「エリーそろそろ話しは……えっ?ヘンリー様?」
ノックもなしに入ってくるのは、この屋敷では兄しかいない。
エリザベスを迎えに客間にひょこっと顔を出した。
「こんばんは……お邪魔してるよ、サシャ」
「こんばんは……
えっと……この組み合わせは……?もしかして、アンナの話を聞いたってこと?」
「そうです!ハリーにも話しました!」
「そっか……二人ともかなり驚いたでしょ?僕も聞いたときは、かなり驚いたよ……
現実離れしすぎているもんね……嘘か本当か、未だにわからないけど、確実に同じ未来には進んで
行ってるから不思議だよね!」
兄は、うんうんと一人訳知り顔で頷いている。
私は、ハリーとの平行線に終わっている話のせいで、今にも泣きそうなのにだ。
「ジョージアの話を聞いたとき胡散臭かったんだよね……あのジョージアが?って思うでしょ?
だから、ジョージアに卒業式で『赤薔薇の称号』を取れっていったんだけどさ?
あんなに本気で取り組んでもらえるとは思わなくて……正直かなり、驚いたよ!
兄としてはね、赤薔薇を取ったときのアンナの笑顔は、本物だったよ。
ジョージアをちゃんと想ってるって顔してた。演技じゃなくね」
兄は、なんていうタイミングで、ジョージアの話をし始めるのだと怒りたくなった。
でも、今は、それすら、できる気力がなかった……
兄の空気を読まないところは、直してあげた方がいいのだろうか……?どうでもいいことを考えてしまう。
「そんな……」
兄の話を聞いて、私の方をハリーがチラッと見た。兄は、さらにハリーへ言葉を続けていく。
私の知らないジョージアを兄はたくさん知っているのだ。今も、二人は、やり取りをしているらしい。
ただし、私との婚約のことは、言っていないと聞いている。
「ヘンリー様は、知ってる?青薔薇の花の言葉」
「いえ、知らないです……」
いきなり青薔薇の話に変わり、面食らっているハリー。
私も、兄が何を言い出すのかとヒヤヒヤし始めてきた。
「そう。では、僭越ながら……コホン。
青薔薇の花言葉は、我が国では、『不可能』、『存在しないもの』って言われてるんだ。
今、ローズディアでは、青薔薇が存在している。
アンバーのお屋敷では、すでに咲いているらしいよ?
ちなみに……
『一目惚れ』、『夢叶う』、『奇跡』とローズディアでは、花言葉が既に変わっているんだ」
青薔薇について、ジョージアに教えてもらったことを得意げに話す兄。
「ジョージアはね、アンナに何故、青薔薇のドレスと宝飾品を贈ったか、ヘンリー様ならわかったい?」
「!!!」
「僕もね、ジョージアから聞くまで知らなかったんだ。青薔薇の花言葉。勉強不足だよね……
教えてもらった日に、アンナのこと聞いたんだ。
これ、内緒って言われているから、ジョージアには秘密にね!
『アンナに一目惚れ』
『卒業式のパートナーになってもらうっていう夢が叶った』
『アンナと一緒に過ごせる奇跡』
だそうだよ!」
エリザベスは、まぁと頬を染めている。ハリーは、驚愕していた。
私は、全くジョージアの気持ちを知らなかった。知ろうともしなかった。
もちろん、私に恋心があるのは知っていたが、ジョージアが『青薔薇に込めた意味』は、全く予想だにしていなかった。
「あと、青薔薇の宝飾品は、すべてサファイアだったのも覚えている?」
「いえ……それにも、意味があるんですか?」
「うん。あるんだよ!
主にサファイアは、『誠実』って意味をいうんだけどね、『一途な想い』って意味ももつんだ。
ジョージアは、本当にアンナを大事に想ってるみたいだね。狙ってやってるんだから……」
こんなに暴露してもいいのだろうか……ジョージアのあれこれを。
私は、兄をとめるべきか悩み始める。
「ヘンリー様も、アンナのことを想ってくれているんだよね?兄として、とても嬉しいよ。
こんなわがままな妹を大切にしてくれて、本当にありがとう。
いつも、ヘンリー様には、感心させられてたんだよ。
でもね、ヘンリー様は知ってるかな?アンナもヘンリー様のことをとても想っていることを」
だいぶ前から、嫌な予感は、ヒシヒシとしていた……
「お……お兄様!?」
慌てた私は口を開こうとするが、それ以上言うなと手で兄に制される。
そして、ハリーも驚いて私を見つめてくる。
エリザベスは、もう生暖かい目でしかみてくれない……
「ヘンリー様のこと、本当に小さいころから大好きだと思うよ。
僕もアンナの兄だからね、誰よりもアンナのことはわかっているつもりだよ?」
私の頭の上にポンっと兄は手を置く。
「でもね、それでも決断したには、それなりの理由があると思うんだ」
「その理由とは?」
すかさず、ハリーは兄に聞く。
私に聞いても答えないだろうとふんでだ。
「これは、僕の予想なんだけどね、さっきの話で伏せられている部分があるんだ。
僕たちに家族にすらね。たぶん、それってヘンリー様の死じゃないかな?」
「僕の死?」
「そう。ヘンリー様が思うより、アンナのヘンリー様への愛情は、そうとう重い愛情だよ。
僕たちにも語ってくれていないんだから……ね。
たぶん、ヘンリー様の死に様を予知したんじゃないかな?家族や友人が死ぬとは言ってたから……
友人枠でヘンリー様のことを示しているとは思えないんだよね?」
チラッと兄がこちらを見ると、ハリーもエリザベスもこちらを見てくる。
「お兄様……それくらいにしてくれませんか?私の心の中をのぞかないでください!」
「のぞくなんて、そんなことができるなら、もっと人生楽に生きられるのに……
わかるのは、残念ながら、アンナのだけだよ……」
兄の話したことは、当たっている。心のうちを全部さらけ出されてしまった。思わぬ伏兵だ……
私は、恥ずかしさのあまり、兄を怒ってしまった。
「は……ハリー……?」
「あ……ん……なんか、ごめん」
「うん、ごめん」
二人のやり取りを見ている兄。
「今日のところは帰るよ……アンナの気持ちは、固いってことなんだね……
でも、僕は、アンナを手放したくない……それだけは、覚えておいて……」
私は、ただ曖昧に笑うだけしかできなかった。
夕べ降っていた雪はやみ、話が終わったのは、ちょうど朝日が昇ってきたところだった。
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