「姫さん、また、きたのかよ……」
うんざりしているウィルに、私はニコッとしておく。
定期的に通っているローズディアの近衛訓練場は、今では私の遊び場となっている。
「アンナリーゼ様!ようこそおいでくださいました!」
ウィルの所属する13番隊だけでなく、最近では他の隊の近衛からも歓迎されるようになり、『気まぐれに現れるウィルの姫さん』といつの間にか呼ばれている。
実態は、次期アンバー公爵の婚約者なのだが、そっちは何故かあんまり広まっていない。
上層部だけが、いつも私の出現にヒヤヒヤしているらしいのだが、会ったこともない上層部など、知ったことではないので、今日も楽しむことにした。
「今日は、ウィルに自慢をしにきたのよ!!」
「自慢?俺、一応訓練中で忙しいんだけど……」
そうは言っても、ウィルは必ず私に付き合ってくれる。
私が初めてこの訓練場を訪れた日、公より呼び出しがあったらしく、お達しが出たとのことだ。
『アンナリーゼがきたら、ウィル・サーラーは他の何をもってしても相手するように』
それは、他の近衛にももちろん伝えられ、私もそれをいいことに、ふらふらと遊びにきている。
最近では、あの門兵のお兄さんたちともすっかり仲良しだ!
「昨日ね、ジョージア様から婚約指輪をもらったの!!」
「あぁ、よかったな……まさか、それを自慢するためにわざわざここまで来たとか言わないよな?」
「わざわざ来たんだけど……ついでに、模擬戦もしていくわよ!昨日、食べ過ぎたから……」
俺は、ついでかよ……ボソボソっと言っているのも聞こえる。
私、耳もいいのよ!なんてこれは、自慢にはならないわねと苦笑いしておいた。
「じゃあ、相手してくれたら、お茶会を開くわ!ウィルの好きなものばかり集めて。
これなら、どうかしら?」
「うーん。俺が姫さんに模擬戦で勝てたらって言わないあたりが、姫さんらしいよね?
俺、いつになったら、勝てるんだろ……近衛なのに自信なくしそう」
肩をすくめて苦笑いのウィル。
「ウィルは十分強いよ?私、ウィルより強い人ってお母様とおじさまとおじい様しか知らない……」
「そのさ、名門武門貴族の中に名前を並べられるのは嬉しいけど……いつかは、超えたいよ!」
「そうね、あと10年で超えてね!私もいつまでも待てないから……」
首をかしげているウィル。私が、期間を区切ったことに疑問を持ったようだ。
そこに、ウィルの上官であるセシリアが、私に挨拶をしに来た。
「アンナリーゼ様、お久しぶりです!」
「セシリア!ご無沙汰ね!今日は、どうしたの?」
「アンナリーゼ様が来られたとお聞きしたので、一勝負お願いしたく……」
いいわよ!と快く受ける私。
実は、フラッと来るようになってから、ウィルと模擬戦をした後も何人かと手合わせをしている。
もちろん、自分の感覚を忘れないようにするためと、剣だけでなくいろいろな武器を得意とする近衛と戦うのは、とても楽しいし勉強になるからだ。
ちなみに、対戦相手はくじ引きである。何人も殺到するので1日20人までと決めた。
さすがに私でも際限なく近衛を相手にするのは、疲れるのだ。
公爵家のお勉強もあるので、それなりにしないと疲れて勉強どころではない。
息抜きのつもりが……本末転倒となるのだ。
隊長格の申し出だけは、その枠とは別枠として私は相手すると決めているので、セシリアとの勝負は受ける。
「いつも思うのですが、アンナリーゼ様は何を思って仕掛けるのですか?」
セシリアの質問に多くの近衛が頷いている。
いろいろな人と対戦するが、みんな同じ感想をいう。剣を構えていると、ふわふわ踊っているかのようなのに、急に一撃が来ると。それは、私の癖のようなものだった。
ウィルとは数えられない程対戦をして、お互いの思考の読みあいをし、リズムを読まれてしまっているので突拍子もないタイミングを計らっているが、たいていは、いーち、にっ、さーん、よんっ!のリズムで打ち込む。
令嬢らしくダンスのリズムをそのまま取り入れているのだが、それに気づけば、攻撃のタイミングが分かりやすいだろう。
ウィルとは踊ったことがあったからか、多少見抜かれてしまった。
独特な波長のダンスを踊っていると思えば、剣技も私にとって特別なものではない。
「うーん。それ教えると……私、勝てなくなっちゃうじゃん!」
「そこをなんとか……」
しかたないなぁ……と私は立ち上がって、聞き側に混ざっていたウィルを指名して前に出てきてもらう。
「ウィル、卒業式に踊ったからいけるわよね?」
「えっ!ここで踊るの?」
「そうよ。ほら、早く!!」
嫌々踊らされる羽目になったウィル。
もう、私のリズムはわかっているようで、完ぺきなリードを取ってくれた。
見ている方は、いきなり踊りだした私たちをポカンと見ているだけだ。
「ウィルとのダンスをよく覚えていた?よし、じゃあ、次。そこのあなた!踊れる?」
「いえ、私は……」
「ちょうどいいわ。私がリードするから、ついてきて!」
「え……は……はい!!」
一人の近衛が、私の手を失礼しますと握る。
「じゃあ、しっかりついてきてね!!」
「はいぃぃぃ!」
ふふふと私は、微笑むと一歩目を踏み出す。
ただし、かなり本気でこの近衛は、私に振り回されることになった。
「わかったかな……?」
振り回された近衛は足元でへたって、はぁはぁ……と息を切らしている。
「えっと、どういうことです?」
「私、このリズムで打ち込んでるの!他にもあるんだけどね!」
「「「えぇー」」」
「ダンスのリズムが攻撃のリズムなのですか……?」
「そう。近衛のみんなには思いつかないでしょ?私、このリズムが一番とりやすいのよ。
体に馴染んでるから!!」
さすがに誰も思ってもみなかっただろう。
「令嬢ならではと言えばそうですね……」
「でも、どのリズムで仕掛けるとかは、大切なのは、見極めです。ウィルのときは、今は、混合
かなぁ……何曲もの。まぁ、最難関曲がまだ残っているから、しばらくは、私に勝てそうにないね!」
後ろから、それはそれは大きなため息が盛大に聞こえてきた。
「姫さんの強さは、それだけじゃないんだけどな……俺、姫さんの人望こそ、こえーよ……」
その場で、私の講義を大人しく聞いていた近衛のみんながウィルの話に頷いていたのだった。
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