『予知夢』で見た記憶をたどると、兄にはもう一人婚約者候補がいた。
私は、エリザベスとは別の候補を選んだときのフレイゼン家や領地領民にとって最悪な未来を予知していた。
なので、兄の婚約者としてエリザベスを推して、兄に紹介したのだ。
「今日からお世話になります、エリザベスと侍女のニナです」
「ようこそいらっしゃい」
母がエリザベスにハグを求めると自然にエリザベスもしている。
母は、自分が特に気に入っている人だけハグを求める傾向があるので、エリザベスをフレイゼンの嫁としてかなり気に入っている証拠だ。
「では、部屋に案内させるわ」
母の合図で私の家族とエリザベス達、使用人たちが移動しようと動き始める。
私は、話があったので呼び止めることにした。
「お母様、少しお待ちください。私、お話したいことがあるのです」
そこで動き始めた一行を止める。
「何かしら?後ではダメなの?」
少しきつめの母の流し目に負けずに答えることにした。
とっても機嫌がよかった母が、一瞬にして不機嫌となっている。
「そうですね。お母さまとお兄様、そしてニナが残ってくれれば話は進みます」
エリザベスの名前が入っていないことで不安を感じた兄が、少し考え込んでいる。
「わかった、僕はアンナのいうように残ろう。ニナも残ってくれ。母上はどうされますか?」
母はどうするか兄に問われ、当然のごとく残る選択をしてくれた。
私は、母の判断に少しホッとする。
「エリザベス、悪いのだけど、先に部屋へ行ってくれるかしら?」
エリザベスはまだこの家の者ではないため、近い将来家族になるとはいえ、この話し合いの中には入れない。
ただ、私のほうは、今を逃すと話す機会がなくなってしまうと考えて動くことにしたのだ。
情が移ると、判断に困るような気がしたから、母の機嫌云々言っている場合ではない。
なので、決行した。
「わかりました。お話が終わりましたら、また、お義母様ご指導お願いします」
母に挨拶をして用意された自室へと案内されていくエリザベス。
一緒に連れてきた自分の侍女を残してだ。
「さて、アンナリーゼ、話を聞きましょうか?よほど大事な話なのでしょうね?」
母は若干怒っている……当たり前だ。
お嫁さんが来てくれたのだから、もてなしたいに決まっている。
それでも、言わなければならないのだから、母の圧力に負けないようぐっとお腹に力を入れた。
そうでもしないと……うちの女王様、怖すぎる。
「……お兄様の婚約者候補についてです」
そこで、顔色が変わったのは当事者の兄だった。
「もう、エリザベスに決まったじゃない?それで、問題でも?」
「問題はないと思います。問題のない方を選びましたから……」
「それはいったいどういうことだ?」
母は機嫌が悪く、兄は当事者なので、私の切り出した話で気が気じゃないようだ。
「実は、候補はもう一人いるのです。このニナがそうでした」
何故残ったのが、エリザベスでなく侍女のニナなのかが不思議だった親子にとって、やっと繋がったようだ。
「順を追って話して行きますね?まず、ニナは、この度没落したワイズ伯爵の間者です」
衝撃だったのか、三人とも私の話に驚いていた。
親子は、ワイズ伯爵の間者だったことに気づいてなかった、そして、ニナは自分が間者であることが私にばれたことに驚いたようだ。
「うーん、私、ワイズ伯爵を潰したじゃないですか?」
隠しても仕方がなかったので、さらっと爆弾発言をする。
知っているはずの兄も苦笑いしていて、初めて聞いた母とニナは戸惑っている。
母への報告は、もっとやんわりした内容だったのだ……潰した?と、母の雰囲気がまた変わる。
「あぁ、そうだな。それで、どう繋がるのだ?」
「先日、お兄様も聞いたと思いますが、商人からの情報でワイズ伯爵……元ワイズ伯爵の遠縁の子が
侯爵家令嬢の侍女になっていると。
そのあと、なんとなく引っかかって、気になったので調べたのです。
何故バクラー侯爵の事業が負債を抱えるまでになったのか、領地で何があったのか。
