを考えていたのだろうか。

〇潮田玲視点

（やれやれやっと解放された……でも良かった、これでやっと帰ることができる）と安心している私だったが、
「ちょっと、待ちなさいよ」
という声をかけられてしまったので仕方なく振り向いた。

すると目の前に、例の問題の教師がいるではないか。しかもなぜか怒っている。
 きっと私が沙世子にしつこく話しかけたことに対しての怒りだろうと予想がついた。
なので、素直に謝ることにしておいた……のだが…… なぜか更に怒ったようで「どうしてあんな風に彼女にしつこく絡むようなことをしていたの？」とカンカンに怒っていた。

「……すみません」と言うしかなかった
……だが、次の瞬間、耳を疑う言葉を耳にしてしまうのだった
「……ねぇ、君たちは付き合ってるの？」

は……は……？今なんて……！？……

（どういうことだ……？）
と思わず聞き返してしまうところだった。
まさか先生の口からこんな言葉が出るとは夢にも思わなかったからだ……まさか私たちの関係がバレている……？と思ったもののどう見ても、そんなことは無さそうな様子だったのでひとまず落ち着いて考えてみることにすることにした……。

しかしいくら考えようとしても、そんな可能性はまず考えられないのだから結論など出てくるはずもなかった
いかんせん今まで全く接点がなかった人物なのだから無理もない。ではいったい何故いきなりそんな事を言ってきたのかという理由がわからない。
しかし、仮にそうではないにしてもこの人に知られてはいけない気がしたのでとりあえず否定しておくことにした。すると「そっ、それならいいのよ」と言われて解放された。
あそこまで焦ったササヤマを見たことがない。

その様子を見つめていたサンダーソニアの目つきはとても鋭かった。

* * *

サンダーソニアは思う ――まさか先生までがソニアのこと狙ってたなんてね……。

潮田玲は考える。体育館の裏で着替えているときになんで急にそういう話を振ってくるんだろう。

――それにソニアはあの先生のことが好きだったはずだし……一体どういうことだろう…… 二人はお互いに相手の出方を伺いながら考えているのであった……。
リボンを結び終える。
そして二人は同時に動き出した。
「あっ、待て！まだ話はまだ終わってない！」
そう言って追いかけようとする、その女の襟元を掴むサンダーソニアの姿がそこにはあった。

「よしっ……、なんとか間に合ったみたいね……。玲、あなただけは私のそばを離れさせないんだから……。絶対に離さないから……」
エルフの女はしつこい。もともと集団の外に異性を求める種族だけに同性の連帯はブラックホールよりも粘着している。さもなくば群れがバラバラになってしまう。実際に奪った子の養育を放棄したり、連れて男の元へ走る例が後を絶たなかった。再発防止のためにエルフの女は冷凍あずきより意固地になった。

まぁ、そういう理由で女子高に留学生の枠が設けられた次第。これも人間と妥協の産物。森の古老が魔法をしくじってエッジワース・カイパーベルト探査機とやらを収穫した結果だ。惑星地球との交通が開始した。

とにもかくにも行動開始だ。
ボクこと山崎静奈――エルフ名シュテルンは表層意識を打ち砕いて浮上する。
目的はもちろん篭絡だ。成績優秀な特待生として編入した。ボクの耳は少しだけ尖ってるけど艶やかな黒髪に目を奪われて誰も気づかない。
二つ名は流星群。エルフの女おさラウムから密命と御名を授かった。
恋の呪文もだ。この学校はボクがいただく。そうすれば晴れてになれる。
おとなの女は群れの外で男と遊んで子供を奪ったり連れて帰ったりする。
星は自由だ。
山崎静奈の心はどんどん溶けて行った。もう「いいんちょちゃん」じゃない。
だ。族長から勢力拡大の密命を受けて来た。

シュテルンの意識が頭角を現す。
（なんだ、こいつ、急に……まあいいか、それよりこの子可愛いなぁ……玲と一緒にいたし……この子が彼氏なのか……、それじゃこの子と付き合えれば玲のことも……）

