ジョージアに連れられきたのは、高台にあるレストランだった。
景色もよく、夕方になってきたので街の明かりもチラチラ見える。
「素敵ですね!」
兄が言っていた『意外とロマンチストなんだ』というのは事実のようだ。
そこでふと思う。
兄もこんな風にエリザベスをエスコートできているんだろうか?
少し不安に思ったが、仲良さそうにしていたのを思い出すと、兄なりにがんばっているんだろう。
まぁ、結婚式や自宅でのやりとりを見る限りでは、カカア天下になるだろうと予想はつく。
その方が、平和的でいいだろう。兄に任せておいていいことなんて何もないのだから……
馬車から降りてお店に入って行くと2階の窓際の席に案内される。
先ほども見たが、ここからの景色もすばらしい。
今日はコース料理と決まっているので、待っていれば次から次へとくる。
おしゃべりしながら、食べて行くともうお腹いっぱいである。
紅茶をもらい、食べ過ぎたお腹をさする私。
「食べ過ぎたな……」
「はい。もうお腹いっぱいで、何も入りません!」
そう言って私たちは笑い合う。
「デザートでございます!」
目の前に現れたのは、生クリームたっぷりの……ケーキ!!
ジョージアは、その生クリームの多さにひいていたが、私のお腹はその生クリームを見た瞬間、急激に処理能力を上げたようだ。
「おいしそうですね!!」
「え?今、お腹いっぱいって……」
「生クリームは別腹です!」
そういって、フォークを持つ私。それをみて、あんぐりしているジョージア。
「女性の甘味に対する熱意は、すごいね……よかったら……」
そういって、ジョージアは、目の前に置かれたケーキを私に差し出してくれる。
「じゃあ、一口だけ……どうですか?」
「いただこう。アンナがくれるって分だけ食べさせて!」
そういって、ジョージアは、私にケーキの一口を委ねてくる。
私は、困り果てながら、ケーキの端っこを切り分け、お皿を差し出す。
「どうぞ!」
「食べさせて?」
えぇー私が……ですか?と心の中は、パニックだ。
「じゃ……じゃあ……あ……あーん」
「あーん」
これ、かなり恥ずかしい……階下の皆さん、見ないで……従業員の皆さん、見ないで……
どんどん私のほっぺの色は赤くなっていく。
絶対楽しんでいるな……ジョージア様め!!
満足そうにしているジョージアを見ると、何も言えなくなりフォークを引き抜く。
「甘いね……」
「そうですね…………」
私にとって、ここしばらくで一番の至福の時間であった。
恥ずかしさを誤魔化すように、そそくさとケーキを私の口に運ぶ。
ペロッと二人分のケーキを食べ、満足しきっている私をあたたかく見ているジョージア。
「大丈夫?」
「さすがに、食べすぎです。明日は、また、ウィルに相手してもらいに行ってきます!」
「そう……」
少し寂しそうにするジョージアをじっと見つめる。
1階からは、私たちが見えているだろう。
アンバー公爵家の子息と言えば、ローズディアではやはり人気のようだ。
婚約発表から半年ほどたつが、やはり、婚約者候補としてダドリー男爵家のソフィアのイメージが強いせいか私を見ても『かわいらしいお嬢さん』とか『妹』と言われることがまだある。
今日も、聞こえてくるのは、そんな声ばかりだ……
そして、ジョージアと対面でディナーをできることをうらやむ声も聞こえてくる。
「私、とっても素敵な方と婚約できたのですね?みんなが羨むでしょう」
階下を見下ろしながら、ジョージアに告げる。
「そうかい?俺の方が、素敵なお嬢様と婚約できたと思っているけどね。
なんたって、名だたる候補の中では、霞むくらいの順位だったはずだよ?」
「そんなことないです。茶化さないでください」
そういうと、テーブルの上で持て余してた手を握られ、驚いた。
「ジョージア様!」
いたずらでもしようかというちょっと悪い笑みを浮かべている。
「いいじゃない。俺は念願叶った婚約だったんだ……アンナの手をもう離すつもりはないよ!」
ジョージアのニッコリ笑顔は、反則だ。
「ふふふ……離さないでくださいね!」
二人で笑いあっている、そんな優しい時間はとても好きだ。
ジョージアの優しい雰囲気が私をホッとさせる。そして、ドキドキもさせる。
「そうだ、今日は、渡すものがあるんだ。ちょっと、離すよ!」
そんな冗談めかして手を離すジョージアに、どうぞと答える。
コトっと机の上に置かれた小箱。
「開けてみて」
ジョージアに言われ、小箱をひらくとそこには一粒ダイヤの指輪がおさまっていた。
「これは?」
「エンゲージリング。遅くなって、ごめん」
まじまじとそのリングを見る。3カラットはあるだろうか?
ろうそくの光を浴びてキラキラと輝いている。
「ありがとう……ジョージア……さ……ま……」
涙が、溢れてくる。私、なんで泣いているんだろう……?
すっと立ち上がって、私を寄っかからせてくれる。
そのまま、ぎゅーっとジョージアに抱きついてしまった。
あぁ、ジョージア様の服が汚れる……そう思っても離れられそうにない。
頭を優しく撫でてもらうとほわほわとあたたかい気持ちになってくる。
「ありがとうございます……」
「ちょっと、驚いたよ」
ふふふ、ごめんなさいとジョージアから離れ、泣き笑いしていると、おでこにちゅっとキスをしてくれる。
下から、ザワザワと聞こえてくるが、今は、ジョージアに甘えておこう。
存分に階下にいる令嬢たちに羨ましがられたい、ジョージアの特別なんだって感じていたい。
ジョージアが私を自分の方へと向きを変えられる。
すると、その場で、ジョージアが跪く。私は、微笑んでジョージアをみつめていた。
私の手をとり、もう一度、あの言葉を言ってくれる。
「アンナリーゼ、僕と結婚してください!」
「もちろんです!ジョージア様」
私の手を取り、婚約指輪を左薬指にさしてくれる。
ジョージアのとろっとした蜂蜜色の瞳を見つめて、私は微笑んだ。
「嬉しいですね!2度もプロポーズしてもらえるなんて!」
「もう一回いうと、なんだか、恥ずかしいし、わざとらしい感じになるな……」
「そんなことありません。何度、言われても嬉しいです!」
ジョージアの顔にそっと両手を添わせ、私からキスをする。
初めてにしては、うまくいったんじゃないだろうか?
うっすら瞼を開けると、ジョージアは、驚いているようだ。
ジョージアからはなれ、いたずらっ子はニコッと笑うと、やられたな……とジョージアは苦笑いをしている。
一部始終をみていたその場にいたウエイターにウエイトレス、耳を澄ませていたであろう階下のお客からは拍手が鳴り響いたのである。
その鳴りやまない拍手に、私たち二人は、恥ずかしく恐縮するばかりであった。
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