四月一日、わたしの足取りは軽かった。
なにせ苦労に苦労を重ね得たサラリーマンへの切符である。
確かに大手企業ではないし、お給料も高くない。大学レベルから見たら微妙な就職先だ。
だか、あがり症で人前でうまく話せない50連敗突破のわたしを拾ってくれた企業様である。
前向きに頑張るぞ!という気持ちで新人研修へと向かった。
ーーガラッ
研修室は30人程の席があり、既に何人か座っていた。
「よろしくねー」
「こちらこそよろしくー」
簡単な挨拶をして座る。
人前に立つと上がってしまうものの、日常会話は問題ない。
やがて始業時間近くなると、全員集合した。
男女半々で30人。
研修室は一番前に教卓とホワイトボードがあり、学校のようだった。
仲良くなれるといいなぁ。
そんなことを考えていると、研修室の前扉から男女5人がツカツカと入室し、教卓前に立った。
おそらく研修講師だろう。
「……」
彼らが研修生を一瞥し、待つこと数十秒ーー
突然その内一人の男性がホワイトボードをぶっ叩いた。
「お前ら、挨拶もできねぇのか!!社会人として当然だろうがよ!!」
「!!!」
開口一番に怒鳴られ、全員が萎縮するのがわかった。
「もう一回入り直すからちゃんと挨拶しろよー」
5人は一度研修室を退出し、研修室へ再入室した。
「オハヨウゴザイマス!!」
「やればできるじゃねーか」
今日初対面にも関わらず、全員で声を揃えて挨拶をした。
わたしはこの時点で入る会社を間違えたと認識した。
だが、結論から言うとズルズル会社に居続けることとなる。
就職活動のトラウマは怒鳴り声を凌駕するのだ。
「俺は大野。まず初めに言っとくが、研修は研修用に講師なんて雇ってねえから社員が業務の傍らでやるからな。あとホラ、プログラミングは各自覚えろよ。資料配るからなー」
大野は資料を配った。
資料も社員のお手製でとにかくプログラムが羅列していた。
その中に歯抜けで白抜きしてあり、選択式で選ぶ形となっていた。
(なんだこれ…)
わたしは文系である。
さらにExcelすら触ったことがほぼない。
小学生の頃に触った一太郎、花子のレベルで止まっていた。
そんなわたしがプログラムが羅列された資料を見て何がなんだかわからなかった。
(え?わたしだけ?これが訳わかんないのは……)
周りを見回すと苦い表情をしている同期たちがいた。
彼らも文系、また理系であっても情報系出身ではなかった。
「じゃ、各自これ解いて。俺らは後ろの方に座って別の仕事してっから。質問あったら答えるけど、人の時間奪ってること忘れんな?あとインターネットで調べんの禁止だから。あ、当たり前だけど周りとの相談もな」
大野たち研修講師は研修室の一番うしろに用意された机と椅子に座り、仕事をし始めた。
(質問も暗に受け付けない、ググれもしない、相談不可って無理ゲーなんだが?)
わたしは目の前が真っ暗になるのを感じた。
せっかく内定もらえたのに、こんな企業だと知っていたら就職しなかった……ことはないかもしれない。
経済的事情で就職浪人できないからブラック企業でも就職していただろう。
あぁ、どうやってこの研修を切り抜けよう。
グダグダ考えているうち、初日から21時まで手がつかずに終わった。
この日、数人の同期が会社を去った。
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