「やぁエルマさん」
「……どうも、ヨートフさん」
「洗礼を受けてから何かいいことでもありましたか? それとも悪い事でも? 」
「貴方に合ったことが悪い事ですね……」
「おや、この前は借りてきた猫のようだったのに随分とはっきりものを言うようになりましたね」
「えぇおかげさまで……ここ数日ろくに眠れず辛い日々を過ごしていますから余計な事に頭を使う余裕がないんですよ」
「そうでしたか、特製の薬草茶でも用意しましょうか? 」
「毒入りですか? 」
「まさか、量を間違えたら三日間眠り続ける程度のものですよ」
「まぁ貰えるなら貰いますよ、どっかで売れるでしょうから」
「そうですか、じゃあ明日までにワイン3樽追加お願いしますね」
「地獄に落ちろくそったれ……」
「はっはっは、そんなの十年前から決まっていることですよ」
「くそう……こいつ無敵だ……」
なんというべきか、新月派を知ってから数日たつけど私の周りは平穏です。
しいて言うならヨートフとかいう異端者が街中で見かけるたびに無茶な注文してくるくらいです。
でも対価はきっちり、たまに薬草茶のようなおまけつきなので私の懐はそれなりに潤っています。
おかげで周囲からは神父様と親しい敬虔な信徒にして凄腕の商人として見られるようになりましたとさ。
……これ今後総本山に顔出せなくなるかもなぁ。
絶対私マークされてるもん。
……いいや、この際だから表面的な事だけ書いておこう。
この街のヨートフという神父は変わり者であるが、日々の糧を得るために最善策を模索しています。
必要とあれば主神の像を材料に畑の仕切りを作る事も厭わないほど身内を大切にしているようです。
罰当たりな行為ですが、これに助けられた人も大勢いるようです。
うん、この程度に書いておけば私が新月派を知ったとは思われないだろう。
あえて火中に飛び込むのも商人には必要なのだ……。
神様、もしいるなら早めにヨートフを引き取ってください。
私の胃が無事なうちに。
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