「んなーっはっはっは! 勇者最ッ高!! アレ? 君、なんて名前だっけ? まぁ良いや、近う寄れ近う寄れ〜。あ、そこの君、可愛いね〜! ねぇねぇ君も、勇者である僕のハーレムに入らない? ぐふふふ!」
いきなりの新キャラくんの登場である。
あの突然の召喚からひと月が経った。
そう、まだ《《たったひと月》》である。
恐らく魔王も見ればびっくりするであろうクズに仕上がってしまったアキラ。
もしかしたら女神から貰った成長チートが作用したのかもしれない。
もちろんマイナスの方向に。
「いやぁ〜異世界《《さまさま》》だな! 女騎士に魔導師、メイドに姫! コスプレなんかじゃなくて、ホンモノを選び放題だもんな〜」
「アキラ殿! 私とも剣のお相手をしてくれないだろうか。……もちろん夜まで予定は空けてあるぞ! 勇者のその素晴らしい技を、私に教授して欲しいのだ……」
「おおっと、カレンちゃん! もちろん構わないよ〜! ボクが手取り足取りじっくりと教えちゃうよ!」
「アキラ。剣馬鹿を相手にするより、魔法と科学が関連することで質問がある。それに勇者の身体についての研究もしたい」
「ん〜ミレイの知的な表情は今日も素敵だね! まるで魔法のようだ! ファンタジー!!」
「アキラ様? 今日は王城に呼ばれているとお伝えしたはずですが? メイドの業務以外の瑣末事で私を煩わせないでいただけますか?」
「あぁ、愛しのシェリー! ん〜、相変わらず君は外ではクールだね! 二人きりの時とのように、ボクのことは御主人様って呼んでくれて良いんだよぉ? ふふふ」
これが世界が待ち望んだ勇者様(笑)である。とんだチーレム野郎に仕上がってしまった。
日々抑圧されていた理性の箍が転生・転移の影響で破壊されてしまったのだろうか。そして誰もアキラを止める人が現れてくれなかったのか……
こんな奴、日本であったらとてもじゃないが、恥ずかしくて他所様に見せられない。彼の母親が見たら号泣しながら尻でも叩くだろう。
……まぁ、これはある意味では勇者(笑)なのかもしれないが。
完全に痛いキャラとなってしまったアキラは、そんなことにも気付かぬまま。
彼は女の子が関わらない用はさっさと済ませて遊びたい一心で、足早に王城へ向かっていった。
アクテリア王国の王城は、小高い丘の上に聳え立っている。歴史を感じさせる堅牢な城の中には、専門の庭師が丁寧に育てたのであろう立派な庭園が広がっていた。
そこには、地球でも見かけるような花もあれば、雪の結晶のような形をした美しい花、果ては扇風機のように風でクルクルと回る不思議な花まで、多種多様な植物が植えられている。
そして城の中とは思えない幻想的な景色の中には――物語に出てくるような、美しい妖精が佇《たたず》んでいた。
風に舞う花びらを纏うように微笑んでいる彼女はアキラが自身を見ていることに気が付くと、天使のような声色で彼に話しかけた。
「あら、勇者様。お初にお目にかかかります。私はロロルと申しますの。今まで御挨拶もできず、申し訳ありませんでしたわ」
洗練された動きで一礼をする少女。
腰まで伸びた真っ白な髪が、サラサラと風と共に流れている。
「お? これはこれは。あなたはまさに、庭園に咲く一輪の白百合! いや、この世の何よりも綺麗な花だ! ぜ、是非、蕾から咲いたばかりの君という花を摘み取らせてくれないだろうか? えへ、えへへへ」
「 ×××××」
「えっ? 今なんて?」
「なんでもございませんわ。勇者様は世辞がお上手ですのね。ところで、先程から城の者が探しておりましてよ? 本日の用件は覚えてらして?」
「……(くうっ! 清楚系お姫様かよ!
