「ごきげんよう!アンナリーゼ様!」
3週間ぶりに学園へ戻ると、あちこちから声を掛けられる。
見知らぬ生徒にも声をかけられるのだが、みな一様に可哀想にと形容詞がつきそうな顔を残していく。
あのお茶会での出来事が、学園でも噂として広まっているようで、少しだけ居心地が悪い。
「ごきげんよう!」
たくさんの人から声を掛けられるので、今日一日だけでごきげんようを何度言ったことか……
最後の方は、作業になってきている。
お茶会でのこともきっちり噂になっているようで、私が学園へ顔を出せば、ざわざわしてた周りも少し落ち着いたように思える。
「殿下、ごきげんよう!侍医にお薬など、たくさんの物資を送っていただきありがとうございました。
おかげさまで、やけども痕なくすっかり治りました。これも殿下が気遣っていただいたおかげです!」
久しぶりにあった殿下に感謝を述べると、また、ヒソヒソと噂話が広がっているようだ。
「アンナか……久しぶりだ。よかった!ひどいやけどであったからな……
痕が残ったら……と、ハリーと心配していたところだ」
「ハリーにも心配かけました……もう少し、自重しようと思い反省しています」
「アンナからそんな言葉が聞けるとはね……思ってもなかったよ!」
声の方を振り返ると、怒っているハリーだ。
昨日のことを思い出したようで、射るような目に私は肩を強張らせる。
ハリーは私をあまり本気では怒らない。
そんなハリーが未だに怒っていることで、私の気持ちは沈みそうだったが、努めて明るく久しぶりに会う設定の幼馴染へと挨拶をする。
「おはよーハリー!」
「おはよーアンナ。元気になって何よりだ!」
昨日のお茶会のことは、何も触れずにいてくれる優しいハリーに少しだけホッとした。
「そうだ、アンナ。久しぶりに今度、宮廷に遊びにこないか?」
「宮廷にですか?」
「そうだ」
「そうですね、お邪魔します!」
後ろで、ヒソヒソ声が増えた気がする……ので、そちらを振り返ると視線を合わせようとしない級友たちを不思議に思った。
その後、私は、つつがなく授業を受けた。
休んでいた間のことが、すっぽり抜けているので分からないことも多かったが、そこは、ハリーが隣について教えてくれる。
ありがたいことこの上ない。
さらに、イリアがまだ謹慎中のため教室にはいない。
ハリーと肩を並べてこんなに近くで勉強を教えてもらったとしても、私に何か言う人もいなかった。
殿下が時折、コホンと咳をするくらいだ。
大体そんなときは、ハリーのノートを見ようとハリーにべったりくっついているときだったのだが、いつものことなので気にも留めていなかった。
授業が終わり、久しぶりの授業に頭がパンクする程、負荷がかかりぐったり疲れ机に倒れこむ。
いつもはカフェテリアによって一息入れるが、それすらも今日は億劫であったため、寮の自室へ真っすぐ帰ってきたのだ。
ベッドでコロコロと転がっていると、学園のメイドが郵便物を持ってきてくれる。
だるい体を奮い立たせ起き上がって、その手紙を受け取った。
「誰からだろう……?」
封筒の封をきると、中に差出人が書かれている。
デリアだった。
『 アンナリーゼ様
お元気でしょうか?
私の方は、あれから紹介をしてもらいご要望の通り、
アンバー公爵家にてメイドとして働かせていただくことができました。
今は、メイドとして下積みをしているところです。
こちらでは、今現在、ダドリー男爵という方が、足しげく通っていらっしゃいます。
メイドたちの噂話ではありますが、ソフィアという娘とジョージア様との婚約を早急に
進めようとしているということです。
公爵ご夫妻が、あまり、よく思っていらっしゃらないようで、うまく進んでいないと
聞き及んでいます。
あと聞こえてくるのは、アンナリーゼ様のことです。
公爵ご夫妻は、卒業式でのアンナリーゼ様をとても気に入っていると聞き及んでいます。
私は、卒業式でのことは存じ上げませんが、事あるごとにおっしゃっているそうですよ。
私も、アンナリーゼ様とジョージア様の卒業式のご様子を見とうございました。
ジョージア様も、よく金の懐中時計を見てため息をついているという噂があります。
あれは、アンナリーゼ様からの贈り物でしょうか?
メイドたちは、恋人からの贈り物だと噂になっています。
アンバー公爵家では、もう一つ、婚約者候補のソフィア様の噂話があります。
まだ、裏はとれていませんが、アンバー領地の隣に位置する隣国の領主様との仲が、
取沙汰されています。
一部の貴族の中で仮面舞踏会と呼ばれる秘密の夜会が行われているらしいのですが、
そこでの話が浮き上がっているようでうです。
アンナリーゼ様、お体に気を付け、無理をせず、健やかにお過ごしください。
デリア 』
デリアからの手紙で、アンバー公爵家のメイドになれたことが書かれていた。
まずは、一安心だ。
やはり、ジョージアが卒業したことで、男爵からの圧力もまた重くのしかかっているようで、押しの弱そうなジョージアが少し心配になる。
ジョージア様は、無理をされてないだろうか……
手紙の中には、懐中時計を側においてくれているような記述があり、とても嬉しく思う。
そして、最後に気になる噂が書いてあった。
これは、やはり向こうの国で動く人間がいないとわからないものだ。
たしか、セバスもソフィアが、相当、ジョージアの卒業式のことで荒れていたと言っていた。
それに起因することなのだろうか……?
わからないが、頭の隅にでも記憶しておくことにする。
デリア、素敵な情報をありがとう。
私は返事を書かない。
デリアも了承の上で、一方通行の手紙なのだ。
将来、何かのときに見返すために、こういう情報は手元に残しておくといいこともあるらしい。
そっと机の引き出しの中にある鍵のかかる箱にしまっておいた。
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