「……ただいま……」
屋敷の玄関の扉を開くと、そこにはウィルが待っていてくれた。
手を繋いだままの私とハリーを見て、頭を振っている。
「姫さん、おかえり。ヘンリー様もいらしていたんですね。今日のお茶会の参加者ですか?」
「あぁーウィル殿か……そうだ。今日は、アンナに招待してもらったんだ。
君がこのお茶会の主賓かな?」
「主賓?よく言うよ。姫さんの手握っておいて……」
ウィルに言われるまで、私たちは手を繋いだまま玄関に立っていた。
気まずくなって、それとなく二人とも手を放す。
「姫さん、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫!」
ウィルに向かってニッコリ笑うと、近づいてきて、わしゃわしゃッと頭を撫でてくれる。
どうしたんだろう?と思いながら見上げると、ちょっと切なそうにウィルは微笑んでいた。
「サシャ様とエリザベス様が、ちょっと前にティナとニコライを連れてきたんだ。
そっち、手伝ってあげて。エリザベス様が、気負っちゃって……
エレーナも手に負えなくて大変だから!」
「うん、ありがとう!じゃあ、ちょっと、先に行ってくる!
ハリーもウィルも待ってて!すぐ準備するから!」
私は、トタトタと惨事なっているというサロンのほうへ駆けていく。
◆◇◆◇◆
「エレーナ!準備はどう?順調?」
「アンナ!おかえりなさい。エリザベス様が、ちょっとてんぱってしまって……」
床に広がる砂糖が、見るも無残だ。
そして、その失敗で青ざめているエリザベス。
兄もエリザベスを宥めているが、うまくいってないようで、エリザベスの耳に届いていない。
「エリザベス!しっかりしなさい!」
私がカツを入れたとたん、背筋がビシッとしてエリザベスの顔も上向きになった。
「貴族令嬢たる私たちは、決して下を向いてはなりません。背筋を伸ばして、前を見据えなさい!
あなたは、もうフレイゼンの人間なんですから!しっかりしなさい!!」
「はい!お義母様!」
エリザベスが私を母と間違えたようで……母を呼び、周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
兄が笑い始め、友人たちまで笑っているのだ。
兄の背中にも私はカツを入れる!
奥さんになる人を立ち直らせてあげれなくてどうするのだ。
私だって、いつまでも、トワイスにはいないのだから……兄がしっかりしてほしい。
「エリザベス、私はアンナですよ?少しくらいの失敗は、誰にでもあります。
そのリカバリーが大切なのですよ!次にしないといけないことは、わかりますか?」
私の問いに先ほど母と私を言い間違えたのが恥ずかしかったのか、顔を赤らめたエリザベスが頷く。
もう、エリザベスは大丈夫だろう。
「では、エリザベス、しっかり次の準備をしましょう!」
私は、エリザベスに向けて微笑んだ。
私の顔を見て、安心したのか、そのあとはきちんとフレイゼン侯爵の女主人として、忙しそうに動きまわっていた。
「エレーナ!ティアとニコライをこちらの席に、ハリーとウィル、セバスとナタリーはこちらに、
あとはメアリーが来ていないかしら?」
指示通り、エレーナは、友人たちを席に案内し始めてくれる。
「アンナリーゼ様、ごきげんよう!遅くなりすみません……」
今しがた着いたようでメアリーが慌ててサロンに入ってくる。
その後ろから、ハリーとウィルも一緒に入ってきた。
これで、招待客は全て揃ったため、みなが席に着いたか確認するために見回した。
「エレーナもそろそろ席に座ってくれる?お兄様も何もしていないなら、座ってちょうだい。
エリザベス!そろそろ座って!」
長テーブルに私たち兄妹を中心に爵位順に並んでいる。
私の右横にはハリー・ウィル、その前にティア・ニコライ。
兄の左隣にエリザベス、その前にナタリーとセバス。
私と兄の前にエミリー・エレーナが座した。
本来なら、兄の挨拶で始まるお茶会だが、私の挨拶で始まるお茶会。
「今日は、フレイゼンの領地まで足を運んでもらい、本当にありがとうございます。
しばらくの静養を挟んでいましたが、みなさんとこうして、会えたこと嬉しく思います。
この秘密のお茶会に今まで参加していなかった方の紹介をしますね!
ご存じでしょうが……トワイス国公爵家、ヘンリー・クリス・サンストーン。
あと、兄の婚約者でトワイス国侯爵家、エリザベス・バクラー、
さらにエルドア国侯爵家、エレーナ・アン・クロックです。
一般の学部から、トワイス国の宝石職人のティアとローズディア公国の大店子息のニコライです。
皆様、お知りおきください」
それぞれ紹介をすると、立ってお辞儀をしてくれていた。
「この秘密のお茶会ですが、私が特別に仲良くしたい方を呼んでいます。
今年は、折しも私たちは最終学年となり、みなさんとバラバラになってしまいます。
それでも、今後も強固に繋がれれば幸いと思い、今回特別に父から許可をもらい、領地で秘密裏に
お茶会を開催させていただきました。
遠いところ来ていただいたことに感謝を述べさせてください。
今日は、少しの時間ですが、楽しんでいただければと思います。では、お茶会、始めましょう!」
みんなにニッコリ笑顔を向けると、それぞれが微笑んだり茶化したりと返してくれる。
いつも、こういう挨拶は緊張してしまうから、反応を見てホッとした。
「セバス、ニコライ!」
私が呼ぶと二人が席を立ち、こちらに来てくれる。
「お兄様、ぜひ、二人と話しをしてみてください。有意義な時間になると思いますので……」
兄に二人を勧めると、サロンの別席に三人で移動していく。
「エミリー、エレーナ!エリザベスと是非、話してみてください。
きっと楽しい時間になりますよ!あっ!ナタリーとティアも一緒によろしいですか?」
もちろんよ!と長テーブルの左に偏って話し始めた。
エリザベスが、先程までガチガチに緊張していたけど、少しほぐれたようでいつもの調子に戻りつつあり何よりだ。
「ハリーもウィルもお兄様のところに混ざってきたら?
ニコライも今日はあちらに入っているから、きっと面白い話が聞けるわよ?」
「姫さんは、何するんだ?」
「私は、一昨日の事後処理かな?」
「なら、俺はそっちについていくよ。一人も従者がいないのはダメだろ?」
「わかった。ありがとう」
「僕もついて行っていいかい?」
「ええ、もちろんいいわよ?ただし、聞いたことは口外しないでね?」
私とウィルの会話を聞いていたハリーが、興味を示したようだ。
『事後処理』という言葉に反応したのか、ハリーが付いてくると言い始めた。
と、言うより、私の保護者として見届けないといけない義務のようなものを感じているような雰囲気ある。
先程のこともあるからから、ハリーからは、慎重な雰囲気が漂っている。
やましいことはしていないので、構わないと思い、一緒に来てもらうことにした。
「お兄様、私、少し席を外します。ハリーとウィルも一緒に。
30分後にエレーナを客間にお願いできますか?」
「わかったよ。行っておいで」
兄に少しの間退席することを告げ、私は客間に向かう。
ニナの家族が、そろそろこの屋敷に到着するころだった。
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