週末になり、兄の帰宅用の馬車に乗り込んで、ローズディアの友人たちが屋敷へとやってきた。
「ようこそ!今日はゆっくりしていって!
夕食の後、明日の話を少し詰めておきたいから、客間で話をするわ」
「アンナ、それは、僕も入っても大丈夫か?」
「えぇ、もちろんです。お兄様の今後にも関わるので、ぜひ!」
ウィルとセバス、ナタリーと私たち兄妹、あとエリザベスで食卓を囲んでいるところだ。
今晩は、ナタリーが私の部屋に泊まり、ウィルとセバスを客間に通すことになっている。
夕食も終わったので、ウィルたちを泊める客間で、明日の話をすることになった。
今回の話し合いエリザベスの侍女であったニナのことだったので、エリザベスに遠慮してもらう。
「明日は、ワイズ領にあるニナの実家へ行きます。先行して手紙だけ送っておいたわ。
まぁ、追い返されたりはしないと思うけど……念のためね?
入れてもらえなかったときのことも考えないといけないわね……」
「姫さんさ、追い返された場合、どうするの?」
「強行突破?侯爵家から出向いてきたんだから、爵位的に常識ある人だと入れてくれると思うわ」
そんなものなんだと言っているが、セバスは頷いている。
男爵家からしたら、侯爵家はそれほどのものなのだ。
さらに地方となると、爵位というのは顕著に扱われることになるらしい。
「あと、ニナっていう子はどうなるの?」
「昨日、お母様から報告があって、嫁ぎ先が決まったわ。
この前も言ったけど、両親には、ニナに付いて行ってもらおうと思ってるから、その辺をうまく
話さないといけないわね?」
「アンナ、ニナの現在のことはどう話すつもりなんだい?」
「そうねぇ……死んだことにしようかと思っているの。名前を変えないといけないから……
でも、まぁ、そんな話聞いたら、家族はショックでしょうね。
だから、その話をした上で、ニナに付いていくかの判断は、本人たちに決めてもらうつもり。
名前も今、絶賛考え中なのよ……」
私は母から言われた通り、兄たちにも伝えていく。
名前を変え、住む国も変え、私の従者として、エルドア国の情報を提供してくれる存在として協力関係になるのだ。
「それで、明日は、5時には家を出るつもりだから、各自準備して。
荷物は帰り領地で返すから、お兄様に預けて行ってね。後は、護身用の武器も忘れずに。
自領は、平和そのものだとは、思っているんだけど、何かあった場合に備えてほしいから……」
「明日はさ、俺は護衛じゃん?セバスとナタリーは何するの?」
「そうね……何したい?」
「私は、侍女としてついていきます。
侯爵家のお嬢様が侍女なしでふらつくなんてもってのほかですし、まだ、アンナリーゼ様の背中が
心配ですしね!」
「僕は、秘書かなぁ……必要でしょ?文官役も」
「そうね、必要ね。私の書記をしてくれると助かるわ。契約書か誓約書を書かないといけなくなる
可能性もあるから、それをふまえてね?」
「じゃあ、各自、そのように。姫さんは、真ん中でふんぞり返ってればいいさ」
「えぇー!私が話すんじゃないの??」
「セバスに任せましょう。これも今後のセバスの仕事ですから!」
ウィルもナタリーもセバスに秘書官をやらせようとしている。
今後、セバスがローズディアの文官となるには、ひとつの経験として蓄積されることだろう。
でも、いきなりで大丈夫だろうかとそちらを見て、お願いをしてみることにした。
「……セバス、お願いできる?あちらにつくまでには、ニナの名前を考えておくわ。
ただし、生きてることは、黙っておいてね?」
指示を出せば心得たとセバスは、頷いてくれる。
これで、何とも珍妙な旅の話は終わり、お出かけに備えてゆっくり休むことにしたのだった。
◆◇◆◇◆
翌朝、準備を整えた私たちは、定刻に出発した。
「セバス、大丈夫?」
乗りなれていない馬に、練習に練習を重ねて乗っているうえに、走りづめであった。
なので、セバスの体力は限界にきているだろう。
「そろそろ休憩にしようか」
「いえ、まだ、大丈夫……」
正直大丈夫に見えないセバス。
「セバス、無理をするだけが偉いわけじゃないんだ。あの広場で休むぞ。いいか?姫さん」
「もちろん。ちょっと一息入れましょう。馬にも休憩は必要だしね!」
2時間以上走り続けた四人と四頭は、一息入れるため馬車の休憩所のようなところで休憩することにした。
芝生になっているところにぺたんと座る私を三人が、えっ!?っと見ている。
「アンナ?さすがに何か敷きませんか?」
「芝生だし、いいじゃない?」
さすがは貴族令嬢のナタリー。
注意されたが、慣れっこな私は、そのままそこで朝食をとろうとする。
「さすが、姫さんってことなのかな?俺でもさすがに地べたは……って思ったわ!」
「でも、遠征とか行ったら、こんなの普通よ?」
「姫さんさ……一体どこに行っているわけ?」
「祖父の私兵の新兵練度のキャンプに潜り込んだり、狩りに行ったり?
まだ、ここは綺麗なほうよ……新兵練度なんて……あっ!ごはん中ね。失礼」
「いえ……大丈夫です」
マナー違反だったと私は謝って、話を途切れさせたが、ウィルは近衛を目指しているためやはり気になるようで聞きたそうにしながら呆れかえっている。
「それ、もう令嬢の域じゃないよね?」
「ハハハ……だよね?ところで、セバスは大丈夫かしら?」
「だ……大丈夫です……」
「うーん。大丈夫そうじゃないけど……まだ、本番まで時間もあるし……ダメそうなら、後ろで見てる
だけでもいいからね?」
「いえ、大丈夫です。少し落ち着きました。そうですね。まだ、本番はこれからですからね!」
ナタリーに冷たい飲み物をもらって一息できたのか、セバスの顔も先ほどよりはマシになってきた。
「そうそう、ニナの新しい名前なんだけど、エレーナ・アン・クロックってどうかしら?
クロック侯爵家の養女になって、侯爵の弟さんと結婚することになったのよね!」
「へぇーじゃあ、地方貴族からだから、だいぶ爵位が上がるわけか……?」
「そうなの。でも、働いていたのも侯爵家の侍女としてだし、母も侯爵家の作法等はきちんと教えて
くれたようだから、優秀なニナにとって何の問題もないわ!」
私とウィルの会話を聞いて、メモを取っているセバスとナタリー。
「アンナ、ニナのお屋敷に向かう前に誓約書を作りたいと思うのですが、どうでしょう?」
「そうね。そうしましょう。内容は、任せるわ!セバスもそろそろ回復したようだし、残り半分の
道のり頑張って行きましょう!」
私の一言でナタリーが、出発するために準備をしてくれる。
さぁ、ニナの生家まであと少し。
「セバス、頑張りましょうね!」
馬によじ登っているセバスに私は声をかけるのであった。
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