休学中の私の代わりに、伝書鳩と化した兄に手紙を託していた。
ウィルの手元にちゃんと届いたのだろう。
兄のことだから、どこかに置き忘れてとか、鞄の底にぐしゃぐしゃとかあるかもしれないと、ちゃんと届くのか少し不安ではあったので、よかったと胸をなでおろしたところだ。
休学に入った翌週の休日にお見舞いとして、ウィルが我が家を訪ねてきた。
私は服を着ると背中が擦れて痛いので、エリザベスに軟膏を塗ってもらい、その上からガーゼを置いて包帯でグルグル巻きにしてもらった。
そうすれば、緩めの服なら着れるようになったのである。
「お待たせ、ウィル!」
客間に入ると、そこには、ウィルとセバスが一緒に待ってくれていた。
「あれ、セバスも来てくれたの!?ありがとう!!」
取って付けたようで申し訳ないけど……来訪者は、ウィルだけだと思っていたのだ。
セバスがいたことに、正直驚いている。
「姫さん、久しぶり!背中の具合どうなの?」
「久しぶりって程、時間は、立ってないわよ?
私は、ずぅーっとベッドの上で寝てたから……退屈で、退屈で……あの、ざわざわしてた学園が
今では、懐かしくなったわ」
「アンナリーゼ様、そこまでいうのであれば、久しぶりでいいんじゃない?」
「そうかなぁ……?確かに、懐かしく感じるからそうなのかもしれないね!
背中の具合は、エリザベスのおかげでだいぶいいの!
殿下やハリーのところから薬とか食べ物とか届いたから、それらもいただいてもう大丈夫だよ!」
私は、自分が招いたことであろうことはわかっているつもりなので、努めて明るく言うと、よほど心配してくれていたのか、ウィルもセバスも良かったとお互い見合わせている。
「そっか。ナタリーから聞いたときは、ビックリした……」
「ごめんね、心配かけて……さすがに、背中に目はないからね……
人なら気配でわかるんだけど、物はとらえにくくて……」
「姫さんさ、普通の兵士や近衛でもそれは、わかんないと思うぜ?」
「そうかしら……母ならこんな傷負うこともなかったと思うわ……」
「アンナリーゼ様の母上って、どんな人?」
セバスは、私の母に興味を持ったようだ。
目の輝きからすると、ウィルの方が聞きたそうだけど……普段しない家族の話をする。
「軍人を多く輩出する侯爵家と言えばいいかしらね……かなり、強いわよ。
私なんて、足元にも及ばない……」
「是非とも、手合わせしてもらいないな!」
「ウィルなんて、私にも及ばないんだから、母に勝つのは難しいんじゃないかなぁ?
そうそう、今度の休日、母より、強い人と対戦させてあげる!!」
「そりゃ、姫さんに未だに勝てないんだから、姫さんが足元にも及ばないなら俺はまだまだ無理だろ?
そのおふくろさんより強い人って……おやじさん?」
母より強いと言われ、ウィルが思いついたのは父だったようだ。
まぁ、普通は、強い母となれば、父も武術や剣術はできるだろうと予測されるものである。
「あぁ……父はね、からっきしダメね。武術や剣術とか体動かす系は……まったく。
寧ろ、セバスとの方が意気投合できると思うわ。お兄様をさらに熟成させたような人だから……」
「サシャ様をさらに熟成させたって……アンナリーゼ様にそこまで言わせるってことは、侯爵様は
そんなすごい人なの?
失礼な物言いかもしれないけど、こっちの国のことには、僕ら疎いからな……」
セバスは、ローズディア公国出身の男爵家の子息である。
爵位が高くなければ、隣国の友好国とはいえ、侯爵家の話は話題に上りづらいだろう。
「そうね……この国のお金は、父が動かしているようなものじゃないかしら?