ワイズ伯爵家から少々資料を拝借して調べていくと侯爵の身近なところに不審なところがありました。
伯爵のところに侯爵家の情報が筒抜けになっていたのです。
そして、その情報は、侯爵家の運営に関係するので、侯爵の周りを出入りできるものと限られる
でしょう。
その資料の送り主こそが、ニナであり、商人の情報からニナが伯爵の遠縁であることがわかりました。
そして、不思議ですが、お兄様に好意があることも調査済みです。
お兄様のことは、正直、どうでもいいのです。
普通に人として、ニナの恋だの愛だのは間違ってないですから。
ただ、エリザベスをワイズ伯爵へ嫁入りさせることができたら、ニナは伯爵の養女となり、兄との
婚約を推し進めることができるとそそのかされていたのですよね。
守られるかどうかあやしい約束ですけど……
事前に私がワイズ伯爵を失墜させ、エリザベスの実家を救いましたから、ニナが伯爵令嬢になることは
なかったのです」
兄妹二人で話を進めていくと、さすがに母から大きなため息がもれる。
女王様……そのため息が怖いですと心の中で呟いたが伝わるはずもない。
「アンナ……あなた、そんな危険なことを……国を揺るがしかねないことをしたのよ?
報告は貰ったけど、そこまでとは思ってなかったから……驚いたわ」
焦る母を心配するのは兄だ。
兄には、すべて話してある。
「ごめんなさい、お母様。それでも、この計画だけは潰しておかないといけなかったの。
そうでしょ? ニナ」
私は、ニナに話を振るとコクンと頷いていて、顔色は最悪だ。
「アンナリーゼ様がおっしゃるとおりです。私は、ワイズ伯爵の遠縁の者。
エリザベス様の侍女となったのも、すべてはワイズ伯爵の思惑通りでした」
ぽつぽつとニナは話始めてくれる。
「私の実家は元々、没落寸前の地方貴族です。
たまたま、エリザベス様と年が近かったことを理由にワイズ伯爵から引き抜きにあいました。
それで、金銭的に援助がされることになり、家族が救われるならと侍女をお受けしたのです。
ところが、蓋を開けてみれば、指示をされた内容はバクラー侯爵家への間者でした。
ワイズ伯爵は、バクラー侯爵家がほしかったようです。
間者にとって必要なことは信用されること。
何年もかけてエリザベス様の信用をそしてバクラー侯爵家の信用を得ることになりました」
ニナは、俯き今までの話をしていく。
「そのころには、エリザベス様も社交界へのデビューを果たしていたので、ワイズ伯爵は、
エリザベス様を見初め娶る計画を立てました。
私も度々エリザベス様に連れられ夜会に同行させていただきました。
そのときにサシャ様と出会いました。私の恋心など、ひた隠していたのです。
どこでわかったのか、いつの日か伯爵より、養女になる打診がありました。
エリザベス様を伯爵様と婚約させることができれば、養女として受け入れ、サシャ様の婚約者へと
推薦すると……私は、本来なら断るべきでしたが、欲にかられ、エリザベス様を裏切ってしまい
ました……
アンナリーゼ様が、エリザベス様をサシャ様にご紹介されたときは、嫉妬でどうにかなりそうでした。
その後も卒業式の準備に話し合う姿や一緒に出掛けるエリザベス様を深く恨みさえしました。
私の恋心を利用した、それが、伯爵と私の敗因でしょう……恨みと焦る気持ち、それさえなければ、
伯爵の計画はうまくいっていたというのに。
でも、これでよかったとも思っています。没落した伯爵を見て、私はまだ、侍女でいられる。
優しい主人と主人と私の想い人の傍で働けると思えば……」
ニナの目からは静かに涙が流れている。
後悔と懺悔、そして嫉妬に恋慕……何もかもが入り混じったような目は人間らしい目であった。
ただ、それでほだされるわけにもいかない。
私は、侍女として気に入っていたニナに現実を突きつけたのだから……
最後まで読んでいただきありがとうございます。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!