「ハリー!!」
私は、玄関に急いで行ったが、すでにハリーは待っていてくれた。
なんか、ちょっと怒っているようだ。
「やぁ、アンナ。きみはいったい、この数日間、どこをほっつき歩いていたのかな?
昨日、お見舞いに行ったのにいないとサシャに言われたよ?」
顔をみると……おっと、優秀な子飼いができたのか、私の行動は筒抜けのようだ。
何よりだが、それ、私に使っていいのかは疑問が残る。
「これには、深い事情があるから、許してください!!」
お怒りのハリーに向かって拝み倒す私。
「アンナ、さすがにその姿は、カッコ悪いです……」
「エレーナ!」
後ろからついてきていたエレーナに助けて!と懇願する目を向けたが、エレーナは、助けてくれなさそうだ。
むしろ、エレーナは、こんな私に関わらないでおこうとしているのが目に見えている。
自分で蒔いた種とは言え、ハリーのお小言を聞くのは辛い。
「ようこそおいでくださいました。
今、フレイゼン様にお世話になっています、エレーナ・アン・クロックです。
以後、お見知り置きください」
「あぁ、どうも、ヘンリー・クリス・サンストーンだ」
ニコリと笑い、ハリーへ挨拶をするエレーナ。
きっと、話をそらすために助け舟を出してくれたのであろう。
よくできた侍女は、そういう機転も聞くものであるから、助かった。
「アンナ、そろそろ学都へ行かないとお茶会に間に合いませんよ?」
「そうね!行こ!ハリー」
そう言って、怒っているハリーを引きずり馬車に押し込んだ!
「じゃあ、エレーナ、後よろしくね!」
馬車の小窓から、上半身を出して手をぶんぶん振って屋敷を後にした。
エレーナは、その姿が、アンナらしいと苦笑いするのである。
◇◆◇◆◇
馬車に乗ったことで、さっきまでの怒った雰囲気は少し抑えられたハリーと対面に座る。
「ハリー、学都は、どこから回る?決まってないなら、私寄りたいところがあるの」
「行きたいところは、農業の研究をしているところと、あと薬科もあるんだろ?
そこに行きたい。とりあえず、今日は、その2つかな?」
「わかった!私も薬科に用事があるから、助かるよ!」
ハリーも楽しみにしていたのか、さっきまで怒っていたのにすっかりいつもの雰囲気に戻る。
でも、まだ、油断はならないと私はそっと自分に言い聞かせておく。
「じゃあ、先に農業の方に行こうか」
ハリーが御者に行先を言い、馬車をそちらに向けてもらう。
ここの研究所は、作物の成長環境における研究や作付け量に対する収穫量向上、害虫や病気に負けない作物などの研究が行われている。
じっくり回ろうとすると、1日ではとても回れないので、とりあえず回ってハリーの興味をそそられたところに戻ってくるという感じで、案内することになった。
公爵家のハリーは、第一産業といわれる農業がどんなものなのか書物の中なら知っていたが、実際見るのは初めてだったらしく、トマトの成長とか収穫とかにいたく感動している。
大きな少年のようで、とても可愛らしい。
「アンナ、こんなに大きなトマトが採れたよ!
こんな小さな身からこんな真っ赤になるんだな。すごいな!!」
ハリーのそのすごく嬉しそうな顔を見ている研究員たちが、涙を流しそうな勢いで喜んでいる。
両者すごく嬉しそうなので、放置だ。
私は、黙ってハリーを見ていることにする。
普段は、あまり貴族らしく表情を抑えているので、クルクル変わる表情が、おもしろい。
ここは正解ね。ハリーのあんな顔見たのって久しぶり。
本当に嬉しそうに研究員と一緒に笑っている。
一頻り研究員に話を聞いて満足したのか、トマトを2つ持って私の前に来ると、持っていたトマトを私にくれる。
朝ごはんを食べてこなかった私は、トマトの匂いと酸味、ほんのり甘い完熟したトマトを堪能した。
隣でも、感動して食べている。
「こんな美味しいトマトは初めてだ!」
「そっかそっか。それはよかった!!採りたてを食べるとまた美味しよね!」
モグモグと瑞々しいトマトを二人が完食したあとは、薬科に行くことになった。
私の目的地でもある。
「ハリーは、薬科で、何を見たいの?」
「最近、この学都からいろいろな薬を出しているだろ?
