とある国の王様と宰相の場合
「ふぅ、やっと行ったか。……王様、貴賓扱いとはいえ、少々優遇し過ぎたのでは?」
「そういうな宰相。救世の為とは言っても、彼は拉致同然で召喚されたのだ。それにな、少しの間彼を監視させたが、アレはアレで身分相応を知っておったわ。……というかお主、そんな事を言いつつ、自分の仕事終わりにアキラを城下街の居酒屋へ度々連れ回しておったそうじゃないか」
「な、何故それを! 確かに気の良い男でしたが、私はかの世界の経済や司法の仕組みを取り込み、我が国を更に発展させるために……」
「ふふふ、街で一番人気のエミリー嬢は、そんな話をしておらんかったぞ? 他の店の娘も然りだ」
「ま、まさか監視員とは飲み屋の店員ですか!」
「いや、アキラと飲みに行った時に聞いた」
「アンタなにやってんですかぁぁ!」
「それはそうと、アキラの能力はどう秘匿しましょう。いくら勇者だからとはいえ、危険視される可能性は高いですよ」
「アレか……確かに悪用されれば世に混乱を齎らすかもしれん。だからこそ我々が彼を守り、導かなければならんだろう。その身も心も、な」
深い溜息を吐きながら、グラスに注がれた琥珀色の酒を呷る。
魔王や魔族、モンスター達によって混沌に叩き落とされた国を負うプレッシャーは他の誰よりも重かったのだろう。支えてくれる家族や臣下は居れど、重圧を共感してくれる者はいなかった。
そう、アキラがやってくるまでは。
お気楽そうに見えて、誰かの生命という重い荷物を背負う辛さを、アキラは知っていた。
どちらも立場という仮面を着けた者同士、理解し合えたのは必然だったのかもしれない。
「それでは姫様方の誰かを嫁にすることはお認めになさるので?」
「それとこれとは話が別だろうが! ならん! やるなら宰相! お前の娘だ!」
「アホォめが! ウチの娘はまだ六歳じゃボケェ! 例え十年後でも娘は誰にもやらん!」
普段は静謐な王の執務室で、三十の半ばを迎える大人達がギャースギャースと喚く声が響く。
そこへ、普段は許可なく入ることは絶対に許されないが、そんなものは関係ないとばかりに侵入してくる者がいた。
「ア ナ タ ? 仕事はどうしたの? そのグラスに入ってるモノは何なのかしら?」
「お前?!」
「王妃様?!」
魔法か幻か。
その日王城に一つの雷光が落ちた。また同時に、この国のトップ二人のお小遣いの五割カットが確定された瞬間であった。
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