今日は、ジョージアの両親とジョージア、それに私の予定がそろったところで、四人で食事をすることになった。
先日、私に毒が盛られたことで、両親は、とても心配してくれてたようだ。
「先日のこと、お義父様、お義母様には、大変ご心配をおかけしました。私はこの通り、専属侍女で
あるデリアがきちんと対応してくれたおかげで、無事に今日も過ごさせていただいています。
もちろん、ジョージア様にもご心配おかけしました……」
心配をかけてしまったので、しゅんとして三人に謝る。
「私たちのことは、気にしないで頂戴。それより、毒を盛った犯人を捕まえないと……
また、アンナリーゼに何かあれば、私たちはとてもあなたのご両親に顔向けできないわ!」
「お義母様……重々気を付けますので、気に病まないでください!」
「公爵家で、このような事態とは、忌々しきことだな?それで、ジョージア。犯人は捕まえたのか?
そのとき一緒にいたのであろう?」
ジョージアは、私の方をチラッと見る。
「お義父様、犯人は捕まえておりません。大体の見当はついていますが、一使用人だけで計画できる
ことではございません。証拠集めのため、しばらくは泳がせることにしています」
「それでは、アンナリーゼにまた、危険が及ぶでないか?ジョージア!」
ジョージアが、義父により責められている。悪くないジョージアが可哀想でならない。
「お義父様、私は、大丈夫です!幸い、父に毒耐性をつけさせてもらいましたので、少々の毒では
死にませんから。この前は、少し量が多かったので、苦しみましたが、解毒剤があるので大丈夫
ですから、差し出がましいのですが、私のしたいようにさせていただけませんか?」
「そうはいってもねぇ……とても、アンナリーゼが心配よ……」
義母は、私を心底心配してくれる。
両親とも、そして、ジョージアがとても心配してくれることが私は何より嬉しい。
「これから、また、このようなことがないよう、対策はきちんととるべきね!
ジョージア、しっかり、アンナリーゼを守るのよ!」
義母に言われ、あぁと返事をしているジョージア。
ジョージアも、この話題は、歯がゆいのだろう。
答えを知っているのに答案用紙には、答えを書けないような感じだろうか?
ただし、ジョージアは、犯人はわかっていないだろう。
「そうそう!お話は変わりますけど、アンナリーゼに、王宮の公妃様よりお茶会の招待状がきて
いますよ!ちょうど1週間後ね。ドレスは、どんなものにしていきましょう?」
「お義母様、ありがとうございます!この前、ジョージア様から贈っていただいた薄い黄色のドレスは、
どうでしょう?夏直前ですし……」
思い浮かべているのだろう。義母を目をつむり、想像している。
「素敵ね!それにしましょう!こちらでは、社交界デビューですからね!私、ひとり息子しかいなかった
から、娘と一緒にお茶会に行けるのをとても楽しみにしていたの!」
義母は、私と行けるお茶会を楽しみにしてくれているようだ。
そんな風に思ってもらえることを知れば、私の方が嬉しい!
「お義母様と一緒にお茶会に行けるなんて!私もとっても嬉しいです!」
満足そうに両親とジョージアが微笑んでくれる。
私、あざとくないよ!本当に嬉しいんだからね!心の中では、叫んでおいた。
本心から、一緒にいけることが嬉しかった。
トワイスでは、母と一緒にお茶会に出ることなんて、めったになかったからだ。
理由としては、情報収集するのに効率が悪いからと、兄と三人で分担してお茶会には参加していたのだ。
本当に嬉しくて、その日までの1週間がとても長く感じられたのである。
「ジョージア、アンナリーゼ。君たち二人に話しておかないといけないことがある。
私たち二人は、君たちに公爵家と領地を預けたら、領主を退いて、旅に出ようと話をしているところ
なんだ。許してくれるだろうか?」
私もジョージアも寝耳に水で、顔を合わせるだけだ。
「それは、もう決定事項?」
「あぁ、ジョージア。そう思ってくれ。私たちが口を出すより、君たち二人で力を合わせて、領地を
繁栄させてほしい。私には、父からもらった土地を、繁栄させるどころか、維持するだけでいっぱい
だった」
「お義父様、繁栄させることも大事でしょうけど、きちんと維持されていれば、領民も住みやすいの
ではないですか?」
「アンナリーゼにそのように言ってもらえると、嬉しいよ。ただ、やはり、南の方では、とても栄えて
いるんだ。そこと比べるとね……」
「確かに、新しい商業施設などもたくさん用意されていますからね……」
私の発言を聞き、義父は、とても驚いている。
答えは簡単だ。私は、その商業施設へも投資しているから、栄えていることも分かる。
利益がうなぎ上りに上がってきているのだ。ただし、頭打ちはあるので、この先20年したら、きっと
その景気もなりを潜めると読んでいる。今だけでもと私も荒稼ぎ中だ。
「アンナリーゼは、何故、南の方が栄えていると知っているんだね?」
「はい、父の勧めで商業施設への投資をしています。ただ、今はいいですが、よくてあと20年くらい
かと思っています。そのあとに続く産業がまだ、育っていないので……他の産業が育てば、また
違う魅力も出てくるでしょうが、今のところそういう情報がありません」
「投資とな……?アンナリーゼの父君は、確かトワイス国で財務大臣をされていたのだったな?
