ワールドイズマイン

〜自分好みに作ったアバターが現実世界に出てきたんですが〜
セリシール
セリシール

第11話「呪刀の連撃」

公開日時: 2020年9月16日(水) 20:01
更新日時: 2021年1月17日(日) 02:55
文字数:3,225

「櫛名さん……なぜここに?」


 俺が唖然としているのを後目に、櫛名さんは言った。


「説明すると長くなる。今はあのオークに集中しよう」


 ……っと、そうだった。

 まずはあのオークを何とかしない事には、安心して会話する時間すら与えられない。俺はナイフを逆手に持ち、姿勢を低くしてオークを睨んだ。

 オークは傷だらけになった手で棍棒を握り、俺達4人に殺意を向ける。お互い、引く気はなかつた。


「主、この者らはそれがし達の味方と考えてよろしいか?」


 ムラマサは俺とプラチナを指さして言う。櫛名さんはムラマサの顔を見て優しく頷いた。

 するとムラマサは俺達の横に立ち、腰に刺さっている刀に手をかけた。


「緊急時につき、自己紹介は後回しにさせてもらう。早急にあの魔物を屠ろうぞ」


「……あぁ、やってやろうじゃねぇか」


 俺は先陣を切り、オークに突っ込んで行った。オークはそんな俺を迎え撃とうと棍棒を構えるが、俺は身を低くして横に振られた棍棒をかわし、さらに接近して懐に潜った。


「ぅおらぁ!」


 俺は心臓に向かって思いっきりナイフを突き立てる。ゴシュッ……という生々しい手の感覚が振動として俺に伝わった。

 が、それが決定打にはならなかった。


 グギャァアアア!

 錆びた歯車を噛み合わせたようなザラザラした叫び声が俺の耳を刺す。そうして俺が怯んでいる隙にオークはもう1発棍棒を振ってきた。

 やばい、当たる!

 回避しようと体を下げようとした時、バンッ!と一瞬の爆発が起きた。その音の直後、オークは棍棒での攻撃を中断し、棍棒を担ぎ直した。


 プラチナの銃か……。

 俺はそう思い、音のした後ろ方向へ振り返る。が、そこにいたのはプラチナではなく櫛名さんだった。彼女は真っ黒い銃を両手で押さえ、オークを見ている。


「櫛名さん……なんで銃を!?」


 言うまでもないが、ここは日本。拳銃の所持は銃刀法で禁止されている。にも関わらず、櫛名さんは実弾を放てる本物のハンドガンを持っていた。


「これも後で説明するよ。今は気にしないで」


 櫛名さんはさらに連続でオークに向けて発砲する。若干ブレた弾丸は、今度はオークの膝に向かって放たれた。

 ガッ!一瞬高くなり、加速度的に小さくなる銃声はオークに与えた被害に似合わなかった。膝を撃ち抜かれたオークはそのままバランスを崩し、跪く形で俺達に頭を垂れた。


「やっぱり他の部位に比べて膝は弱い!プラチナちゃん、頼んだよ!」


 櫛名さんは1番オークに近かったプラチナを名指しして討伐を任せた。


「ナイスゥ!」


 プラチナはここぞとばかりに斧を持ち、思いっきり頭に振り下ろした。

 が、ガキィィイイン!ツルハシで石を掘ったような高い音と共にプラチナの斧は大きく弾かれた。そのままよろけて後ろに数歩歩く。


 オークはその隙を逃さず、棍棒を下から上に振り上げプラチナに攻撃する。あの攻撃に当たったら間違いなく彼女の命はない。

 そう思った時には体は動いていた。


「させるかッ!」


 俺はプラチナに抱きつくようにタックルし、半ば強引に攻撃を回避させる。俺達はそのままアスファルトに倒れ込み、多少のかすり傷を受けた。


「大丈夫か?」


「あ……ありがと」


 先に立ち上がった俺はプラチナの手を引き、彼女を起き上がらせた。プラチナは服に着いた粒をサッサッと手で払い、武器を槍に変更した。


「あやつの装甲は他に類を見ないほど硬い。一撃で首を落とすのは無理だ」


 ムラマサが刀を抜き、オークに近づく。そのオークも段々と立ち上がる準備をしていた。


「それがしが手本を見せてやる」


 ムラマサは刀を持った手を後ろに大きく引いた。……と思ったら、そのまま槍投げのように刀をオークめがけて投げつける。


 カンッ……!


