秋も深まり、そろそろ冬になろうか。
窓から見える景色は、一層寂しそうになり、風も冷たそうだ。
部屋の暖炉も使えるようにと先日、掃除をしてもらったばかりで、そろそろ火を入れるのを待っているかのようである。
「デリア、寒くなってきたわね?」
「そろそろ、厚手の服も必要ですね。クローゼットの奥から出しておきますね!」
「お願いね……」
「寒いですか?」
「うん。少し……」
デリアが暖かい紅茶を入れてくれ、渡してくれる。
ホッと一口、温もりが体に染みわたった。
紅茶を楽しんでいると、少し厚手のカーディガンをデリアが肩にかけてくれ、体が温まる。
「アンナ、少しいいかい?」
部屋に入ってきジョージアは、少し困り顔だ。
「どうしたのです?」
「昨日、誕生日だったって……本当?」
「あぁ、すっかり、忘れてた……」
「そういうものなの?」
そういうわけじゃないけど、忘れてたのだ。
いつもなら、ハリーが1番初めに何が欲しいか聞いてくれるので、あれがいいこれがいいとお願いしていた。
今年から、そんな話をするハリーが側にいなかったので、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「いえ、たまたま……」
「そうか。じゃあ、今晩にでもお祝いしよう。どこか食事にでもいくかい?」
考えてみたが、あまり、思い浮かばない……それよりかは、少し寒いのでのんびり家でしていたい気分だった。
「デリア、ケーキ焼いてくれる?生クリームたっぷりで!」
「アンナ様?」
「デリアが焼いたケーキが食べたい!ジョージア様、お食事は遠慮します。何もいりません。
ただ、デリアの焼いたケーキを二人でつついて食べたいな?って思うんですけど、いかがです?」
ちょっと可愛く甘えた感じで言ってみる。これ、意外と使えるのよ、心の中の悪魔は囁いていた。
はぁ……と、ジョージアはため息を漏らすが、私のお願いは聞いてくれそうだ。
そんなジョージアを気の毒に思ったのだろう。デリアが手招きしている。
「ジョージア様、あの、こちらへ……」
デリアとジョージアが二人で何か相談し始めた。
何だろう……気になったけど、今日は、何もしたくない気分だったのでほっておくことにする。
「そんなことでいいのか?いやしかし……もっと……」
「たぶん、アンナ様は……」
微妙に漏れてくる話が、何を言っているのか、聞こえないあたりがちょっともどかしい。
話はまとまったのか、二人ともにこやかにしている。
「それで、どうなりましたか?」
「うん。今日は、家でゆっくりアンナとの時間を過ごすことにしたよ。生クリームが好きなんだって?」
「はい。生クリームは大好きです!」
「できれば、俺にも言ってくれると嬉しいけど……」
ふふふ……と笑うと、デリアと視線があった。
デリアもクスっとしていたので、同じことを思っていたのだろうか……?
「うーん、うーん」
「アンナさん?そんなに悩まなくてもいいんだよ?ほら、ジョージア様好きですって言ってごらん!」
ジョージア様、自分で言っちゃったよ……それに後追いで言うとなんだか感激が半減なので、今は言わないでおこう。
「生クリームをいっぱいくれるジョージア様なら、好きですよ?」
「デリア!生クリームは、山ほど用意するように!」
あっはははは……こらえきれず、私もデリアも大爆笑だ!