それで、投資ということかい?」
「いいえ、お義父様。もともと、今の侯爵家の資産は、父の代で投資によって稼いだものです。
投資をする父に先見の明ありと、今の役職に陛下が取り立ててくれたのですよ!」
身内自慢できるのは、気恥ずかしいが嬉しくもある。
隣国とはいえ、噂程度にしかトワイスの情報は入ってきていないようで、義父たちは感心してくれた。
それに令嬢が進んで金勘定に口を出すことはないに等しいが、それすら飛び越え、投資をしているだなんて聞けば、驚くのも頷ける。
「今の話を聞くと、アンナリーゼも父君に似て、先見の明があるのではないか?」
「いいえ、私には、そのようなものはございません。父に倣ったことです。両親は、ありとあらゆる
分野で私を導いてくれました。お義父様もご存じだと思いますが、私、あまりお勉強は得意ではない
のです。それを根気よく興味を持たせてくれた両親や兄が、いたからこその知識ですよ!」
ジョージアが、ことさら頷いている。
一昨年の夏休みに、私に勉強を教えてくれたジョージアなら、その苦労もわかってくれているはずだ。
今は、幻滅されまいと、人一倍努力している最中なので、あまり『できない私』が表に出ていないけど、本来は……外で、剣を振り回したり、馬で駆けたりしたいのだ。
机に齧りついて勉強というのは、私には似つかわしくなかった。
なるほどと、義父は納得してくれ、今度、私にも投資の極意を教えてくれと言ってくれる。
今まで、教えて!と言ったことは何度も、それこそ数えきれないくらい言ってきたが、教えてほしいと言われたことはなかった。
「私でよければ!」
誇らしい気持ちが湧いてくる。隣で、よかったなと微笑んでくれるジョージアにニッコリ笑顔で返事をしておいた。
「そろそろ、結婚式の日取りを決めようと思うんだけどね、いつ頃がいいだろう?
春を予定しているのだが、それくらいでいいかい?」
「僕たちは、まだ、日取りまでは考えてませんでした。早い方がいいですけど、春に行うのが妥当です
ね。まだまだ、アンナに余裕がありませんから……」
「すみません……頑張ります……」
「責めているわけじゃないよ。詰め込みすぎて、倒れたらそれこそ意味がない。ゆっくりでいいんだ。
時間をかけて、アンバー公爵家やアンバー領のことを知っていけばいいんだよ!」
ジョージアに諭されると、ホッとする。
「では、そのように進めましょう!この前、アンナリーゼのウエディングドレスの草案もできたこと
ですし、いろいろと揃えないといけないものもありますからね!準備は怠ってはいけませんよ!
特にジョージアはね!こんな素敵なお嬢さんが来てくれたのですもの。
公国の歴史に残る程のとびっきりの結婚式にしましょう!」
義母は、目を輝かせながら緻密な計画を練る準備に今夜にもさっそくかかりそうだ。
でも、本当に大事にされていると身をもって感じられる。『予知夢』では、私の扱いは、公爵家全体で冷たいイメージだった。特にジョージアは、ひどいものだったのだ。
それが、こんなにも家族から愛情をもらえるなんて思ってもみなかったのだ。
あの頃見た『予知夢』と、少しずつ変わってきているのではないか……?この温かな夕餉の時間が何よりであった。
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