ボクはどんどん近づいていく。

「なんですか？　私に何か用？」
「君はえーっと……」
「……潮田ですけど……」
「え？　しおだあ……？ん？え？」
そして、少しの間考えた末に……、
「……ああぁ〜！！！」
ボクはうろたえた。
（しまったぁぁぁあ！こいつは確かあの超有名な潮田財閥のお嬢様じゃないか！人間界で最も成功した実業家の一つである。
そして噂だと今は玲の恋人らしい……。やばいなこれ……。
でもなんか見た感じ全然怖くなさそうだぞ？いやもしかするとあれは演技か？それとも見た目はこんなだけど本当はめちゃめちゃ怖い奴とか……どっちにせよこれはまずいなぁ……。
ここは適当にお茶を濁すだけにするか）
「で、半グロのおんなが何の用？」
潮田はお嬢様全開で睨みつける。まるで巣を守る猛獣だ。
「べ。別に、なんか、勘違いして悪かったな。」
あくまで平然を装う。心臓は破裂しそうだ。
探るような目線。
（はあ……早く行かないと……でも……どうしたらいいんだ？）
「じゃ、ボクはもう行くからまた明日……」
立ち去ろうするとグイっと腕をつかまれた。
「ちょっと。聞きたいことあるんじゃなかったの？」
「へっ？　し、知らないわ」
ボクはしおらしくしらを切る。
「ほぉーんとぉに？」
そう。潮田はマジでしつこい。
「ねぇ……私、急いでるんですけど……、」
「へぇ……そうなの。それは邪魔をして申し訳なかったわ。じゃあまた明日にでも。」
「でも、塾に行かなくちゃ。バスが来るの」
そう言って逃げようとするボクに向かって思いっきり言い放つ。
「何その舐めた態度？　ちょっと調子に乗りすぎじゃない？」
一瞬にして空気が変わった。
「ひっ……！？」
（やべぇよ、ボク殺されちゃうんじゃねえの……！？あの顔マジだろアレ……、どう見てもやべえって！！やめてくれ……死にたくない！！！）
そう思った時にはもう既に遅かった……
「私さぁ、あなたのこと嫌いかもぉ〜」
と彼女が呟いたと同時に俺は彼女の手から出てきた光に包まれた。その光を浴びた瞬間、まるで身体中の力が一気に抜けたかのような錯覚に陥った……、そのまま、意識を失った……

（ん……どこここ……、そういえば昨日寝落ちしてしまっていたんだった……。それにしても変なことになってないといいけど……）と思いつつゆっくりと目を開ける。
そしてそこに映ったものとは…… ボクの顔を見つめながらニヤッとして、手を繋いでいる二人の女だった…… そう、つまりボクが目覚めた場所は学校の自分の教室だった。

