身体を包み込む光から解放されると、そこには――
映画で観たような石造りの部屋。
足が埋まるほどのふっかふか絨毯。
目の前には鈍色の鎧達、そして上座に豪奢な服を着た偉丈夫。
いきなり撮影中の映画の中に飛ばされた感覚に陥ってしまったアキラは、VR技術が発展したらこのくらいリアルになるのかなぁと早くも現実逃避を始めた。
「おぉっ! ついに! ついに成功したか!!」
「やりましたな王よ! これで我らの世界は救われます!」
ワイワイ、ガヤガヤとアキラを無視して騒ぎ始める見知らぬ外人達。
どうやら俺の事は放って置かれているようなので、改めて自分の状態を確認してみる。
……あれ? 何故かシャツの上に病院から持ち帰っていたはずの白衣を着ている。
他の持ち物は赤縁メガネと腕時計、ポケットに入っている携帯ぐらいだ。
携帯は……そりゃあ圏外だよなぁ、と確かめていると、部屋の中で一番偉そうな男が話しかけてきた。
「ようこそおいでくださった! 勇者殿!」
「はい? ゆ、勇者ぁ!?」
そこからは様々な話を説明口調で聞かされた。話された内容は、話こそ長かったが至ってシンプルだった。
『魔王倒して世界を平和にして欲しい』
そりゃあもう、ゲームの世界なんじゃ?というくらい鉄板な話だった。
話を少しだけ詳しく言えばこの世界には魔王が居て、更にはド定番のモンスター達もいるらしい。
もちろん獣人もいるし、エルフもドワーフもいる。いわゆる、亜人と言われている人達だ。
更に更に、魔法もスキルも存在するんだと。
……なんだかあるあるネタを詰め込みすぎてないか? フードコートにある全部のメニュー買ってみたって感じだ。
ただ聞いた中で特徴的だったのが、どうやらここは三つの世界でできているらしい。
第一世界。ノーマルな人類が住んでいる世界、オルト
第二世界。多種多様な亜人種が居るメーダ
第三世界。魔族が住み、魔王が君臨すると言われるパキラ
それぞれの種族が別世界で暮らしているが、たまに大陸の各地で次元の歪みによるゲートができ、そこから人や動物などが移動してくるという。
そして、どの世界でも国や王などが存在しているが、中でも魔族の王が好戦的で、オルトやメーダに尖兵を度々送り出してきているんだそうだ。
どうもその理由というのが、エネルギー資源の不足が問題らしい。
どこの世界の石油輸出国かよ、と頭をよぎったが、この世界も似たような状況だったようだ。
この三つの世界では、動物の魂が肉体をロストするとジールと呼ばれる結晶になるらしく、それがエネルギーとして転用されている。
ジールは、元々の動物の性質を帯びた結晶になるのだが、第三世界では第一・第二世界の様なジールは滅多に生まれない。
よって不足した資源を追い求め、魔王や魔族達が攻め込んできているんだとさ。
なんだよ、魔王サマはエネルギー王にもなりたいのかい?とか思っていると、続けて王が話し始めた。
「私は王だ。玉座に座るものとして、我がアクテリア王国の民達をなんとしてでも護らねばならん。そこで、神託も行なっているマーニ教会の女神に頼ったのだ。すると女神が、勇者に相応しい者をどこかの世界から召喚してくれると神託が降りてな。それから私達は勇者が現れるであろう日が来るのを、こうしてずっと待っておったのだよ」
――するとあの寡黙美少女はこの世界で崇拝されている女神だったのか?
宰相だろうか、知的そうな男性が王の言葉を引き継ぐ。
「もちろん、突然召喚された勇者殿の負担ははかり知れぬだろう。それを和らげる為、我らも最大限の努力をしよう! まず、普段の生活から心のケアまで我々に任せて欲しい。当然、そなたの希望があれば何でも言ってくれたまえ。もちろん……物でも女性でも、ね?」
男の同性にしか共感できないであろう、ニヤァとしたイヤらしい笑みを浮かべながらアキラを説得にかかってくる。
おいおい、最初に見た知的な宰相キャラはどこいったんだよ。さっそくイメージ崩れちゃったよ!!
しかし召喚までの話はどうであれ、アキラは現代日本に住む、平和ボケした一般人だ。
そんな自分が恐ろしいモンスター達相手に命懸けで戦うなんて絶対に無理だ。
普段は日本人の典型的なイエスマンだが、今は自分の命が掛かっている。
よし、ここはちゃんと抗議しなくては。
「ちょっ……ちょっと待ってください! 問答無用でこの世界に連れてこられた挙句、モンスター達と戦争だなんて……無力で虫も殺せない心優しい私には……」
「あぁ、言い忘れていたが召喚する際に女神が特別な能力を与えてくれたらしい。えぇーっと? 魔法全属性適性、魔力ブースト、スキル習得率UP、筋力UP、異世界語翻訳などの基本セットか。おぉ! 魅力増大なんかもあるな! きっと私の娘達も勇者殿を気に入るだろう。自慢になるが、中々の美人だぞ? で、なんか言いかけたようだが……?」
「よろこんで勇者! やらせていただきます!! 末長くお願いしますお義父様!!」
異世界人となってもイエスマンは辞められなかったアキラであった。
――女神様、俺をこの世界に連れてきてくれてありがとう!!
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