ティアの実家の宝飾品店を出て、そのままアンナの屋敷へと出かける。
屋敷に着くと執事が出てきて、用件を伝えると応接室に通された。
いつも来ているのに落ち着かない。
今までと今日は違うのだ。アンナと会える最後の日となるだろうことは、考えられた。
ポケットに入ったものを触る。
受け取ってくれるだろうか?結婚祝いとしてなら……
小箱を一撫でし不安が広がったとき、俺の不安はかき消される。
「ハリー!!久しぶりね!もう、会ってくれないのかと思ってたわ!」
応接室のドアをバンっ!と開けて入ってくるアンナは、とても侯爵令嬢ではない。
いつものこととはいえ、これからよそに嫁入りするには、豪快すぎるので窘める。
アンナが俺の手を離れていくことに寂しさを感じずにはいられなかった。
「アンナ……ローズディアへ行ってもそんなだったら、ジョージア様に愛想尽かされるぞ……」
はぁ……と、俺からため息がもれる。
「そうかしら?実家だから、だと思うわ。向こうに行ったらうまくやるわよ。
なんたって、私、猫被りだから!」
そう言って、アンナはコロコロ笑う。
そんなアンナが眩しく見える。自分の未来を憂うことなく、楽しいものに変えるために過去も今も未来さえも大切に生きてきて生きていくのだろうから。
アンナの侍女が、お茶を持って入ってきてそれぞれの前に置かれる。
急に来た俺にアンナが興味がないわけがないのだろう。
「それで?それで??私に何のご用かしら?」
俺を見つめ嬉しそうにしているアンナを見ると嬉しい反面、吹っ切れたといえ胸が締められるような気持ちになる。
「うーん。そうだな……」
勿体ぶるとさらに興味を持って、アンナは前のめりになる。
そんなアンナがやはり可愛くて、愛おしい。
アンナへの気持ちに気づいたのが遅かったのだ……もう、胸の奥にそっとしまっておかないといけない感情だった。
机の上にコトリとガラスケースを置く。
それに目は釘付けになり、さらにアンナはソワソワし始める。
「開けていいよ。結婚祝いだ」
俺が開けるよう促すとアンナはガラスケースを手に取りリボンをほどき、蓋を開ける。
ルビーの真紅の薔薇のピアスを見た瞬間、アンナははらはらと涙を流す。
次第に嗚咽になっていく。
俺はハンカチを渡したが、それ以上は近づけなかった。
近づけば、もう二度と離れられないと思ったからだ。
しばらくすると、取り乱したと言ってアンナは顔をあげる。
「ありがとう!こんなステキなプレゼント!!ハリーにしか選べないものだね。
大事にするね!!私、毎日、このピアスをつけるわ!!」
そう言って、とても喜ぶアンナは、つけていたピアスを2つ取った。
そして、今持ってきた真紅の薔薇のチェーンピアスを2つつける。
「ハリー、どうかしら?似合う?」
「あぁ、とっても似合っている。その薔薇は、やっぱりアンナに贈って正解だったな!」
本当によく似合っていた。
俺の愛したアンナが、俺からの密やかな愛を受け取ってくれた。
そして、いつもそばにと言ってくれている。それだけで、満たされた。
ありがとうと言葉にしたいが、してはいけない言葉だと言葉を噤む。
「ハリー、これ、私から。もらってくれるかしら……?」
3つのピアスのうち、1つだけ残っていたピアスをつけなかったことを不思議に思っていたが、プレゼントしたものをアンナにプレゼントされた。
「俺がプレゼントしたものなんだがな……」
俺は、アンナのために選んだものだったから、3つともと思っていたのだが、まさか返されるとは……思いもよらないだろう。
「うん。私がもらったから、私のもの。でね?私のものを誰にあげてもいいでしょ?
大事な人に私と同じものを持っていてほしいの」
驚いた。同じものを持っていてほしいと言われたことに。
嬉しいような気恥ずかしいような寂しいような悲しいような……複雑な胸の内を誤魔化すように茶化す。
「さすがに、男が赤の薔薇をつけるのか……?」
「そうだよ?いいじゃん!男の人でも、ステキだと思う!」
言い出したら、聞かないアンナのことだから、素直に聞いておこう。
誰かに言われたら、聞き分けのない怖いお姫様からもらったから、つけていないと怒られるとでも言っておけばいい。
「わかった。つけるよ。ただし、アンナは、この国を出るまではピアスをつけるなよ?」
うーんと唸っている。
これは、きかないなぁ……と、内心ため息がもれた。
「わかった!二人だけの秘密ね!なんか、秘密っていうとワクワクするね!」
ニッコリ笑ってアンナは、口元に人差し指をそわせる。
「でも、国をでたら、必ず、毎日つけるからね!」
嬉しそうにしているアンナの耳元に揺れる真紅の薔薇は、本当に似合っていた。
「アンナ、このピアスはね、薔薇だろ?ローズディアへ向かう君にと思ってなんだ。
ティアに、ルビーは宝石の女王と呼ばれていると教えてもらった。
勝利を呼ぶとかカリスマ性を高める宝石って言われているんだって。
あと、健康と幸運を招き、邪を遠ざけるお守りという意味もあるらしい。
遠くに行くアンナを守ってくださると信じているそうだよ」
「……ハリーは、そうは思ってないの?ティアの入り知恵だけ?」
俯き加減から上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
アメジストのような瞳は、揺れていて不安に思っていることがわかった。
「参ったな……俺も、アンナのことをもちろん思って贈るんだけどな……」
「意地悪言った……ごめんね!」
俺たちは笑いあい、夕方まで、アンナとの最後の時間を楽しんだ。
◇◆◇◆◇
「なぁ、アンナ。俺、イリアと結婚するよ」
「うん。いいと思うよ!意外とお世話好きなイリアは、ハリーとあっていると思うよ!
大事にしてあげてね!」
二人の最後の話は、俺の結婚の決意表明だった。
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