「ん……ん?」
ベッドでぐぅーっと伸びをしようとしたら、体が固定されている。
ゴソゴソっと動くと、原因は、ジョージアだった。
「んん……」
「ジョージア様?」
小声で起こしてみるけど、起きそうにない。
動けないので、困っているとデリアが、私の朝の支度に部屋に入ってきた。
「デリア!」
ジョージアを起こすのはしのびないので、小声でデリアを呼ぶと、まぁ!と驚いている。
いや、驚いているのは、私なのだが……とりあえず、ここから出してほしい。
「お願い、出して……」
デリアに手伝ってもらってジョージアの腕の中から抜け出すと、ホッとベッドのへりに座る。
「これは、いったいどうなっているのですか?」
「……私が知りたい」
そう、昨日寝たときは、一人でのびのびと寝ていたのだ。
デリアが巡回にきたときも、私は一人で寝ていたという。
いつの間に、ジョージアは私のベッドに入ってきたのか……?
昨日は、確か……私より遅くまで領地の資料整理をしていたはずだ。
さすがに夜遅くなってきたので、先に寝させてもらった。
いつ、来たのか……まぁ、ゆっくり寝ているようなので、そっとしておくに限る。
「ジョージア様って朝食食べるのかしら?」
「食べられますよ。朝は、あまり量は食べられないようですが……」
「じゃあ、こちらに朝食を運んでもらいましょうか?一緒に食べるから、とりあえず、私の朝の支度
だけしましょうか」
かしこまりましたとデリアは、てきぱきと準備を始めた。
おかげで、私は顔を洗い服も着替え準備万端である。
「いつ、起きるのかしら?」
こそっと覗きに行くと、起きていたのか寝ぼけていたのか、ジョージアにベッドに引きずり込まれる。
「もぅ!ジョージア様!」
ポカっとたたくと眠たそうなトロンとした目をこちらに向けてきた。
「……起きましたか?」
「アンナだ……はぁ……いい匂い……」
「えっ!?ちょっと、ジョージア様、どこ触ってるんですか!」
ドレスの裾をたくし上げられ、ジョージアの手はすっと太腿をなぞっていく。
正当防衛よね?うん、ジョージア様が悪い!
おもいっきり、鳩尾に肘鉄を入れた。
くは……
可哀想に半分以上寝ていたジョージアは、痛みと共に空気を抜かれ苦しそうに目が覚めた。
「おはようございます!ジョージア様?」
「おはよう……ございます……アンナさん。なんで、アンナが……!!」
「目が覚めましたか?ここ、私の部屋で、そこ、私のベッドですから、私がいても当然ですよね?」
ニコニコニコニコ。
笑う私、青くなるジョージア。
私の腰に回っている手と鳩尾をさすっている手とたくし上げられたスカートを見て、さらに青くなっていた。
「朝ごはんは、いかがですか?用意したんですけど……食べられますか?」
「はい……いただきます……」
◇◆◇◆◇
それからというもの……
1週間に1回くらいは、こんな日が2週間続いて、3日に1回になり、そのうち毎日になった。
本格的な冬になったので、正直暖かくて助かるのだが、朝起きたときのあのいたたまれなさ……先に起きてくれればいいけど、ジョージアは夜が遅く朝は弱いので、起こしに来てくれたり朝の支度に来てくれるデリアやディルに生暖かい目で見られることはたまらなかった。
最初の方こそ、デリアもディルも驚いていたが、今はもう誰も驚かない。
何とも……慣れは怖いものだ。
「ジョージア様、ご自分のベッドで寝られてはどうですか?」
「いや、アンナがあたたかくて……ついね。自分の部屋に帰るより、いいもんだから」
ごにょごにょっと言っているが、私は、カイロじゃないよ!
