無事第一回作戦会議を終了したアキラとロロル。
国の援助もあって、旅の準備も着々と進んでいる。
「そういや旅だなんて久しぶりだな〜! 修学旅行でオーストラリアには行ったけど、就職してからは国内で温泉巡りしかしてなかったし」
「温泉もいいわね〜。温泉あがりにキリっとした強めの酒をクイっと。もしくはキンキンに冷やしたエールをグビグビっといきたいわ〜」
右手を腰に当て、片手で何かを煽る動作をするロロル。
その手には立派なジョッキが幻覚でみえる。まるでオッサンである。
「最初に出会った頃のロロルを返して……って、この世界にも温泉あるの!?」
「第二世界の世界のドワーフの国には火山があるからね。もちろん温泉もあるわよー!」
喋りながらも、食糧や白衣を含めた衣類(特注で作ってもらった)、テントや調理道具を木箱に詰めていくアキラ。
「でも道中にはもちろん、モンスターが跋扈してるんだろ? 一応、兵士とか冒険者が定期的に退治してるって言うけど」
「えぇ、そうよ。さすがに国営では無いけれど、各国が協力して作った冒険者機関があるの。冒険者とは言っても商人の護衛やモンスター退治、資源の回収といった何でも屋ね。基本的に戦う能力があれば、誰でもなることができるわ」
「命がけとはいえ、結構稼げそうだよなぁ。いいなぁ、俺なんか高い学費払って6年間も学校通って、必死こいて国家試験合格してやっと働けたって感じだったのに」
ぶつくさと愚痴を漏らしながら、今度は王城の騎士から貰った片手剣を磨き直し、装備の点検をしていく。
ロロルは、どこから調達してきたのか分からない立派過ぎる革張りのふかふかソファーにどっかりと座り、小学生が描いたようなロケット型のキーホルダーを人差し指でクルクルさせながら鼻歌を歌っている。
「あ、あの……ロロルさん? 旅の準備は? ていうかそれは一体?」
「あぁ、コレ? 例の魔導機よ! しかも最新式! 魔導研究所の所長にお願いしたら、快く(無期限で)貸してくれたわ〜やっぱ頭が良くてデキる男は違うわね!」
「あのおじさんかぁ……俺も元の世界の知識提供で協力したから、新プロジェクトで貧窮してた研究費が増えるって喜んでたばかりのに……心中お察しするわ」
「何言ってるの。コレは実地試験の協力よ! それも魔王討伐というハードな長い旅での耐用試験! 私に感謝してもしたりないわよ!!」
「あぁ、うん。君のポジティブさは俺には羨ましい限りだよ……ところでそのキーホルダーは魔導機のキーか何かなの?」
見た目は地球でいう車のキーホルダーといったところだろうか。
ロロルは徐にロケット型のキーホルダーについているボタンを押すと、そのまま地面に投げ捨てた。
――ボボボン!と間抜けな音や煙と共にキーホルダーが膨張し、流線型のスポーツカーのようなフォルムをした赤色塗装の機体が飛び出した。
「どうよ! カッコいいでしょ! 名付けてエクセラちゃんよ!」
「おい! その名前、日本車メーカーをパクっただろ! 確かにカッコいいけども! 怒られるだろうが!」
「でも実際は別モノよ! 魔導エンジンだから排気も無いし、空挺システムのお陰で揺れも少なくて乗り心地抜群なんだから! ナビに空調完備、MDだって聴けちゃうわ」
「前から気になってたけど、君の会話ってちょいちょい変なワードが入るよね?! 地球かぶれなの? しかもMDって今時の子知らないと思うよ?」
「何言ってるの、マジックディスク(Magic Disc)よ? 投擲武器にも作物の鳥避けにも使える、超人気商品なんだから!」
懐からチャクラムのようにシュバババッと出しては、虹色に光る円盤を大量に机に積み上げていくロロル。
この娘との会話は、なんだか噛み合うようで微妙に噛み合わない。ジェネレーションならぬワールドギャップに頭痛を覚えるアキラ。
「まぁ乗り物で楽ができるなら越したことはないけどさ。そういえばロロルの装備は? どうやって戦うの?」
彼女が着ているデニムジャケットのポケットから、次々と焼き菓子を取り出してはバリボリとむさ貪る少女に問う。
「私の武器はこの口よ!!」
ババーン!と効果音が鳴りそうな態度で、程よく育った胸を逸らす。
ドヤ顔も可愛いが、ほっぺに食べかすがついている。あざとい。
「あぁ、うん。じゃあ安全な所で応援してくれればいいよ。ハハハハ」
これからの旅を考えると泣きたくなるアキラであった。
「そういうアンタは大丈夫なんでしょうね? いくらチートって言っても、それを使いこなせなければ無意味よ? 不安だわ〜」
「一番の不安要素がぬけぬけと……一応俺だってこの一ヶ月間遊んでいただけじゃないぜ。剣術や体術も兵士の人達に鍛えてもらったし、魔法もコツを掴んできたんだよ! 体育の授業でやった剣道と柔道は、全く役立たなかったけどな! アハハハ」
「そりゃあ実戦とは違うだろうけど、基礎も大事なのよ? ちなみに魔法はどんなのを使うの?」
「聞いて驚くなよ? 前世の知識と今世の魔術を活かしたハイブリッド魔法! その名も化学魔法だ!」
「ごめん、全然凄さが伝わらないんだけど」
「お、おう。そう言うとは思ったぜ。ホラ、一般的に魔法って火や水を出したり、突風を発生させたりしてるだろ? つまり魔法や魔力がこの世界の物質や環境に影響を及ぼして、それらの事象を起こしてるわけだ」
人差し指を上に伸ばし魔力を高め、ブツブツと簡単な呪文を唱えると、指先からバスケットボール大の水を浮かべたアキラ。
「ここまではありふれた属性魔法だよな?で、こうする」
指の先が一瞬光ったかと思えば、水球が沸騰したかのように泡立ち、水の中で火が燃え始めた。
「燃える水? 水の中で火魔法を同時に発動? にしては挙動が変だったわね……」
「ふっふっふー! これが科学の力なのだよ! こっちの世界では日常で溢れているモノ以外のイメージがつかないだろうが、知ってさえいれば魔力は化学物質も生成できるのさ。つまり、塩素酸カリウムなどの酸化剤を大量にぶち込んで、ちょっと発火させればこの通りさ!」
――と同時にバンっ!という音が響き、辺り一面に水が飛び散り、水蒸気が立ち込めた。
「……」
「……」
「な、中には危険な物もあるから注意しような?」
「アンタ一週間飯当番だからね」
勇者の初仕事が決まった。
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