僕は、アンナの部屋を出て、自室に戻ろうと渡り廊下を歩いていた。
中庭に散歩していたのかジョージアが寮に向かって歩いてきているのを発見したので、思わず渡り廊下から声をかけてしまう。
「ジョージア様、今、お帰りですか?」
僕の声に驚いたのか、ジョージアは、声のする方へと視線を向け声の主を探していたので、手を振っておく。
気づいてくれたのか、目があった。
いつかアンナが言ったようにジョージアは、綺麗な蜂蜜色の瞳をしている。
「今から、そっちに行きますから、少し待っててください!!」
頷いてくれたため、僕はそこから駆けていく。
合流する直前に、ふうっと一息入れて息を整えた。
「お待たせしました。
少しお話したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
「もちろんだよ。部屋を用意しよう。
ついてきてくれ。あと、そのよそよそしい敬語もいらない。
同じ年なのだし、普通に話してくれてかまわない」
妹の入学から1年がたち、妹の話をきっかけに少しずつ話をするようになったのだが、いまだにジョージアに対して敬語だった。
特にこうしてくれと言われていなかったのでずっと敬語で話していたのだが、どうも堅苦しいのは嫌だそうだ。
ジョージアの部屋に通され、まずは、雑談を始める。
これは、相手がどんな状態なのか状況判断するためだ。
機嫌が悪かったり、体調がすぐれなかった場合、日程だけ決めてお暇するつもりだった。
「ジョージア様は、中庭に?
チューリップという花が見ごろだと先ほど妹が話していたけど、散歩に行かれてたので?」
侍女にお茶を用意してもらい、茶菓子が出てきたので一口ずつ口にしている。
ほんのり甘いクッキーだった。
甘いのがあまり好きでないらしい、ジョージアらしい茶菓子だ。
「あぁ、そうだ。ローズディアやトワイスで咲くものではないらしい。
ここの庭師が特別に取り寄せたらしくって、見てみたいと思って見に行ってきたところ」
ジョージアが他国の花に興味があるとは、あまり信じられなかった。
「花好き?」
「……あぁ、そうだな。割と花は好きだ。
特に他に興味が惹かれるものがないからなぁ……
他国には、太陽に向かって咲く大輪の花もあるときいている。
そういうものにも、興味はある。
でも、我が国が誇る薔薇は、格別だと思っているよ。
その中でも青薔薇は別格とね」
「青薔薇とは、そのままの?
技術的に青い薔薇は難しいという話を聞いたことあるけど、ローズディアでは、
完成しているのか?」
ジョージアは、ふっと不敵に笑う。
まさに青薔薇が似合いそうな貴公子だ。
女の子たちが騒がないわけないよなぁ……と、思える。
「我が国では、すでに完成している。
他国には、輸出されていないが、我が家の庭にもあったはずだよ」
ここの中庭は、季節折々の花が咲いている。
僕もたまに気分転換を兼ねて中庭をぶらついているのだが、まだ、青薔薇は見たことがなかった。
それこそ、去年あたりから他国の花も輸入して咲かせることもあるのだが……
「まだ、青薔薇は機密性が高いから、もうしばらくは、他国には出回らないはずだよ」
僕の表情を呼んだのか、先に答えを言われてしまう。
「是非とも、一度お目にかかりたいものだ。
そうそう。我が家にも珍しいものがあるのだけど、ぜひ、ジョージア殿に見ていただきたいと
我が家に招待したいのだが、どうだろう?
空いている日取りを聞いてもかまわないだろうか?」
ジョージアに訝しまれる、が、僕はめげない。
ここで、めげると、僕の奥さんが……紹介してもらえない。
話の切り口が悪かっただけ……ここで諦めるとアンナに叱られる。
そして、寂しい卒業式になるのは必然だ。
先程、アンナと日程調整をするために決めた日を提示したところ、いつでも大丈夫だと返事をもらう。
「公爵家には、ないと思う珍しいもだよ。
これが、なかなか手の焼く代物でね。
でも、そこも含めてとても可愛いんだ。
是非とも、ジョージアに見てほしいと思ってね!」
僕は、代物の名前は言わない。
ジョージアもまさか、アンナリーゼだとは思っていないだろう……
手の焼く代物なんて、本人が聞いたら、僕はしばらく再起不能にさせられてしまうに違いないが、きっとジョージアは、それが何だったとしても黙っていてくれるだろうと願う。
「それじゃあ、その日程のどこかで招待状を送るよ。楽しみにしていて!」
話はそれだけだったがアンナの話を少ししてから、ジョージアの自室から退出することにした。
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