一応、この国の財務大臣だし、トワイス国1のお金持ちだし……
一代で、七代分の利益を取得したと言えばいいかしらね?投資が趣味なのよ」
「一代で七代分?すごすぎるね……侯爵家の七代分だろ……?想像が追い付かないよ。
よかったらさ、今度紹介してもらえる……?」
セバスは、やはり父に興味を持ったようだ。
きっと、父もセバスのことを気に入るのではないだろうか。
勉学の知識量なら、兄にも引けをとらないのだから、話し相手として、兄以上に意気投合するだろう。
「もちろん! 兄も含めて休日に三人で語り合うといいわ。
セバスなら、きっと有意義な時間になると思う。
あっ!そうそう、そのときには、是非もう一人入れてほしい人がいるのよ!」
「それは、誰? トワイスの人?」
「ううん。ローズディアの商人の息子。なかなかのやり手よ!!」
「アンナリーゼ様にやり手と言わしめるなんて、楽しみだ!」
うん、セバスがとってもいい笑顔。
セバスとニコライを早いうちから合わせて置いたほうがいいようだ。
この二人なら、いい化学反応を起こしてくれそうで楽しみだ。
「今度の秘密のお茶会には呼ぶから、紹介させてね!」
セバスと談義できるのは、学園にはそうそういないので嬉しそうにしている。
ニコライは貴族ではないので、学園に通っていたとしても、セバスとニコライが出会うことがないのだ。
だからこそ、こっそり秘密のお茶会で、合いそうな人どおしを引き合わせるということをしている。
そろそろ、本題を話そうとウィルの方へ私は向き直る。
「ウィル、この前のデートの約束なんだけど、平日でも大丈夫?」
ウィルに再度確認をすると、何故かセバスが答えてくれる。
「大丈夫だよ、アンナリーゼ様。ウィルも僕も行ける。
ナタリーも行きたいって言ってたけど……どうかな?」
なんと、ウィルだけを誘っていたのだが、セバスもナタリーもついてきてくれるらしい。
「馬車は用意できないわよ? 強行で、ワイズ領までいくから。
それでもいいなら、一緒にきて!」
「そう言ってくれると思ってた。ナタリーも馬に乗れるし、僕も……乗れるから、四人で行こう!」
セバスの提案を聞き微笑む。
セバス……馬に乗る道中なんて、大丈夫かしら……?一抹の不安は残る。
それなら、ナタリーも呼んで話したほうがいいということになり、侍女に呼んできてもらう。
実は、屋敷まで一緒についてきたらしいのだが、あまり大人数になってはいけないと近くの外のカフェテリアで待ってくれているらしい。
一緒に来てくれたら、よかったのにと思う。
◆◇◆◇◆
「アンナリーゼ様、お久しぶりです。お体は、どうですか?」
「ナタリー、この前は、大変お世話になったわ。応急処置が効して、今はまだ少し痛むけど、痕も残ら
ないようよ。ありがとう!!」
「もったいないです。もう、背中を見たときは、驚きましたけど……大事にならなかったなら、本当に
よかった……」
応急処置をしたナタリーなら、背中の具合も知っていて、かなり心配してくれていただろう。
ドレスは、背中が見えるデザインもある。
それなのに、痕なんて残ったら、この貴族社会では、結構な致命傷となるのだ。
「呼んだのは、他でもないの。
今度のお出かけ、ナタリーも一緒に行ってくれるって聞いて……」
「同行を許してくださるのですか? ありがとうございます!」
ナタリーは、行く先でも、私の背中が気がかりだったのだろう。結構な火傷になっていたのだ。
それでも適切な処置をしてくれたナタリーのおかげで、悲惨な火傷ではなくなっている。
この分だと痕は残らないだろうと王宮の侍医も言っているのだ。
「こちらこそ、ナタリーが来てくれると心強いわ!」
私が同行してくれるナタリーに感謝していると、そろそろ出番とばかりにウィルが話に入ってくる。
「それで、今回はワイズ領に行くって言ってたけど、行く宛があるのか?
ただのデートって感じじゃないよな?」
「さすが、察しがいいわね。行きたいところがあるのだけど、一人では許可が下りなくて……
ウィルには、その間の護衛をお願いしようと思ってたの。
ついでに帰りにうちの祖父の領地で、1日訓練に混ざろうかなと思ってて、損はない話でしょ?」
私の祖父は、トワイス国の軍事トップ。
そのお膝元の私兵訓練に参加することを伝えるとウィルはかなり喜んでいる。
「姫さんの強さの元ってこと?」
「それだけじゃないけどね。でも、ここの兵がこの国で1番強いと思うよ。
ウィルなら、訓練も耐えられると思って!私も参加するつもり!!」
ニカっと笑っていると言うことは、ウィルは了承したということか。
それぞれが、今度のデートは楽しみにしているようだ。
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