目の前には見覚えのある機械が積んであった。
通心機だ。
「コム？！」
思わず口に出す。
「そうよ。これをソニアと沙世子にしかけたのはあんたでしょ？」
アーモンドのような瞳がにらみつける。
どうやらバレているみたいだ。
「えっと、その」
「ごまかしても無駄よ。証拠は全部あがってるんだからネッ」
玲の後ろからキスマークだらけのササヤマが出てきた。
「げぇっ、か……」
三国志武将の名前を慌てて飲み込んだ。
「関羽でもこんなヒドい計略はしないわ。学級委員長の立場を利用して混乱に陥れようとはね」
ハイヒールでゲシゲシ踏まれる。
「えっと…何の話かしら。ボクは」
バシッと目から火が出た。かかと落としは痛すぎる。
床に転がってうめいているとササヤマが暴露した。
「ごめんなさいね。でも私だって評判を落としたくないのよね～。お見合いが控えてるし」
担任は生徒より個人の幸せを取った。
潮田が続ける。
「ラウムに言われたんでしょ。人間の学園を篭絡して来いって。機械も渡されて」
ぐうの音も出ない。
ボクはしかたかく白状した。
「えっと、エルフの奥義を持ち出して転売する不届き物がいるって」
「それで山崎静奈の人格をかぶってノコノコとあらわれた？」
潮田が目線を動かす。サンダーソニアは黙りこくっている。
「ノコノコって……ボクは嵌められてたんですか？！」
考えるより先に疑問が飛び出した。
「そうよ。平たく言えばおとり捜査。人格憑依術を悪用してエルフと人間の機密を運ばせる陰謀。残念ながらそれは摘発して潰しておいた」
玲はくるくると巻き毛をもてあそぶ。
「つ…潰したって？」
「混乱に乗じて避難民に情報を乗っける動きがあったのよ」
信じがたい話だ。
「ではサンダーソニアはどうなの？」
ササヤマはボクに詰め寄る。
「彼女は協力者。エルフの工作員の一人よ。私たちの監視役でもあるんだけどね。」
「そう。だからわたしはソニアの味方。たとえあなたが相手でもね。」
サンダーソニアは玲の言葉を引き継いだ。「そんな……なんで……」
「あなたたちはやりすぎたの。」
「やりすぎた？」
「そう。エルフの里でも問題になっているの。このままだとエルフは人間に駆逐されるんじゃないかとね。」
サンダーソニアは悲し気に目を伏せた。「エルフは魔法に長けてはいるけど、身体能力的にはそこまで優れているわけじゃない。」
「だから、あなたたちみたいに裏工作で相手を撹乱したりして、自分たちの地位を保とうとしている。」
「でも、そんなことをしているといつかは人間に気づかれる。そうなった時に待っているのは破滅だけ。」
「そして、今まさにその危機が訪れている。だからこそ、私たちは先手を打ったの。」
「あなたたちがこれ以上エルフの力を人間に利用されないようにするために」
「そのために、人間社会に溶け込んで、情報や技術を横流ししていたの。それが、エルフが生き残る唯一の方法だと思って。」
「それなのに、それなのにどうして……」
ボクは涙声になっていた。
「ごめんなさい。こうするしかなかったの。エルフはもう限界だったの。エルフの寿命は長いけど、それでもやっぱり老化は避けられなくて……。」
ボクの目からボロボロと涙が流れ落ちる。
「それに、里からの命令だったから……。逆らうことはできなかったの。」
「そう……。ボクの居場所はどこにもなかったのか……。」
ボクはうなだれていた。
「そうよ。結局、エルフはみんなエルフなの。エルフの価値観から抜け出せない。」
「違う……ボクはエルフなんかじゃない……ただのハーフエルフだ……！！」
ボクは机に突っ伏して泣いた。
「……エルフが憎い？」
ボクは首を横に振った。「いいえ……。でも、ボクは……、ボクは……」
ボクは嗚咽を漏らすばかりだった。
「じゃあ、これからどうしたい？」
「わからない……。でも、もう疲れました……」
「そう。じゃあ、ここでサヨナラね。」
「えっ……？」
ボクの思考は停止した。
「えっ……？」
ボクは泣きはらした顔を上げた。
「だから、もういい加減、終わりにしましょ。あなたの人生。」
「えっ……？」
ボクはまた同じ言葉を繰り返した。そしてやっと理解できた時、ボクは叫んだ。
「いやだ！ボクはずっとここにいたい！お願いします！何でもします！だから、どうか……！」
ボクは必死に懇願したが、
「ダメよ。」
玲は冷たかった。
「でも、もう遅いわ。」
そう言って玲は教室の外を指差す。
そこには、たくさんの人間が群がっていた……。
「えっ……？」
ボクは状況が呑み込めず呆然と立ち尽くした。
「もう、手遅れよ。」
ボクは耳を疑う。「うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ……うそだ」
「しつこいわね！殺すわよ」
ボクは何も考えられなくなっていた。
「だって、だって……ボクは、ボクは……」
「あんたは、ただの人殺しよ！！この殺人鬼！」
ボクの心は崩れ落ちた。
その後、すぐに警察が来て、ボクは逮捕された。
ボクが通っていた学校には、ボクが殺した死体が転がっていて、その傍にはボクがいた。
ボクは取り調べ室で全てを自白した。
そして、ボクは死刑になった。
ボクは最後に、母さんに会いたいと思った。
ボクがボクでなくなった後、母さんはどうなるんだろう。父さんのことは心配だけどきっと大丈夫だと信じよう。だって、父さんは父さんだもの。
ボクは最期に思った。
ボクがボクじゃなくなっても、ボクはボクのままで生きていけたらよかったのかな……？ ボクは後悔しながら死んだ。

黒エルフと恋せよ乙女 魔法VS科学

黒エルフと恋せよ乙女魔法VS科学