「じょ……ジョージア……さ……ま……ふくくく……や……ほ……は……食べ…………んよ……」
「……アンナ様!笑っては失礼ですよ!」
先に笑いを我慢できたデリアが私を窘めるが、デリアも我慢できているだけで体が震えている。
ジョージアは、ただただ、笑う私たちをぽかんと見ているだけだった。
ひとしきり笑った私は、ふぅーっとお腹をさすっている。
一人取り残されていたジョージアに話しかけようとすると、少し怒っているような拗ねているような雰囲気だ。
「ジョージア様?」
覗き込むようにジョージアを見上げると、今度は自分の膝の上に私を引き寄せて座らせる。
気をきかせたのか、こっそりデリアが部屋から出ていくのが見えた。
時間的にケーキ焼いてくれるのかな?とか思っていると、胸にポスっとジョージアの顔が落ちてきた。
「ジョ……ジョージア様!?」
「笑ったからお返し!」
がっちり動けないようにされているので、どうすることもできず私はされるがままだ。
ジョージアからは見えないが、恥ずかしいので私の顔は赤いだろうし、体温は急上昇中である。
「あったかいな……」
「寒くなりましたからね。人肌恋しい季節ですね!」
「人肌とは聞き捨てならないね……」
むぅっという声が聞こえてきた。
「お兄様とこの時期は、よく手を繋いだり一緒に毛布にくるまったりしてましたからね!」
「サシャと?」
「そうです。お兄様、体温が高いので暖かいのです」
目の前にジョージアの頭があるので、髪を梳くようにいじっている。
しかし、さらっさらだなぁ……羨ましい……
触っていると、急に顔をあげれ驚いていたら、また、キスを迫られる。
ジョージアに腰掛けてる私は自然と視線は上になる。見上げてくるジョージアは、なかなかいいものだ。
「ジョージア様」
「なんだい?」
「なんでもないです……」
ちゅっとすると、追いかけてくるようにちゅっとキスをされる。
当たり前のように甘やかされることが、とても心地よくてこのまま身を任せてもいいような気さえしてくる。
でも、まだ、あと少し、キスまでで我慢はしてもらおう。
私が想像していたよりずっと甘やかされ、大切にされ、真綿にくるまれているかのごとく扱われているのがわかる。
冷えた結婚生活しか『予知夢』では見ていなかったのだ。
今のジョージアとの生活は、本当に甘美なものだった。
私、この生活を手放すことができるのだろうか……?本当に気がふれてしまわないだろうか……?
とても、心配になる。
「そうだ、遅れたけど……19歳の誕生日おめでとう。アンナとこうやって暮らせることが、俺はとても
嬉しいよ!」
涙がでそうだ……我慢する。
でも、こぼれてしまったようで、ジョージアが涙を拭ってくれる。
「俺、泣かせるようなこと言ったかな……?」
「いいえ、嬉しくて」
泣き笑いしている私をぎゅっと抱きしめてくれると、心まで温かくなった。
「そう、ならよかった。ジョージア様なんて必要ありませんなんて言われたら、辛いからねぇ……
冗談抜きで。アンナがいない生活なんて、今では考えられないよ?」
「ふふふ……私の虜ですね?」
冗談めかして茶化す私。
「ホント、アンナの虜だね……困った困った。よそのお嬢さんのお誘いなんて霞んでしまう……」
「よそのお嬢さんのお誘いですか?」
子どもっぽく、むぅっと口をとがらせる。
「可愛い奥さんがいれば十分だ。これからもよろしくね。奥様!」
「うーん……なんか、腑に落ちませんけど……いいですよ。許して差し上げます。旦那様」
笑いあっていると、デリアが戻ってきた。
ディナーの準備ができたと呼びに来てくれたのだ。
私は、ジョージアから降りて、行きましょうか!とジョージアと手を繋ぐ。
ジョージアのとろっとした蜂蜜色の瞳も優し気で、とても嬉しい。
「俺との時間より、ディナーが優先ですか……?」
呆れているようだが……もっと先だ。
「その後の生クリームが最優先です!」
私の返答にジョージアは、アンナらしいと微笑んでいた。
後日、私への誕生日プレゼントとして少し大きいブランケットが届いた。
それは、ジョージアと私がこの冬、執務経験を積むための勉強をするときには、必需品として使われることになる。
身も心も温まる、何よりのプレゼントであった。
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