 が、刀は言うまでもなく軽々と弾かれた。空中で素早い回転を繰り返している。

 なんだ……?手本を見せてやるといいつつ、自分も攻撃を弾かれているじゃないか。

 俺はそう首を傾げた。が、ムラマサにとってこれはまだ序章に過ぎなかった。


 ムラマサはそこに走り込み、飛び上がると同時に回転している刀を物怖じ1つせず掴んでみせた。以前、空中で回転する斧をプラチナが叩き落とした事があるが、ムラマサはそれに近しいことを素手でやってのけた。

 ムラマサは刀を掴んだと同時に放物線を描くような形でオークに向かって飛び込んだ。


 スパァ……!

 ムラマサの着地と同時に振り下ろされた一撃は、浅くとも確実にオークにダメージを与えていた。真っ直ぐに斬られた傷跡から黒い血が垂れる。


 ムラマサはさらに畳み掛けるようにもう一撃、今度はもう少し角度をつけて斬りつけた。

 オークも反撃しようと棍棒を手に取る。が、横に振られた棍棒は棒高跳びのように避けられ、ムラマサの攻撃を止めるには至らなかった。


 ムラマサの攻撃はどんどん速くなっていき、次第に斬りつける音は豪雨の雨音のようにザザザザザザ!と連続で続いていた。


「一撃で倒せないなら連撃を叩き込むってこと…………?でも、そこからどうするの?」


 プラチナが疑問に思ったらしい。確かに、このまま連続で攻撃を続けてたとして、決定打になる一撃がなければオークの息の根を止めることは出来ない。

 ここからどうやってオークを仕留めるんだ……?


「このままじゃ、ムラマサの体力も持たないはずだよ…………」


 プラチナが心配そうに言う。確かに、これだけの速さで攻撃を繰り返していけばムラマサの体力はあっという間に…………


 ………………体力?


「…………そういうことか!」


 俺は頭の中で様々な点と点が繋がってムラマサの意図に気づくことが出来た。と同時に、ナイフを強く握って言った。


「プラチナ、加勢するぞ!」


「え、あ、りょーかい!」


 一瞬戸惑いを見せたが、俺とプラチナはオークの側面からそれぞれムラマサのように連撃を行った。ナイフを高速で振り回すのはなかなかコツがいる行為で、肩への負担が大きかった。


 俺達3人はオークを袋叩きにする。時折、本当に危なくなった時は後方に控えている櫛名さんがオークの手を撃ち、一時的にヘイトを集め、攻撃を中断させる。

 彼女の役割はどちらかというとサポートのようだ。


「ぐっ…………!」


 そろそろ体が重くなってきた。が、それはオークも同じはずだ。もしコイツが本当に『リバース』のオークなら、俺達の勝利は確定している。

 根比べには自信があるんだ、そう簡単に音を上げてやらねぇよ。


 目の前のオークの体は傷だらけになっているが、それでも一撃一撃は浅い。恐らくプラチナやムラマサ、それに櫛名さんの銃撃のダメージもそうだろう。

 しかしここが正念場。この浅い攻撃をもう少し繰り返せば…………!


 そう思っていた時、案外早くその瞬間は訪れた。


 グギャァアアア………………。


 オークは突然雄叫びを上げて倒れた。そしてそのままEXPと化し、プラチナとムラマサに吸収されていった。

 なぜ致命傷がないにも限らずオークが倒れたのか。別に出血量が多かったわけでも、オークに特別弱点がある訳でもない。オークの死因はもっと単純なもの。


 HP切れだ。


 オークはあくまで『リバース』のエネミー。つまり、どんなに弱い攻撃だろうとHPが尽きればそこで命が終わる。ムラマサはそれを狙っていたのだ。


「良かった、何とか倒せたね」


 櫛名さんは笑顔で俺に近づいてきた。


「あ、そうだ!聞きたいことが山ほどあるんだ」


 この際、櫛名さんが『リバース』プレイヤーだったとか、世界ランキング7位のムラマサだったとか、野暮なことを聞くつもりは無い。


「櫛名さん、オークを見ても大して驚いてなかったけど、もう既に似たようなことを経験してるのか?

 それに、ただの高校生である櫛名さんがなぜ拳銃を持っているんだ?」


「……教えてあげるよ」


 櫛名さんはブレザーの内ポケットから1枚の紙を取り出した。見た感じ、どうやら書類のようなものだった。


「私、対エネミー特殊機関『AAU』のメンバーなの。だから特例として銃の所持が許されてるんだ」


 対エネミー特殊機関『AAU』。

 その名前もまた、俺の人生を大きく左右する名前だった。 

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