謁見の間を後にした二人は、今後の打ち合わせのためにロロルの案内で王城にある部屋へ入っていった。
「ふぅ。ああして普通に話す分にはフレンドリーな王様だけど、一国を背負っているだけあってオーラとかプレッシャーが凄いんだよなぁ。ってアレ? なにしてるの?」
ロロルもアキラに続いて部屋に入ると、そのまま後ろ手で素早く鍵をガチャリと閉めてしまった。
「おっと白百合ちゃん、こんな密室で真っ昼間から何するつもりかな? いや、僕は良いんだけど。むしろバッチコイ? ってあれ? 急に頭抱えてどうしたの?」
「はぁ〜。勇者勇者と様々な能力貰っても頭が悪いのね。というより、私の名前は白百合じゃなくてロロルよロロル。お花でいっぱいなのはその頭の中だけで十分よ? ていうか私の許可無く口開かないでくれる? 見て、鳥肌がさっきから止まらないの」
突然人が変わったように、本気で嫌がりながら自分の身体を抱くロロル。
……さっきまでのエンジェルスマイルから一点、頭頂部からツノが出そうな鬼の形相だ。
「あぁ、言っておくけど私に幻覚とか精神に作用するスキルとか効かないから。むしろその点では私の方が格上だから。残念だったわね、《《女神のユウシャサマ》》?」
「ふ、ふえぇぇええ……」
「あぁ、そういえばアナタ、薬師なんですってね。その様子だと向こうの世界にも馬鹿につける薬は無かったのね。それともあまりにもおバカ過ぎて塗らずに飲んじゃったのかしら? アハハハハ」
「あは、アハハハハ! アババババ」
「うわっ泣いた! いい歳した大人が! 勇者が! アハハハ!!」
魔王だ。勇者を苦しめる魔王は最初からここにいたのだ。
チートで完全に天狗になっていた悪の勇者アキラは正義の魔王に敗北し、世の女性の尊厳は守られたのだった……
◆◆◇◇
「で、これからの旅の目的だけど」
「……」
「あァ? 聞いてるの? 会話してるんだから返しなさいよ。さっきまで頼んでもないのにしゃべくり倒してきたくせにさぁ?」
「うん」
「この旅の大目標は魔王の討伐、もしくは侵攻をやめさせる。中目標が戦力の充実。小目標として、各地に点在するとされる神器を集めることになるわ」
「うん」
「……殴るわよ?」
「うん……って痛ぁ! え、この身体で初ダメージってコレ?! 防御チート貫通してくるってどんなスキルしてるの?!」
「あら、私が初めての人なんて光栄ね。アンタ殺しても死ななそうだし、私がそっちのバージンも奪ってあげようか?」
「やめて!? 心のライフはかなり失ったけど、死にたくはないよ??」
「……話を戻すわよ。あの王も言ってた通り、これから私達は聖都ジークを目指す。まぁ魔導機を使えばそう遠くはないわ。あぁ、魔導機っていうのは地球で言う車ね。それを魔導エンジンにして、更にタイヤを無くして空を飛ぶ様にしたモノと考えてくれればいいわ」
「おぉ〜! 街で見かけたアレかぁ。初めて見たときはこれぞファンタジー!って感動したよ」
「アレは個人で所有するには燃費が悪いし、何より燃料としてジールが必要だからまだ一般利用されていないけどね。ジールについてはもう理解してるわよね?」
――ジール。
戦争の原因ともなっている魔力エネルギーの結晶体だが、魔法が発展したこの世界でも詳しくはまだ解明できていない。
3つの世界を創生した神が創りたもうたシステムだとか、魔力が濃縮された結果結晶化しただとか様々な仮説は立てられているが、解明には至っていないらしい。
「ジールはこの世界のお金にも関係しているのよ。この世界での通貨は古来から貨幣そのものに価値がある《《本位貨幣》》だわ。アンタが居た国の様に《《信用貨幣》》の仕組みはまだ無理ね」
ロロルにこの世界の通貨について聞いてみたが、元いた地球と同じように大昔から金貨や銀貨を使っていたようだ。
しかし含有量を誤魔化した鉄貨や銅貨が裏で造られ過ぎた。
あまりにも各地で大量に造られたせいで造幣技術が本物の貨幣に負けてしまい、横行した偽金が本物の貨幣よりも街中で使われていたぐらいだったらしい。
貨幣価値を守るために国のお抱え魔導師達が必死に真贋を判断する魔法を開発しても、それを回避した偽金製造魔法が新たに作られるといったイタチごっこが続いていたそうだ。
それぐらい貨幣制度というのは難しいのだ。
「俺がいた日本でも、ちょっと前まで自販機で海外のコインを削った偽金が使われてたぐらいだしなぁ。でも悪く言われてる金貨や銀貨だって貨幣そのものとしては実は割と優秀で、俺の国じゃ爺さんの時代でも普通に使われてたんだぜ? 技術さえあればどんな時代、場所でも使える信用のあるお金なんだよ」
今でこそ創作話で金貨や銀貨が使われている表現がされ、ファンタジーのように扱われているが、日本においても昭和の時代まで実際に使われていたのだ。
「でね、数百年前のドワーフの練金王が貨幣に使える画期的な新素材を発見したの。魔力を溜め込み、その魔力によって一定の輝きを示す、通称"魔鋼石"。これが凄いのよ! 結晶体を魔鋼石に触れさせるとね、なんとビックリ。ジールの中の魔力を吸い取って蓄えてくれるの! 持ち運びも保存もこれ一つなのよ!?」
「おぉ〜? まるでエコな電池なんだな。そういえば誰かから動物や世界によって魔力の性質は違うって聞いたけど?」
「ふふふ、よく聞いてくれたわ! そこが魔鋼石の一番便利なところでね。どんな性質の魔力でも、ただの純粋な魔力として取り込む事ができるらしいの。まぁ貯めた魔力を放出する事もできるんだけど、その時には元々の性質は無くなっちゃうのよね。お金の話に戻すけど、そうやって取り込んだ魔力の量に応じて価値を高めたのを通貨としてるの。決められた魔力一単位で一ジールって訳ね。」
電池もビックリの不思議鉱石である。
なんでも錬金王はその発見だけで莫大な財を成し、国まで作ってしまったらしい。成り上がりドワーフドリームだ。羨ましい。
「うーん、理系としては興味深い物質だな〜。元々の結晶体にエンタルピー的なモノがあって、それが移動するのか? しかしエントロピーはどうなってるんだ? 目に見えないエネルギー? 熱? いや光に近い性質なのか? 波長パターンで性質が変わる? いやそもそも生き物の魂がエネルギーになるっていうのは……」
「はぁ、頭が良いのか、ただの性欲馬鹿なのか……本当にコイツに世界を任せて大丈夫なのかしら?」
改めて勇者の資質に疑問を抱かずにはいられないロロルであった。
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