まぁ、俺にわからないだろうけど、どんなものなのか見たかっただけだよ」
頭のいいハリーでもわからないことはたくさんあるのだと認識させられる。
それもそっか。
内政については父親の宰相から学べても、薬については学べないものね。
納得顔の私も、この学都が誇れるものだと思うと嬉しい。
薬科の研究所まで話しながら歩いていると、声を掛けられる。
「アンナリーゼ様?」
「ん?あぁ、ヨハン教授!」
「今日、くる日でしたっけ?」
「ううん。今日は、友人の案内だけど、出来てるなら、寄ろうかなと思ってたところ」
目の前に現れたのは、私のための研究機関のヨハン教授だ。
見た目は……かなり怪しい人物だ。
「アンナ?」
「あっ!紹介するね!こちらヨハン教授。私のための研究をしてくれているの。
こちら、サンストーン公爵家のヘンリー様」
お互い挨拶を交わしているのを、見ている。
変人としっかりした青年って感じで何ともアンバランスである。
「それで、新しいのはどんなもの?」
「結構、強力です。なんで、一人ででは飲まないでください」
私たちは、ヘンリーそっちのけで新しい効力にのものについて話す。
「わかったわ。じゃあ、今飲んでく」
「アンナリーゼ様は、急ですね……用意するんで、研究室に行っててください」
ヨハンに研究室へ行くよう指示をされたので私はヨハンの研究室へ入る。
鍵がかかっていないなんて、不用心だ……
「何の研究してる人?」
「毒だよ。解毒剤の作成もしてるの」
「毒だって?」
「そう……」
毒と聞いてハリーは、かなり驚いている。
「お待たせしました。これが新作、こっちが解毒剤。で、これが解毒剤のレシピ」
毒の入った試験管をヨハンに手渡される。
「ありがとう。じゃ、いただきます!」
次の瞬間には、私は毒を煽った。
もちろん、何千倍と希釈してある。それでも毒を飲めば苦しい。いつものように、苦しむ。
座っていたソファーから転がり落ちて床で苦しみ始めた。
「う……ゔぅ…………」
それを見たハリーは、ヨハンに詰めよったけど……私は、ヨハンによりきっちり1分間藻掻き苦しめられる。
「アンナリーゼ様、解毒剤です。飲んで!」
藻掻いている最中なので、飲めるわけもない。
なので、ヨハンに鼻をつままれ口を開けた瞬間に試験管を口に突っ込まれた。
ゴクンと解毒剤を嚥下したら、体からふっと力が抜ける。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、もう大丈夫。これ、キツイわね……」
目に涙が溜まっていたらしく自分で拭うと、青くなった私をハリーが見下ろしていた。
私と目があった瞬間、ヨハンを押しのけてハリーが私をかき抱く。
「ハリー痛い……」
泣いているのか体が震えている。私は、ハリーを落ち着かせるために頭撫でる。
「大丈夫だよ……ほら、何ともない!」
「大丈夫じゃない……」
さらにきつく抱きつかれるので、痛くてたまらないが、抵抗せずここは我慢した。
「アンナ……きみは、いつもこんなことをしているのかい……?
俺の知らないところで、こんな危険なことを!!」
「そうだよ。毒耐性をつけるために、少しずつ体に毒を入れて馴染ませているの。
今日のは新作ですよ!」
「……バカだ……死ぬかも知れないんだよ……?」
「そうだね。バカですよ。でも、私にとって、これは必要なことなのだから仕方がないよ。
ハリー、心配してくれてありがとう……」
ハリーの腕から逃れてからは、毒を煽ったことでこっぴどくハリーに叱られた。
でも、他に毒耐性をつけるなんてやりようがないので、仕方ないじゃないと言えば、喧嘩になってしまった。
そのあとは、他の研究所を回っても二人とも無言のまま、予定していた見学を終えるのであった。
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