ブラック企業から抜け出せないアラサー女性は何を想う

きのえ
きのえ

無い内定に王手

公開日時: 2021年10月16日(土) 22:54
文字数:1,097

(またか……)


慣れないリクルートスーツにパンプスにお祈りメール。

電車の中でわたしはため息をついた。

5社目あたりから、もう上手くいかないのではと思い始めていた。

書類は全企業通過。適性検査も自信がある。

だけど、面接が一向に通らない。

原因はあがり症だ。


グループワークはまだ良い。

むしろ得意だった。

わたしは友達の中では完全に賑やかしタイプだった。

特に可愛くもない、特技もないわたしは自分を卑下して笑いを取り、相手を喜ばすことが好きだった。

グループワークでもリーダーではなく、ムードメーカーを務めることでほぼ通過することができた。


問題はその後だ。


「キミ、ちゃんと話せないの?そんなんじゃ駄目だよ?」

「は、は、はい……は。」


グループワークは空気を読むことで通過できる。

だが、面接となると話は別だ。

相手にプレゼンをして自分という商品を売り込む。

これが大変に苦手であった。

業界研究もした。企業研究もした。自己分析もした。

なんなら鏡の前で模擬面接の練習もした。

事前準備は完璧なのに、なぜか糸が絡まったようになり言葉は紡げない。


「もういいよ」

「は、は、は、」


(終わった……)


心が砕けそうだ。

当時はリーマンショックから完全に買い手市場なこともあり、就活生は雑に扱われる場合もあった。

とくにわたしのようなコミュ障はいらないので冷たくされた。


そうこうしている間に、いち早く就活のスタートダッシュを切ったにも関わらず、周りからどんどん遅れをとった。


「決まったら飲みに行こうね!」


なんて友人のメールを見るだけで涙が止まらなかった。

なぜ、わたしは人と違ってうまく話せないのか。

なぜ、わたしはあがり症なのか。

なぜ、わたしが話をすると空回りするのだろうか。

なぜ、誰もわたしを必要としないのか。

なぜ、なぜ、なぜ……。


50社を超える頃には食事も喉を通らなくなり、ゲッソリと痩せていた。

この頃になるとなりふり構わず会社を受けていた。

はじめの頃は大企業病にかかり、書類も通るものだからさっさと決まると思っていたが、就活も後半になってくるとどこでもいいから雇ってくれる企業であれば靴底を舐めてでも入社したいと思っていた。


そして、60社近くに差し掛かった時だった。


「おめでとうございます!合格です!」


とある大企業の孫受けIT企業へ内定が出た。


「あ、ありがとうございます!!いきます!!」


ITに何の興味もなかったが、わたしはその場で受諾をした。

とにかくこの苦しい就活戦線から離脱したかった。


(これでようやく終わった)


就活し始めてから1年近くが経っていた。

友人はみな内定先が決まり、残りはわたしだけだった。


だが、就職してからが本当の苦しみだった。

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