天高く馬肥ゆる……秋も深まり、食べるものすべてがおいしく感じる秋。
季節もギラギラ太陽から一変、過ごしやすいさわやかな優しい風が吹いている。
休日を使って自領のフレイゼンに戻った私は、久しぶりに馬を駆ってのびのびと過ごしている。
夏季休暇を終えてから、割と急展開にエリザベスとの仲が進んでいた兄は嬉しそうだったが、最近エリザベスの方が少し複雑な顔をするようになってきた。
私が調べた情報によると、学園卒業後にエリザベスが政略結婚になるかもしれないのだ。
それも20も離れた貴族の後妻となるということだった。
エリザベス本人に言われてないので、はっきりしていないが、兄もぐずぐずしている暇はなさそうだ。
気付いた頃には、手の届かないことになっているかもしれない。
しかし、鈍い兄がこのことに気付くことはないのかもしれない。
いや、ないに等しい。
それは、妹として断言できる。
絶対に、ない!
エリザベスの政略結婚の話は、エリザベスの父の事業失敗による負債を結婚により肩代わりしてくれる貴族が帳消しにするためだそうだ。
そんなお金で解決できるなら、うちが肩代わりしてもいいのであるが……兄の嫁にと望んでいるエリザベスに今後もいらぬちょっかいは、かけてほしくないので、この際、同じ方法で追い込んでしまおうかと考えている。
この情報、もっと深く情報を読み解いていくと、おもしろいことがわかった。
件の20も年の離れた貴族とは、ワイズ伯爵とのことだ。
どうもエリザベスをかなり気に入っているとのことで、借金の肩代わりに嫁にもらい受けるという魂胆で、エリザベスの父に話を持ち掛けているそうだ。
そのため、証拠が残らないように商人たちをうまく使ってバクラー侯爵領をかなり荒らしたらしい。
ただし、私に情報がまわってきているということは、伯爵程度では、人の口を塞ぐことはできなかったということだ。
まぁ、それくらいのことなら、うちの方が規模も大きくやり返すこともできるのだけど……握らせる額を増やせばいいだけだ。
貴族をゆするようなバカな商人は、まずいない。
それは、一般的に貴族に逆らえば、まず、この世にはいられないから。
うちはそんなことはしないけど……貴族と庶民の間の認識はそうなのだ。
定期的に利益が出るようにすれば、商人は不満を漏らすこともなく特に問題はないのだ。
さて、どうしたことか……?
トワイス国一無駄にお金が有り余っていて、お金を投資により荒稼ぎしている我が家に金で買えないものはない。
伯爵家くらいなら、なんとでもなってしまうだろう。
そんなことを考えながら、目的の地に着いたのでとりあえず馬から降りて、別荘の管理人に部屋へ案内してもらう。
「アンナリーゼ様、ご無沙汰しております」
そこにいたのは、あの殿下に頼まれ一悪役令嬢よろしくと芝居うったときに、学園をクビになった私の侍女だった。
ただし、あの時と今では全く別人のような身のこなしである。
「久しぶりね、元気だった?」
一声かけると、主人にするよう私はソファーへと案内される。
「はい。アンナリーゼ様のおかげで王宮にてメイドとして働かせていただきました。
学園での態度は、私の命をもってしても拭えない愚行だとはっきりいたしました。
アンナリーゼ様には大変申し訳なく思っております……」
床に平伏し始める。これが貴族と庶民との間柄なのだ。
「失礼を承知で私、デリアはこの命を主と定めたアンナリーゼ様のために、これ以降は、アンナリーゼ様
の侍女として働きとうございます」
虫のいいのはわかっているけど、私に雇ってほしいと彼女は懇願してきた。
もともと信用してなかった侍女だ。
それなら、一つ仕事を頼むとしよう。
その仕事如何で侍従にするのもいいかもしれない。
「わかったわ。ただし、私はあなたを全く信用していない。
それはわかっているわよね?
ただの、貴族の気まぐれにあなたの命を助けただけなのよ?」
はい……と呟くデリア。
貴族の気まぐれで助けられた命だということを身に染みたようだ。
あの程度のことで、命を絶たせるなんて貴族でも愚行だと思うけど、貴族によりけりなのだから一概に私がしたことが正しいとも言い難い。
「あなたは、私のために何ができるかしら? 」
「なんでも……何でもいたします!命にかかわることでも、何でも。
もともと私は死んでいてもおかしくないのです。
アンナリーゼ様のためなら、何でもできます! 」
私の問いは、本当に私の手足として動いてもいいとこの者をおしはかるため。
わかっていてするには、ずるい質問だ。
安全に暮らすなら、王宮で生活していればいいのだ。
生活面に困ることもない。
私は、それも選択肢として与えていた。
もう一つは、私の元で働くということ。
もちろん危険を含む仕事にもついてもらうということを伝えてある。
デリア自身が、どこまで考えているのかわからないけど……
「本当になんでもしてくれるの?