いくら俺に魅力チートがあっても、そう簡単には落ちないよな〜。あれ? そういえば姫様って何人か居るって王様から聞いていたけど、まだ会ってなかった人が居たのかな?)」
「あ、あぁ。覚えてる覚えてる。オッサン達が集まってるだろうから、加齢臭を辿っていけば行けるハズさ。あ、そうだ。謁見が終わったら是非、一緒にお茶でもどうかな? 君の為ならいつでも予定空けるからさ!」
「ふふふ、本当に勇者様ったら面白いお方。……また《《近いうちに》》お会いできるのを楽しみにしておきますわ」
彼女は雪の様に透き通る白い手を口に当ててクスクスと笑いながら、優雅に城の奥へと去って行った。
あぁ、そのふんわりとした横髪。
何よりも高身長ならではのスラリとしつつも、程よくムチムチな日焼けのない白い御御足!!
横髪フェチ&足フェチにはよだれモノである。
アキラは本日のベストショットを脳に焼き付けながら、本来の目的である謁見の間へとフラフラと向かって行った。
「おぉ、勇者殿。壮健そうでなによりだ。どうだ? かなりこの世界にも慣れたという報告は一応聞いているが。」
「王様もお元気そうで。えぇ、剣術も魔法もどんどん覚えてますよ。研究室も貰えたお陰で、コッチの世界の技術もバンバン上がってますし。それにアッチの世界のエッチな技術もね! ぐふふ……」
「ふふふ、それは重畳。さて、今日呼んだ用件だがな……勇者殿にはそろそろ本格的にモンスターの討伐へ向かってもらおうかと思ったのだ。とはいえ、いきなり魔王に立ち向かうには流石にまだ早いだろう。したがって修行がてら世界を回り、勇者としての力を得る旅に出てもらうことにした」
「えぇ〜、もうですかぁ? 俺、城下街の飲み屋のお姉様巡りもまだまだなのに……」
「はははは! なに、心配するな! この王都モノガル程ではないが、世界各地にも飲み屋も綺麗どころも星の数ほどあるさ。なにより、これから訪れてもらう予定の聖都ジークには女神を信仰する多くの女性神官がおる。まぁ肌を重ねることは許されぬが、魔王を倒す仲間であれば勧誘することも出来るかも知れぬ。それに神官であれば勇者の旅も捗るであろう?」
「えへへ、そうですね!! あぁ、神官さんと背徳的なアレやコレを……ぐふふ!!」
「(だ、大丈夫かコイツ? 日増しに馬鹿さ加減が増してないか?)……うぉっほん。勇者殿がその気になってくれたようでなにより。早速だが旅の供になる者をこちらでも用意した。さぁ、入ってくるが良い」
王が呼びかけると、とある一人の少女が入ってくる。
――それは先ほど出会ったばかりの美しい妖精、ロロルだった。
「失礼いたします。この度、私めが勇者アキラ様の旅のお世話をさせていただくことになりました。浅学菲才の身でございますが、精一杯務めさせていただきますのでよろしくお願いいたしますわ」
「えぇっ、さっきの白百合ちゃんじゃないですか!! ちょっと王様!? こんな華奢で可愛らしい女の子を、危険な旅に連れて行けと言うんですか!?」
「うん? なんだ、もう知り合っとったのか。心配なのは分かるが、これでも彼女は王妃直属の近衛騎士団薔薇の園と同等の武力を有しておる。そうだ、そなたも知っておるカレンのお墨付きだぞ?」
「騎士団長の……し、しかしそれでもにわかには信じられませんが」
「まぁ、万が一何かあっても勇者の力でどうにでもなるだろう? 旅の詳細も彼女に伝えてあるから、しっかり打ち合わせをして安全な旅をして欲しい。……では、私はこの国で勇者殿の旅の無事を祈っておるからな。頼んだぞ、勇者殿?」
「そ、そんな……俺には……」
「うふふ、私になにかあったら、ちゃんと守ってくださいね? 《《私の勇者サマ》》?」
「はい! よろこんで!!」
正統派美少女が仲間になった即堕ちチョロ勇者のアキラは、こうしてまんまと世界を回る旅をする羽目になったのであった。
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