理想の先
この気持ちは、苦い。
だから外に出したくない。その苦みで私が苦しもうと、その棘が私を傷つけようと、私は、私の中に生まれた棘の生えた苦い気持ちを外に出したくない。
この気持ちを吐き出してしまえば、誰かの中に移してしまえば、誰かに融かすのを手伝ってもらえれば、私はきっと、こんな気持ちを私の中で抱え続けるよりもよっぽど楽になれるだろう。痛みと苦さをなすりつけて、私の心は健康でいられるのだろう。
だけど、だけど、そんなことをしてしまったら、私は加害者じゃないか。
私が嫌いな人たちと同じ存在になってしまうじゃないか。
それだけは嫌だ。私は私が嫌うような人たちと同じ場所に墜ちたくない。たとえ私の心にたくさんの傷を刻んででも、私は潔白でいたい。
そうだ、私は正しく在りたいのだ。そう在るように努めてきた。精一杯の良い人間でいた。たくさんのことを許して、たくさんの背中を押して、たくさんの規則と秩序を守って、たくさん良いことをした。
なのに、なのに、なのになのに、なのに
どうして私は、救いを得ることができないのだろう。
どうしてたくさんの悪い行いをしている人たちが、あんなにも満たされた顔をしているのだろう。
あいつの愚痴もあいつの悩みもあいつの妬みもあいつの陰口も聞いたのは私だ。私が受け止めたからあいつもあいつもあいつも平気な顔をしていられるんだろう。なのに私の中には痛みや苦さや汚れたものがたくさん入ってきて他人の泥みたいな感情ばっかりでもういっぱいで入りきらなくなってだけどそれを外に出してしまったら私はきっと私を嫌いになって
……ああ
私はもう、とっくに、潔白なんかじゃなかったんだ。
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