ジョージアとサロンで話をした夜は、気持ちも安らぎのんびりと過ごすことができた。
予習復習をしようものならジョージアに叱られたが、私が眠るまで、ジョージアは私の側でダラダラと領地での昔話をしたり、兄からの手紙の話をしてくれたり一緒に過ごしてくれた。
おかげで、久しぶりにゆっくり眠れたように思う。
「おはようございます、お義母様。本日もよろしくお願いします! 」
「アンナリーゼ、おはよう。昨夜は、ゆっくりできましたか?
ジョージアがずっと付き添っていたようですけど、邪魔じゃなくて?」
「いえ、ジョージア様のおかげでゆっくりすることができました!」
ニッコリ笑うと、義母も笑ってくれる。
「アンナリーゼがいると、家が明るくなりますね。嬉しいわ!
私たち娘も欲しかったから、あなたが来てからというもの、旦那様とあなたの話でとっても盛り
上がるのよ!」
「私の話でですか?なんだろう……そう言われると、ちょっと緊張しますね?」
ふふふと柔らかく笑う義母は、ジョージアと同じ優しい雰囲気だ。
「そうだわ!アンナリーゼは、お母様の教育もよかったのでしょうし、とっても勉強熱心のおかげで、
私が用意してた課題もすべて終わったの。
少ししてから、実践と行きましょう!こちらで初めてのお茶会に参加ですよ!
もちろん、トワイスでも参加はしていたと思うけど、公爵家の人間として参加するのは初めてです
もの。がんばりましょうね!」
義母は、かなり私のお茶会参加に張り切っている。
こんな風に教えを請えば、いくらでも!と教師役をかってでてくれる義母の気持ちが、とても嬉しいし、私が歓迎されて公爵家にこれたことを実感する。
「そうだ!あと、専属の侍女をつけようと思うのだけど……どうしましょう……?」
「お義母様、もし、よろしければ、私自身で選ばせていただいてもよろしいですか?」
まだ、こちらにきて数週間の私が選びたいと言い出したことを不思議に思ったかもしれない。
でも、私の筆頭侍女になってほしい人物は、もう決まっているのだ。
トワイスにいるときから、ずっと、ずっと、主人を待っていてくれたのだから……その人物を私は選びたい。
「えぇ、いいわよ。侍女を全員連れてきてくれる?アンナリーゼが、専属侍女を選ぶわ!」
呼ばれた侍女が、階級順に入ってくる。
妥当なところで、普通は、1番最初に入ってきた侍女を選ぶのだろうが……
一人、目があった侍女がいた。
私の顔を見て、かなり驚いているようだ。
7人並んだ中、ひとりひとり私に挨拶をしてくれる。
その中で、私は、一応、吟味していく。あの人物以上にいい侍女がいれば、それはそれだ。
でも、あの人物以上の印象を受ける人はいなかった。
中には、ちょっと気になる侍女がいたのだが……明らかに、いい感情を持ってくれていないと心のうちが見えたような気がした。
「デリア、あなたがいいわ!私の侍女になってくれるかしら……?」
ちょっと不安そうに指名すると、デリアは、ニッコリとこちらに笑顔を見せてくれる。
「喜んで!若奥様!」
「ありがとう!あと、侍女の皆様がいるので……できれば、私のことは、名前で呼んでほしいの……」
「アンナリーゼ?」
「ごめんなさい。お義母様。私、若奥様とか奥様って呼ばれるのは……」
「そう、慣れだと思うけど……アンナリーゼが、嫌なら仕方ないわね。そのように通達してくれる?」
義母の侍女長にそう伝えるとかしこまりましたとその日のうちに、私は『若奥様』や『奥様』から解放され、『アンナリーゼ様』と呼ばれるようになった。
デリアには、『アンナ様』と呼ばれることになり、心安らげる人物を手元に置けることで少しだけ肩の力が抜けたような気がする。
侍女たちが退出してから、義母にお茶を勧められる。それは、香りからして、例の高級紅茶のようだ。
「お義母様、この紅茶は、アンバー領の高級茶葉ですね?」
「そうよ! アンナリーゼは、この紅茶のことを知っているの?」
「はい、もちろん知っていますよ!私が懇意にしている商人よりいつも取り寄せているのです。
香り高くて、おいしいですよね!」
「アンナリーゼは、情報通なのね?私は、この前、初めてこの紅茶を知ったのよ……
アンバー領の母であるにも関わらず……」
「お義母様……この紅茶は、生産数も少ないですし、私も友人から教えていただいて知ったのです」
二人で紅茶を飲んでふぅっと息をはけば、少し話の話題を変えるようだ。
「アンナリーゼは、なぜ、デリアを選んだのかしら?優秀な侍女なら、カルアもいいと思うのだけど?」
義母は、専属侍女にデリアを選択した理由を聞いてくる。
ちなみに、カルアという侍女は、私が気になった人物だ。
「お義母様の申されたようにカルアも素敵な侍女になってくれると思います。
でも、デリアを選んだ理由は、私を見てくれた目ですかね?私の好きな目をしていました。
私を主人として仕えたいという目をしていたので選びました」
もともと自分の従者とは……言えない。なので、今日見たデリアの様子を見て答えたのだ。
本当に私を見て仕えたい! と訴えた目をしていたのだ。
「そう、そういう理由なのね。アンナリーゼらしい選択ね!」
義母は優しく笑ってくれる。
この選択……間違っていないよね?義母に聞かれちょっと不安になったのだが、デリアを選んだことに間違いはないと心を強く持つ。
◇◆◇◆◇
義母とのお茶も終わり、部屋に戻るとデリアが待っていてくれた。
「お帰りなさいませ、アンナ様」
「ただいま!疲れたよ……」
知った顔がいると、気持ちが緩むようだ。デリアの顔を見てホッとする。
「お茶を用意しますか?こちらで有名な生クリームたっぷりのケーキもご用意できますけど……」
「デリア、よくわかってるじゃない!でも、やめておくわ!
今晩、ジョージア様との時間があるから、そのときに出してもらえる?」
デリアが側にいると、知らない屋敷で心強い味方ができたようで嬉しい。
「デリア、ごめんね。全然、連絡しないで……しかも、こんな再会になっちゃって……」
デリアは、私の前までくると、膝を折り、ひざの上に置いていた私の両手を握って見上げてくる。
「デリアは、アンナ様が、必ず迎えに来てくれると信じていました!
今、こうしてアンナ様の手を握っていられる距離にいられることが、私には、とても幸せなことです!
これからも、どうかお側によろしくお願いします!」
大変だったろう……メイドから侍女になってくれという私の命令も、土地勘もないこの地でしなくてもいい苦労もしたはずだ。
今、こうしていてくれるデリアには感謝しかない。
「デリア、本当にありがとう……私、本当にいい従者に恵まれたようね!これからも、よろしくね!」
はいと答えてくれるデリアと私は、手を取り微笑みあうのであった。
ちょうど、ドアが開いたのは、そのときである。
さすがに、手を取り合って見つめていた私たちの姿をみて、ジョージアは、目を見張っていた。
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