「ほほう、P&Mの限定モデルはこの街でも買えるのか……要チェックだな」
「ジャンピエールのぬいぐるみは北に二日行った街で買えますね」
「悩ましいな……すこし仕事を増やすか……」
「大丈夫なんですか? ぬいぐるみのために無茶して命を危険に晒すとか組織の沽券にかかわるんじゃ……」
「俺個人が動く分には問題ねえよ。つーか俺がいなくても組織は回せるようにしてあるからな」
「ははぁ、トップ不在でもというのは良い心がけですね」
「だろう? おかげで俺はぬいぐるみと戯れる時間が増えるってわけよ。たまに見張っていないと強引な手段で金を稼ごうとする馬鹿が出てくるから、そいつらを締め上げるくらいでな」
「マフィアも大変なんですねぇ」
「大変も大変、おかげで名づけにも時間が足りねえのなんのでよう……」
「名付け? 」
「昨日今日買ったぬいぐるみに決まってんだろ。愛情を注ぐなら名前を付けてやらねえとな」
可愛いかよ。
いや、ぬいぐるみに名前つけてるのなんて女児くらいの物だと思っていたけどまさかこんなごついおっさんが……。
「お、これもいいな」
「ほほう、お目が高い。実はそれ私も目をつけてたんですよね」
「限定物じゃなくてよかったな」
「ですね」
ふと会話が途切れる。
ぱらぱらとボスさんがカタログをめくる音が響く。
「そういや昨日のうちに伝書鳩を飛ばして例の限定モデル調べさせたんだが、どうやら10万で即決したそうだ。あんたのおかげだよ」
「それはよかったですね。おめでとうございます」
「ありがとよ、届き次第エルマって名付けて可愛がってやるつもりだ」
「あ、あはは……」
なんかそれはそれで妙に恥ずかしいな。
というかおっさんのぬいぐるみに同名つけられて愛でられるって……。
あ、なんか恥ずかしくなってきた。
「今回の礼は金だけじゃ気持ちが収まらねえからよ、こいつやるよ」
そう言って投げ渡されたのは銀でできた指輪だった。
値打ち物ではないと思うけど……。
「うちの組の証明書みたいなもんだ。そいつを見せればうちの関係者なら融通が利く。っと、恩人にまだ名乗ってなかったな。俺の名前はタカヒサだ、名前も出せば問題も起こらねえよ」
「はぁ……個人的には使う機会は無い方がいいんですが、ありがたく受け取っておきますねタカヒサさん」
「おう、そうしろエルマの嬢ちゃん」
こうして私は後ろ盾を得たのだった。
違法な物は売ってないからセーフだよね。
グレーな組織にグレーなカタログ見せただけだもん。
……いや、グレーというかあれほぼホワイトだな。
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