『やっと』と言っていいのだろうか……?
私は、ずっと、この日を待っていた。『予知夢』では、私達の結婚式の後で会わされるはずの第二夫人になる人物に。
会いたいような、会いたくないようなそんな人物に、会う日がきた。
私の気持ちを反映しているかのようなどんよりした曇天は、今にも雨か雪が降りそうで気分も下がってくる。
もちろん、私が会わせてくれとジョージアにお願いしていたのだから、会わないと拒否するつもりもないが、あまり気分のいいものではない。
みんな、どうやって、もやもやとしたこの気持ちを切り替えているのだろうか……?
よそ貴族の第一夫人に聞いてみたい!!
両親は仲良しすぎて、他に誰かいたことないのでわからない。
『第二夫人 ソフィア』
私の命運を共にする凶星の存在だ。
考えてみれば、ソフィアにとって、これ以上ないくらい私という存在は邪魔な存在だろう。
私がソフィアだったらと思えば、まず、婚約すらさせないであろう。ましてや、結婚前に一緒に住むなど、どんな手を使ってでも阻止したいところだ。
爵位が上位の家に生まれたことが、これほど意味のあるものになるとは、私はつゆほど思わなかった。
ソフィアからすれば、ぽっと出の私が第一夫人としてアンバー公爵家の顔となり、先に目をつけていたにも関わらず爵位の問題で第二夫人となってしまったのだから……そう考えると可哀想ではある。
第一夫人と第二夫人とでは、意味合いもそして公爵家に及ぼす影響も全く違う。
寵愛されれば、屋敷内での勢力図は逆転する場合もあるが、世間一般的に考えて、全てにおいて私に分があるのだ。
ジョージアの両親に気に入られたことも、本当に大きな意味をもったと思っている。
飾りになるつもりはない私は、さぞ、ソフィアには目の上のたん瘤となるだろう。
私が本来通り、ハリーと結婚していれば、ジョージアの隣はソフィアのものだったはずだ。
それに、ソフィアは、ジョージアを他の誰とも近づけさせないほど、気性が激しいとも聞いている。
学園でも数々の噂は聞いていたが、実際、ソフィアと年の離れた私は卒業式の一時だけしかしらないのだ。
私、そんな女性とうまくやっていけるのだろうか……?
違うな。
そんな女性を囲うジョージアと、今後、うまくやっていけるのだろうか?
あの『予知夢』は、もう目の前まで近づいている。
私も大概なのだが、そこまでジョージアに執着はしていないと思っている。
今のところ、ジョージアにもらう愛情の三分の一も返せてはいないのではないだろうか。
いつも悩みの種だが、私なりに返せる愛情は、重くならない程度に返しているつもりではあった。
いろいろなことが浮かんでは、消えていく。
私の頭の中は、今は、とても忙しい。
最後に浮かんだのは、ジョージアの卒業式であった。
殺気だった視線を向けられたなぁと他人事のように考えて、頭を軽く振り、小さくため息をひとつついた。
◇◆◇◆◇
客間に通されたソフィアをジョージアと私が一緒にもてなしする予定だった。
部屋に入った瞬間から、ソフィアは、私に対する嫌がらせをすでに始めていたようだ……私のことは目に入らないということだろう。完全にいないものとして、扱われる。
私は、考え事をしていたため、油断していた。
「ジョージア、会いたかったわ!」
私を完全に無視して、ジョージアに抱きついた令嬢こそが、ダドリー男爵家のソフィアその人だった。
黒髪にぱっちりした黒目、そして、童顔で小さく守ってくださいと言わんばかりのソフィアは、実年齢よりかなり幼く見える。
ちなみに、私より4つも年上だ。
「トワイス国フレイゼン侯爵家、アンナリーゼ・トロン・フレイゼンです。突然の召喚に来ていただき、
ありがとう存じます」
私は、無視されることも想定内ではあったの、一応挨拶をすることにした。挨拶を先にされて、無視をすることは、貴族社会ではかなりの失礼に当たる。相手がよほど嫌いでない限り、何かしら反応を見せないといけないことは、貴族社会での暗黙の決まり事であった。
それも、上位者に対しては、相手とのどんな理由があれど、必ず挨拶はしないといけない。
相手が侯爵令嬢の私で爵位が上位であるため、男爵令嬢であるソフィアが今やっていることは、完全なる違反であった。
私から挨拶したのに無視をされ、さすがにカチンと頭にはきたけど、私、これでも侯爵家の令嬢ですからね。こんなことで声を荒げて怒りませんよ?
振り返ると、ジョージアにべったりくっついていて、甘えた声で寂しかったとか会いたかったと囁いている。
色っぽく甘える声と幼い容姿とのギャップが……すごいなと思って観察する。
コルセットでしっかり集めたであろう胸をジョージアの腕に擦り付けているのだ……コルセットは、かーなーりー優秀のようだった!
私の手前、ジョージアも迷惑そうでありながら、ちょっと口角のあたりが……と、私はジトっと観察中だ。
「あぁ、僕も会いたかったよ…………」
私が目の前にいるからか、ジョージアは微妙に言葉を選んでいるようだ。
見せつけるかのごとく、ソフィアは、ジョージアをべたべたと触っている。
もう、好きにしてくれていいわと私は一人ソファにドカッと座って、成り行きを見ていた。
黙ってだ。
何も言わずに、ただただソフィアにされるがままの状態を私にみられているジョージアは、実に居心地が悪そうにしている。
いつ、終わるかしら……?興味もそこそこに尽きてくる。
このむせかえるような甘ったるい香水も好きになれない。
ジョージアは、私に会いに来たときはちゃんと臭い消ししてから、会いにきていたということかと思わされた。
さすがにこの甘ったるさは、鼻に付く。
ジョージア様って、まめね……?
そろそろ、この茶番も終わりにしよう。飽きてきたし、香水の匂いで、気持ち悪くなってきた。
私は、ニッコリ笑う。
ジョージアが、青ざめているような気がするのは目の錯覚だろう。
「ジョージア様、ダドリー男爵家のソフィアは、どのような方ですか?今日、いらっしゃると聞いて
ついてきたのですけど……私、ジョージア様が庶民の古娘を囲っているとは聞いていませんよ?」
ニコニコと笑い、多少声が低くなったのはご愛嬌だ。
貴族は、上位者に対してかなり礼儀作法を重んじる。きちんとできてこその貴族令嬢だ。
ソフィアは、私に対してわざとしているのかもしれないが、街の小娘の方がまだ、礼儀作法を弁えている。
「いや、あの、アンナ……」
ジョージアは、チラッと抱きつかれているソフィアのほうを見ながら、私に対して戦々恐々としていた。
笑顔で言ってるんですから、怖くないでしょ!と思いながら、自分がとてもイライラしているのに気づいた。
そのことに、私はとても驚いた。
何ヶ月も甘やかされ一緒に暮らしたせいなのか、はたまた、私が思っている以上にジョージアに愛情があるのか……今の状況は、あまりよろしくない感情を抱く。
「まぁ、そちらの方、失礼な方ね!ジョージア、そんな小娘、早く追い出しなさい!私とジョージアの
時間を邪魔するなんて、目障りだわ!!侍従は何をしているの?」
「それなら、僕は、ソフィア、君を追い出さなければならない。アンナリーゼこそが、未来の公爵夫人
なのだから!」
ジョージアのその言葉で、今までの無礼を少し頭の隅にやり、私は自分が勝ち誇った気持ちになったのは秘密である。
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