聖都グルメに舌鼓を打ち、女神まんの柔らかさとジューシーさに満足した一行は、大聖堂カシードラに到着した。
「そういえば神器の一つってこの大聖堂にあるんだろ? 大切に保管されてるようなものをあっさり貰えるのか?」
「うふふふ。ご心配ありませんわ、勇者様」
「あ、あなたは?」
大聖堂の奥から出てきたのは、ウェーブのかかった漆黒の髪をした妖艶な美女だ。
身体の局所を必要最低限の白い布のみで隠している。
いろんなところがこぼれそうだ。
薄暗い中にステンドグラスから差し込む光が、彼女に陰影を作り、美しさを更に際立たせている。
女神だ。
女神に違いない。
「ようこそいらっしゃいました。私はここの枢機卿であるレイナと申します。ちなみに国王レクスは私の兄ですの」
この世界にも遺伝子はあるのかな?
あるんだよな?
いや、確かに国王もイケメンだったよ?
だけど俺が知ってる王様って、飲み屋のねーちゃんにセクハラしようとして店主のおっちゃんに殴られてたし。
しかも王妃様が店に突撃してきて、首根っこ掴まれてドナドナされてた人だよ?
ていうか初めて王様の名前知ったよ?
「あらあら? 旅でお疲れなのかしら? 大丈夫?」
この歳で頭撫でられたー!?
男だけどナデポしちゃう!
ていうか近い!
柔らかいのが当たってる!
いい匂いする!!
「ふふふ、いい子ね。そんなになでなでが好きなら、ゆーっくり撫でてあげるわよ?」
ツツーゥと胸を指で撫でられたアキラは強制起動終了した。
「あーレイナさん? その辺にしていただかないと勇者(笑)が愚者に退化しそうだから離してあげて」
「あらあら、残念。まぁいいわ。私の部屋にいらして。歓迎いたしますわ」
外観と違い、内装は質実剛健な作りをしていた大聖堂。
執務室といっても過言でもない、必要最低限の物しかない枢機卿室で一同は寛いでいた。
「それで、この聖都には神器を回収しにきた、ということでよろしいのですね?」
「えぇ、この旅に欠かせないとのことで。この大聖堂に保管されているんですよね?」
艶かしく生足を組み替えるレイナを見ないように、視点を後ろの壁に固定し、真面目な態度を取り繕うアキラ。
「いいえ。保管はされていないわ」
「えぇっ? まさか魔族に奪われた?! それとも何か試練が必要とかですか?」
「大丈夫、神器はこの大聖堂にある……ハズよ。そうね、実際に取りに行ってもらったほうが早いかしら。アキラ君、一人で私に着いてきてくれる?」
「ちょっ! まだ日中ですよ?! ……って違いますよね、分かってる。分かってるからロロルさんお腹つねらないで!」
迷路のような聖堂内を案内されること10分。
青銅製の両開き扉の前に着いた。
「神器はこの扉の先にありますの。詳しいことは中にある石碑に書かれておりますので。さぁ、いってらっしゃい」
「え? いやそんなニッコリ言われても……わかりました。行けばわかるんですね」
ギギギ……と音を立て扉を開く。
なるほど、確かに石碑がある。
そしてその側には小さな泉。
「えーっと、なになに? 『汝 魔ヲ払ウ心正シキ勇気ヲ持チ 力ヲ求メルナラバ 時ヲ捨テ 泉ニ命ノ欠片ヲ入レヨ』だって?」
うーん……と悩むアキラ。
戻ってレイナに聞きたいが、一人で行かせたからには何か理由があるハズだ。
人によって欠片が違う? 血だったらちょっと嫌だなぁ。
命の欠片であって、命ではない。
命のように大事なモノ……か?
それでいて泉に入れるモノ。
そういえば、泉に何かを落とすって何かで聞いたな……
――そうだ!
アキラはまだ新品同様の片手剣を腰から外し、助走をつけて泉に投げ入れた。
唯一の武器が沈むと、一拍の間を置いてブクブクと泡が立ってくる。
「おっ? 正解か? やはり勇者は賢さも高いようだなぁ!! ふはははは! ……は?」
――ザシュッ!
綺麗な弧を描いてアキラの両足の間に鎌が刺さる。
一歩間違えれば足がもう二本増えるところだった。
四足歩行で手も持つ勇者。
ケンタウロスかな?
「ヒッ……ヒヒヒヒ……ちょ、ちょっと想定外はあったが神器ゲット? ん?鎌の柄に何か書いてあるな。『原作のイソップ物語は女神じゃなくて男神じゃボケェ! あんな露出狂と一緒にすんな! それにアイツは泉じゃなくて川に潜ってただけよ! やり直し!』だって?えぇー知らんがな。大体童話の類は幼児向けにするにあたって編集されてるんだよ。原作なんて殺伐過ぎて子供泣くぞ!」
涙目で腰を抜かしたアキラ。
ぎりぎり漏らさず尊厳は守られたが、武器は鎌になってしまった。
神器じゃなかったかー。もう帰りたいなー。
草を刈り、作物を守る勇者もいいかもしれない。
命は名声やお金では買えないのだ。
「ん? お金? 時を捨てる……たいむ、いず、まねー? まさかお金を投げ捨てろ、と?」
いやいや、まさか。
でもどこか俗物そうな女神様ならお金も大好物かもしれない。
少なくとも喜捨やお賽銭で怒られることもないだろう。
もう、どうにでもなーれ気分でポケットにあったお金をポーンと投げ入れた。
……何も起こらない。今月のお小遣い全部入れたのに。
と思った瞬間、胸に焼ける痛みが走り――銀色に輝く刃が生えた。
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