もぅみんなに生暖かい目で見られる朝は、私にとってかなり億劫だ……
「……朝から、こんな話はしたくないんだけど」
なんだか、とても申し訳なさそうな顔で私に話しかけるので、なんだろう……あまりいい話ではないようだ。
それを感じ取ったのか、デリアもディルもちょっと雰囲気が怖い。
「言われてた、ソフィアとの面会なんだけど……」
デリアもディルも殺気!!隠そうね……私が望んだことなんだから。
「なんか、視線が妙に突き刺さるような、とても痛いんだけど……ディルにデリア……」
「……私は何も」
「……私も何もございません」
二人とも何もないっていうような目ではないのだけど……な。
敢えて何も言わず、話の先を進めることにした。待ちに待ったソフィアとの対峙なのだ。
「それで?」
私は、話を進める。
初めて対峙することになる第二夫人となるダドリー男爵家のソフィア。
緊張もするが、いったいどんな人物なのだろうか?噂に聞こえてくるような人物なのだろうか?
対峙に当たり、いろいろとこちらも考えないといけないのだ。
「来週あたりに、どうかなぁ?……無理にとは言わないけど……」
「わかりました。用意しておきますね。こちらに呼び出すのですか?」
「……そう、呼ぶ……あぁ、屋敷に来たいと言っていたので……」
ジョージアは、デリアやディルからの視線がとても痛そうだ。さっきより、容赦ない感じがする。
「ディルにデリア、少し控えなさい!仮にも主人に対する態度じゃないわ!」
「「……申し訳ございません」」
二人は、謝ってくれるが、私にではなくジョージアに謝ってほしいところだ。
しかし、ディルも私の陣営に入ってくれたと、この態度から見てもそのように思っていいのだろうか。
何せ、ディルは筆頭執事だから、味方になってもらえればこんなに心強い人物はいない。
「ディルもアンナの魅力に引き込まれた口かな……?」
ジョージアは、ちょっと寂しそうに、そして、大きくため息をついた。
「では、ソフィアさんとは、こちらで会うよう手配を進めますね。ディル、お願いできますか?」
「かしこまりました。しかし、こんなことを意見していいのかわかりませんが、アンナリーゼ様が
会う必要はないと思いますよ?」
「どうして?第二夫人になるんでしょ?」
「そうですが。失礼と承知で、あまりアンナリーゼ様と合うような方ではないと思いますので……」
「そう、そうかもしれないわね。私が会いたいのは、ただの好奇心だから、心配いらないわ!」
「はぁ……あんまり……」
「ディル、それ以上はジョージア様に失礼よ?ジョージア様の第二夫人ですからね!」
「アンナさん……あまり強調しなくても……」
私は、ん?と首をかしげる。
ソフィアは、ジョージア様の第二夫人になるのよね?合ってるわよね?
「どこもおかしなところも見当たりませんけど……」
「普通、奥様は、我関せずというスタンスの方が多いので……」
「なるほど……ディル、ありがとう。でも、知っておくべきだわ。敵の素性は!」
「なるほど、なるほど……アンナリーゼ様らしいですね!私も陰ながら、お手伝いさせていただきます!」
ディルの参戦宣言は、すごく心強い。
逆にジョージアは曖昧に笑うだけで……困った顔をしていた。
「はぁ……ソフィアも嫌われたものだな……」
「そうなんですか?でも、私、一応、ジョージア様のこと好きですから、他の人のところに行かれると
腹も立ちますし、ケチョンケチョンにしたい気持ちもありますよ!」
ニッコリ微笑む。
「デリア、アンナが好きだと言ってくれたぞ!!」
「よかったですね!旦那様!その前に『一応』って言葉がついていたの気づいてますか?」
「……聞かなかったことにする」
「それより、アンナ様が物騒なことを言っている方がデリアは心配です……アンナ様、その際は、
デリアにぜひ!」
何とも……変な盛り上がりをする朝であった。
その日の夜も変わらず、ジョージアは私のベッドで私をカイロにして寝るようだった。
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