結婚式の準備について話し合いも終わり、両親たちが早々にトワイス国へ帰っていった。
久しぶりに両親に会えて、私はとっても嬉しくて、2日と短い時間であったにも関わらず、とても充実したものとなった。
「ジョージア様は、お兄様になんて書いたのですか?」
「ん?結婚式の心意気的な?」
「お兄様に聞くことではないと思いますよ?今、ちょっと迷子のようですから……」
「そうなのか?」
「そうみたいですね……お兄様らしいと言えば、お兄様らしいんですけど……あっ!そろそろ、生まれ
るらしいですよ!クリストファー!」
クリストファーの名前を出すと、苦い顔をしているジョージア。
しかたないじゃない。
あなたの娘が、クリス!って、お兄様の子を呼んでたんだから……私、悪くないわ!
口には出せない私の心情は、ジョージアにはわからないけど、クリスで思い出すのは、二人ともハリーを思い浮かべるんだから、仕方ないわねと苦笑いをする。
ちなみに、ハリーもイリアとそろそろ結婚式だ。私にも招待状が来ていた。
ジョージアも行っておいでと言ってくれたけど、それよりも、今は、こちらでのあれこれを優先したいと断ることにした。
ハリーには、そのことを手紙に綴って送ったら翌週には、返事が来て理解を示してくれる。
懐かしいハリーの字を見て、きゅっと胸が痛んだが、今は、それどころではなかった。
「ジョージア様!ちょっとお城に行ってきてもいいですか?」
「また?」
「はい……ダメですか……?」
はぁ……とため息をついているが、お願いは基本的に聞いてくれるので、ジョージアは行ってきていいよと言ってくれる。
町娘のような服に着替え、ルンルンとスキップしながらデリアを伴ってお城まで向かう。
「こんにちは!」
「アンナリーゼ様!ようこそおいでくださいました!今、案内しますね!」
「いつもありがとう!あっ!これ、内緒ね。お菓子持ってきたから後で食べて!」
「ありがとうございます!」
とうとう顔パスになりつつある私からの門兵へのささやかな賄賂だ。
デリアからお菓子を渡してもらう。
有名店のお菓子だが、証拠が残らないように小分けパックにしてある。
だから、持って帰って奥さんにあげてもいいだろう。
もらった門兵たちも喜んでいるので、賄賂のことはしーっとしてくれているだろう。
◇◆◇◆◇
「ウィール!!」
「げっ!姫さん、また来たの?」
「ひどいいいようだなぁ……」
私を見てため息をつきつつ、仕方ないじゃんとウィルは言っている。
セシリアが目ざとく見つけ挨拶に来てくれた。
「アンナリーゼ様、先日は、お話聞かせていただきありがとうございます。
あの、もしよかったら、もっと他にも聞かせていただけませんか?」
「他にもですか?」
うーんと唸っていると、周りにわらわらと近衛たちが寄ってきて私の周りで座り始める。
そこにウィルもこそっと混ざっていた。
「ウィル、立って!じょあ、この前の実践ね。誰かワルツのテンポとってくれるかしら?」
私のいきなりの提案に名乗りを上げてくれたのはセシリアだ。
「僭越ながら私が……」
セシリアが手拍子でテンポをとってくれる。
性格を表しているようなとても正確なテンポをきざんでいる。
「じゃあ、ウィル踊りましょう!まず、ウィルのテンポ。受けてって!」
「わかった。姫さんお手柔らかに……」
仕方なさそうにウィルは、私と模擬剣を合わせる。
「ふふ、わかったわ」
私の打ち込んだところにウィルがピンポイントで打ち返してくる。
カンカンカンとこぎみよく模擬剣の音とセシリアの手拍子が共鳴し、見るものもひとつの芸事でも見ているかのようで楽しそうであった。
「じゃあ、次、お兄様」
最初は、先ほどと同じように打ち合っていたけど、だんだん、ウィルのペースが崩れていく。
お兄様は、正直、ダンスは下手だ。リズムがぐちゃぐちゃで、合わせるのは私かエリザベスくらいしか合わせられないので、ウィルも戸惑っている。
「うわ……あぶ……うぉっと……」
少し危なっかしい兄のリズムは、足を踏んだりされるのでちょっと変則的だ。
