夢想

古河数徒
古河数徒

僕だけの

公開日時: 2021年8月8日(日) 07:45
更新日時: 2021年8月8日(日) 12:45
文字数:925

せかい

 僕の生涯は、恥にまみれていたような気がする。

 知らないという恥。できないという恥。劣っているという恥。失敗したという恥。失敗を重ねる恥。まだできないという恥。

 たくさんの恥をかいた。僕が恥をかいているその横にはいつも僕が知らないことを知っている誰かがいて、僕にできないことができる誰かがいて、僕よりも早く成功にたどり着く誰かがいた。

 誰かの後ろ。誰かの下。そこが僕の居場所で、縁の下よりももっと下の、力もちでもなんでもない誰かが僕という存在だった。

 ただ、僕は、縁の上で輝く他の人と違って、どこにでもいた。

 他の人よりも多くの場所で恥をかいて、多くを知った。多くを身につけた。どこにいても光の当たる場所には行けなかったが、僕の中にはたくさんのものが溜まっていった。

 多くの小さなものが形成する僕という存在に、僕自身は満足していない。どこでだって光の当たる場所に出たくてもがいたし、ぐっと身体に力を入れて頑張ったし、つまらないことも気の進まないこともやった。

 どれだけやっても、どこにいっても、僕の居場所は縁の下よりももっと下の暗い場所だった。


 悟った。僕は、光の当たる場所に行けるような存在ではない、と。


 それから僕は、暗闇の生活に少しずつ慣れていった。

 自分を知り、光への憧れを忘れ、たくさんの暗闇で少しずつ糧を得て、レベル20の何でも屋みたいな人間になった。

 レベル100の剣聖や大賢者に剣や魔法で勝つことはできないが、剣聖と魔法で勝負したら勝てる。大賢者と拳で殴り合えば勝てる。そんな中途半端で価値の低い人間に、僕は成った。

 もちろん、僕は誰からも求められなかった。僕が得たものは全て僕のために使われ、僕は僕の満足のために糧を得続けて、自己満足のレベル上げを続けた。

 それを悲しいとも嬉しいとも思わなくなった僕は、今も、新しい場所で得られる新しいものを探し続けている。

 恥をかくのはいつだって嫌だ。誰かの下にいるのも嫌だし、できない自分の無力さを感じるのだって未だに嫌だ。

 だけども、知ることは楽しい。得ることは楽しい。競争に負けるのは気分が悪いけれど、自分だけを見た時に楽しいと思えることがあるのは事実だ。

 だから僕は、今日も知らない場所に飛び込んでいく。

 面白いなあ。これ。

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