私のために? じゃあ、私が死ねと言えば死ぬっていうこと?」
「は……はい……アンナリーゼ様のご命令ならば……」
体が震えているのがわかる。
それでも、必死に私をとらえている瞳は決意がこもり、揺れることすらなかった。
「ふふふ……死ねなんて言わないわ。私の目覚めが悪いじゃない。馬鹿ね。
それにせっかく拾った命ですもの。大切にしてほしいわ。
まぁ、私の質問の仕方がわるかったのですけど……ごめんなさいね。
それで、一つ仕事を頼みたいの。
それの結果で、私の侍女として雇うことにするわ」
「ありがたき幸せ……アンナリーゼ様のご希望、必ずや……」
意地悪を言い過ぎたなと思い、そっと立って、侍女の横に行き肩に手を置く。
「そこに座りなさい。今から説明するわ」
私は席に戻って、デリアと名乗る私の元侍女がソファに座るのを待つ。
「何をすれば、よろしいでしょうか……?」
改めて覚悟をしたというかのように、私の前に座って問うてくる。
「私ね、ある伯爵を懲らしめてあげたいの。爵位返上してもらうくらいまで落としたいわ。
そうね、デリアには商人に扮してそのある伯爵を貶めるお手伝いをしてほしいな。
自分がやったことをそのまま返してあげましょう」
私は、デリアを前に計画を説明し始めた。
兄の決戦まで、もうほとんど時間が残っていない。
それまでには、後顧の憂いは祓っておくべきだ。
「早急にことを仕上げないといけないの。遅くても1ヶ月中には、結果がほしいところ。
仕掛けるのは、商人からのワイズ伯爵へ流れている賄賂をまず止めましょうか。
そうねぇ……謀反……さすがにダメだから……他領への干渉、乗っ取りを企てている。
それが、王族にばれてあわやってあたりにする?」
デリアに一応同意は求めたが、なんにでも同意してくれそうだったのでおもしろくない。
でも、ま、こんなもんでしょ?
すべて嘘だと真実味がなくて、先導することはできない。
ある程度、真実も混ぜておかないと民衆は乗ってこない。
デリアに任せるのは、ワイズ伯爵への賄賂を絶つことと、ワイズ伯爵と関わると自分の身が危ないと商人たちに警告すること。
それで、資金源は止まるはずだ。
誰しも自分の身はかわいいものだ……泥船にあえて乗らないだろう。
ワイズ領の善良な領民に被害が出ないように細心の注意は必要だが、それほど難しくない。
というか、領地でロリコン変態伯爵って命名しちゃったらそれで地位は落ちる気がする。
貴族間では、20歳や30歳の年の差婚なんて珍しくないけど、庶民にしてみればなかなかインパクトのある話である。
学園を卒業したばかりの伯爵が、侯爵家から娶るとなると陰謀説とかも流れやすい。
今回ばかりは、年の差婚で話がまとまって結婚されると困るのだ。
貴族側は、私で仕掛けるか……
「そのあと、多少経済打撃を与えないといけないわね。
うちに金銭が流れるようにすれば、どこが経済を動かしているのかが明らかだから、お金については、
いろんな領地を分散させてそのあと集約しましょう。
計画は、大雑把にこんなものかしらね。
その後、うちからバクラー領に経済が回るように資金を横流し……は、ダメね。
うまく元の経済に戻るよう少しずづばらまいてちょうだい。
こっちは、早急じゃなくていいわ」
私は腕を組み、ふぅんと鼻息荒く空を睨みつける。
「全く、やってくれるわ!
このフレイゼンに間接的とはいえ喧嘩売るなんて、ワイズ伯爵も馬鹿よね。
今のずさんな計画だけど、デリアに肉付けはできるかしら?
それが成功すれば、信用してあげる」
私の穴だらけの計画を聞き、デリアなりにどうするのがいいのか考えているようだ。
「この計画に必要な資金はあげるわ。必要な額を後で言ってちょうだい。
確認だけど、1つ目はワイズ伯爵の失墜、賄賂の資金源を断つこと、2つ目は、その資金をバクラー領へ還元。
これができれば、合格ね!」
果報は寝て待て。
その後はデリアにまかせっきりでどこまでできるか、1ヶ月後の結果をただ待っていた。
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