ウィルとの間に、時折、変な音が混ざるようになってきた。
「ふふふ、まだ、5割程度ですよ?」
「えっ?まじで?ちょっと待って……」
「まちませーん。次、トワイス国王太子殿下」
さらにギアの上がる打ち合いにウィルは、辛うじてついてきている感じだ。
「ちょ……ちょっと……タンマ!」
「えぇー!じゃー最後にしましょうか?」
「まだあんの?これ以上、ギアって上がるの!?あぁ、姫さんのハリーくんね!」
タンマといいつつも、殿下は規則正しくステップを踏むので、ウィルには少し余裕がありそうだ。
規則正しい動きになる。殿下は、肌にあうということか……私の心のメモに刻む。
「失礼ね、私の王子様よ!トワイス国宰相子息ヘンリー様!」
いっそう私の剣が、楽しそうに舞う。
もう、ウィルはついていけなくてところどころ、打たれている。
「いたっ!あたっ!おっと……ひめさーん!もぉ……勘弁してぇー!!」
もぉ、ヘトヘトになったウィルに情けないわね……と言って、ちゃんと反撃できないように最後はちゃんと剣は取っておく。
「これ、同じリズムですか?」
「そう。同じ曲のテンポ」
「これが秘密だったのか……」
私の強みを最大限に活かした剣技だった。
手を叩いていたセシリアは、ウィルとの対峙を見て同じものなのかと驚きを隠せていない。
ウィルは、初めて私の強さの秘密を知ったと頷き考察をしている。
近衛たちは、私のダンスをみて、口々にすごいなぁーと言っていた。
まぁ、ほとんどの近衛が、目だけであってもついていけていない感じはしたが……後は、自分で読み取ってもらうしかない。
満足した私は、模擬剣をウィルに返す。
「アンナ!」
私は、声の方を振り返る。とても聞きなれた声が懐かしい。
「お兄様?こんなところで、何しているの?」
「いや、アンナこそ……何しているの?」
「えっと、剣の稽古……?」
「こっちに来てまで?相変わらずだな……」
兄は、仕方なさそうに私を見て苦笑いをしている。
兄妹そろったのは、久しぶりだった。
「今晩、屋敷に行ってもいいかなぁ?」
「ジョージア様に聞いてみないとわからないわ……デリア、悪いのだけど、聞いてきてくれる?
しばらくここにいるから」
「かしこまりました!では、大人しく待っていてくださいね!」
そういって、デリアは、屋敷まで行ってくれる。
「なぁ、アンナ。こっちでも、こんな感じなのか?侍女にまで大人しく待っていろって……」
「うん。そうね。私は変わらずよ!お兄様は、どうですか?私に言いたいこととかありませんか?」
私たちは、訓練所の隅のベンチで座っている。
遠くで私の剣技を見た近衛たちが、遊びでなのか、私の剣技の練習しているのが見える。
「アンナに手紙をもらってさ、会いたくなって殿下にくっついてきちゃったよ。
明日は、昼から公務だから、それまではゆっくりしていていいって殿下が言ってくれたから、
屋敷へ行こうと思っていたんだ!」
「殿下も来てるんですね?結婚、準備ですか?」
「うん。そうだね。公にご挨拶だよ。殿下に会うかい?」
「ううん。今は、そっちの人に会いたくないかな」
「そうか……アンナも思うことがあるってことか……」
わけありげにいう兄は、ちょっとおかしい……心配にならない方が、おかしいだろう。
「ゆっくり話ききますからね?今晩は寝れると思わないで!」
「いや、アンナの顔みたら、なんか、少し落ち着いた。でも、少しだけ……」
そういって、私によっかかる兄。
「お兄様、大丈夫ですよ。アンナがついてますからね……」
兄は、ホッとしているようで、遠慮がちに微笑む。
「アンナ様。ジョージア様から、サシャ様の宿泊について許可がおりました」
デリアが戻ってきて、私に報告してくれる。
私の肩で寝ているのか、兄はすぅすぅと寝息をたて始めたところであった。
「少し寝かせてあげましょう……おやすみなさい、お兄様」
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