王城の一室で、ロロルはどこからともなくカップとソーサラーを取り出し、紅茶のようなものを優雅に飲み始めながら語り続ける。
もちろんアキラには粗茶も水さえも出さない。
馬鹿にはもったいないだろう。
「いい? 何度も言うようだけど、とにかく魔導機をつかって聖都に行く。聖都にある大聖堂には神器の一つである聖剣クラージュがあるの。それを取りに行きましょう」
「聖剣かぁ。ファンタジーのお約束と言えばお約束だわなー。一応聞いておくけど、魔法とか普通の武器じゃダメな訳? ほら、女神様謹製のチートも貰った訳だし?」
「別にアンタが一人で特攻かましてくれても全くかまわないわよ? アンタが犬死しても、きっと次の勇者が召喚されるわ」
「生贄!? 今、生贄って言ったよね!? 神様仏様女神様! 頑張りますから見捨てないで!! 手でも足でも舐めますから!! ほ、ホラ、チェリーの茎結びで鍛えた俺の舌技を見てくださいよ!! レロレロラロ!!」
「うっっっわキモッ! モンスターよモンスター! 今すぐに斬り殺してあげるから動くんじゃないわよ!!」
アキラの大学生時代に、キスが上手な奴は舌が器用だという話が流行った。
彼女ができた時のための努力に余念が無いアキラは、講義中にも関わらず舌技を磨き続けた。
そして飲み会で披露したところ、その場であだ名がエイリアンになった。
寄生したお腹からキシャーのやつである。
ちなみに、彼女はできなかった。
むしろ友達も減った気がする。
「まぁ、その辺りの説明はするわ。そもそもの話、なぜ魔族と争っているかなんだけど」
「魔神族が、人族や亜人族の世界の太陽由来のエネルギーを欲しがってるんだろ?」
「えぇ。だけどわざわざ戦争起こして奪わなくても、普通に交渉するなり売買すればいいでしょ?」
「そりゃまぁ……たしかに」
「魔族だって脳はあるの。少なくともアンタよりはね。だけど、根本的な問題が二つあるのよ」
「一々ディスるなよ。その毒舌でココロに継続ダメージ喰らってるんだからさ……で、問題って?」
「一つは流通量。世界を渡るゲートは不定期かつ世界の各地で開かれるわ。通称"魔力溜まり"と呼ばれる場所にゲートは出来るのだけど、それはいつ、どこで開かれるか誰にも分からないの。あまりにも不安定過ぎて商売にならない。ならいっそのこと世界をまるっと手に入れれば万事解決って寸法ね」
「どこのガキ大将的思考だよ……でもなんでそんなにこっちのエネルギーが必要な訳? 向こうには向こうの代替品があるもんじゃ無いの?」
「私に聞かないでよ! それに人類は魔族の世界がどうなってるかなんて誰も知らないもの」
「え? ゲートで行き来ができるんだよな? 街中でも亜人の人達は普通に居たぜ?」
この王都にある城下町にも亜人族は普通に生活をしている。
種族差による諍いは度々起こっているが、特に差別も偏見もなく溶け込んでいる。
いささか礼儀に欠けるアキラが王族や貴族、兵士達に睨まれないのも、懐が広い国民性によるものなのか。
「なら、魔族も街で見かけたかしら? そこで二つ目の理由なんだけど……魔族の世界に行って帰ってきた人類は居ないのよ。いえ、正確には"ヒトの形"をして戻ってきた、ね」
「ど、どういうことだってばよ?」
ロロルは聖女の様な綺麗な顔を歪め、悲痛そうにか細い声で語る。
「今まで向こうの第三世界に渡った人間はね、漏れなくモンスターと化したわ。どんなに強かった兵士も、冒険者も、高名な魔導師も全員よ」
「モンスターに!?」
「ゲートのこちら側で待機してた者が、絶叫と共に化け物に変わり果てていく様を見たらしいの。向こうの環境の魔力が身体に影響を及ぼした結果だ、なんて言われてるけど。こんなんじゃ交易もあったもんじゃないでしょ?」
「う、うわぁ。思ってた以上にハードじゃないか。……ん? その第三世界に居るって言う魔王倒すためには、向こうの世界に行かなきゃなんじゃないのか? 僕、モンスターになっちゃうの?」
「既にモンスター並みの気持ち悪さだけどね……まぁ、そこで勇者の出番なのよ。人類が世界を渡ることができないのなら、できる奴を用意すれば良いってね。既に神の力で世界を渡る事ができたアンタは、魔力の影響を受けてもモンスターになる事はないわ。ある意味免疫ができているのかしら? そして神の力を持った神器を、アンタと仲間達が装備すれば同じ効果が得られるの。現在確認されている神器は六つ。その仲間と神器を集めるのがこの旅の目的でもあるわ!!」
「はぁ〜。そんなカラクリがあった訳ね。うん。旅の目標は理解したよ。正直、俺の力がどこまで通用するかはまだ分からないけど、なんとか頑張ってみるよ」
「……その。争いとは無縁の世界に居たアナタに頼るのは、この世界に存在する者として悪いとは思っているわ。ごめんなさい」
「ん? んん。いや、ロロルが謝る事じゃないだろ? それに……俺が人を癒やす仕事をしてたって知ってるだろ? やっぱり人の為に役立てるって嬉しいんだよ。今まで学んだ知識と得た能力で、世の中に貢献できるって実感できるしな! それこそ連れてきた女神様に感謝したいぐらいだぜ!」
「ふふ。ありがとう。中身はともかく、アンタの能力には期待しておくわ」
さりげなくアキラにもお茶が差し出され、和やかな雰囲気でミーティングは終了したのであった。
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