帰る頃になり、無言のままハリーが馬車に乗ろうとする。
私は、ハリーの手を引っ張って馬車に乗らないようお願いした。
「ハリー、歩いて帰ろう?屋敷は、そんなに遠くないから……」
小さい頃は、よくハリーと一緒に王都を駆け回っていたし、今でも時々、お忍びで出かけたりもしている。
なので、違和感なく私の提案にハリーはのってくれた。
「ねぇ?ハリー。手、繋いでくれる?……ダメ?」
半歩前に出て、ハリーを覗き込むと、ハリーはすっと左手を差し出してくれた。
ハリーの左手をぎゅっと私は右手で握る。
「アンナの手は小さいな……」
「ハリーの手が大きんだよ?それに私の手は、剣を握るから、剣ダコだらけで恥ずかしい……」
「ハハハ、それも含めてアンナだよ!いいじゃないか?それが、アンナらしくって」
先ほど毒を煽ったときのハリーは激怒していたが、今はいつもの優しいハリーだ。
握った右手から温かいハリーの体温が流れてくるようだった。
屋敷までの20分間、二人は手を繋いでとぼとぼ歩く。
「いつからだ?毒の耐性なんてつけるようになったのは……」
「うーん、3年前くらいかな?」
「おじさんやおばさん、サシャもアンナが毒の耐性を付けるために毒を煽っていることを知っているのか?」
「そうだね。みんな知ってる。
ヨハンみたいなスペシャリストを集めてくれたのもお父様だからね……」
当然のように父が出てきたことに、ハリーは驚いていた。
父が私を溺愛しているというのは周知の事実であったから、危ないことをさせるとは思っていなかったようだ。
「なんでそんな必要があるんだ?これも秘密?」
「そう、まだ、秘密」
「アンナは、秘密が多いな」
「ミステリアスな女は嫌い?」
「嫌いでは、ないけど……隠し事の多い女は、嫌いだ」
「……じゃあ、私のこと嫌い?」
私は、ハリーの手を握ったまま、その場で立ち止まった。
ハリーは、急に立ち止まった私の手を離すことなく立ち止まってくれ、振り返る。
私、今、どんな顔しているんだろう?
ハリーはどんな顔しているんだろう?
逆光で、私からは、ハリーの顔が見えない。
「……ズルイな……
……………アンナのこと、俺が嫌いなわけないだろ……?大切に、大切に想っているよ」
私も売り言葉に買い言葉で、言ってしまったが、ハリーの言葉は反則だ。
私には、ハリーに返す言葉がひとつも持ち合わせていないからだ。
嫌いだからじゃない。
ハリーの言葉に応えられたらどんなに幸せだろうか……?
しばらくの沈黙のあと、ハリーを呼びかけようとした瞬間。
「今のは、忘れてくれ……」
聞いたこともない小さな声でハリーに懇願される。
胸が痛む。
さっき飲んだ毒より、ジワジワと私を蝕んでいく。
自分の今燻っている気持ちを、ハリーにぶつけられたら……どんな風に私をみてくれるのだろう。
俯いたまま、私は口を噤んでしまう。
普段、おしゃべりな私は、何も言えなくなってしまった。
「お茶会がある。さぁ、行こうか!」
屋敷に向かい歩き始めたハリーは、いつもの声に戻っていた。
繋いだ手は、離されることなく屋敷まで繋いだままだった。
ただ、それ以降、二人とも口がなくなったかのように無言で歩き続けたのであった。
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