【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

最強の執事

公開日時: 2021年1月13日(水) 22:17
文字数:2,232

 正体を明かすに近しい咆哮にスティージェンは気怠そうな雰囲気を捨て去り、白い手袋を纏った拳で応戦する。

 飛びかかった飛彩の脚撃を今度はスティージェンがはたき落とし素早いジャブを飛彩の身体へと打ち込んでいった。


「ちぃっ!?」


「ヒーロー本部の差し金か。この件を公にすればますますスポンサーであるカエザール様に逆らえなくなるな」


 ニヤリと笑うスティージェンから余裕を奪うように拳の雨を通り抜けていく飛彩は素早い攻撃に対し重鈍だが大きな威力を乗せた拳を腹部へと打ち込んだ。


「関係ねぇよ。テメェはここで記憶が飛ぶまで俺にブン殴られるんだからな」


 数歩後ずさるように怯めば最後、二度と攻撃に転じることの出来ないような乱打がスティージェンへと降り注ぐ。


 両拳を牽制として放ち、隙を見せれば鋭い前蹴りを両足から繰り出していった。


(この侵入者……利き腕や利き足がないのか!?)


 元々右利きだった飛彩だが、左腕の能力や左足の覚醒により両手両足を意識して戦うことが多くなり、いつしか戦闘においては両利きとなって相手を苦しめている。


「おいおい、ボディーガードってのはそんなもんなのか……よっ!」


 しなる右足がクロスして防御した両腕ごとスティージェンを吹き飛ばし、飛彩の年収では賄えないほどの高級なソファやテーブルを打ち壊していった。


「蘭華、ホリィを見っけた。今ボディーガードをぶっ飛ばしてる。少し集中させてくれ」


「ちょ、ちょっと飛彩!?」


 よろめくスティージェンが地面に視線を向けている間に、小型の通信機を飛彩はホリィへと投げつけた。

 一見攻勢に見える飛彩だが、集中しなければ勝利は掴めない相手だと判断したのだろう。

 状況説明を全てホリィに任せるという形で、目の前の的に全神経を注ぐ。


「面白い……さすがはヒーロー本部。よく鍛えられているな」


「ただの人間にしちゃあ、お前も充分やる方だよ」


「ハハッ。ありがたいお言葉だが……勝敗の決め手はそれだけじゃない」


 ここはスティージェンのホームグラウンド。

 増援を呼べば一瞬にして飛彩は鎮圧されてしまうだろう。


 だが、余裕な表情の飛彩は見せ付けるように掌の中を見せつけた。


「もう耳にはねぇぜ?」


「いつの間に……」


 攻撃の最中、耳に着ける通信機を奪い去っていた飛彩はそれ踏みつけて粉砕する。


 他の通信機器を取り出して連絡する暇などあるはずもなくスティージェンは握る拳から怒りの音を立てる。


「これでお互いの目的を果たすためには、拳で語るしかなくなっちまったわけだ」


 不適に笑う飛彩に対してスティージェンは高級そうなスーツの誇りを払った後、静かに姿勢を低くした構えを見せる。


 纏う雰囲気が変わった事はヒーロー状態ではないホリィにまで伝わった。


「おらぁ!」


「フッ!」


 槍のような飛彩の前蹴りを右肘で叩き落としたスティージェンはさらに懐へと潜り込み、鳩尾や肝臓目掛けて鋭い手刀を放つ。


 苦悶の表情を浮かべる飛彩に対し、一切攻撃の手を緩める事ないスティージェンは飛彩の防御を弾いて的確に攻撃を打ち込んでいく。


「まるで注射だなッ!」


「ジョークのセンスはあるらしいが……これは毒針だよ」


 思い切り引かれた右腕から繰り出された神速の刺突は飛彩の左の二の腕へと吸い込まれていく。

 明らかに大技を繰り出すと予感できた飛彩は何とか身を翻し、右足を蹴り出して無理やりスティージェンと距離を取る。


(今のはまずいな……食らってたら左腕は間違いなく死んでた)


 避けてもなお精神的に飛彩を追い詰めるスティージェンは手応えを感じた様子も見せずに大きく深呼吸をして小さく笑みを浮かべる。


「敵を屠るのに剛力なんて必要ないからね」


 そんな物騒なセリフを並べられたにも関わらず急に敵意を感じられなくなった目の前の戦士に対し目を見開く。


 そこにいるのにも関わらず、どうしても意識の外へ行ってしまう相手に飛彩はより集中を凝らす。


「ほら」


 しかし瞬きすらしていなかったにも関わらず、飛彩は一瞬にしてスティージェンに背後を取られてしまう。


 本能で振り返りながら左拳を放とうとする飛彩の左肩へスティージェンの指が突き刺さった。


「ぐあぁっ!」


 テーブルを打ち壊して今度は飛彩が地面へと転がされる。

 目の前で起きた奇術に理解が追いつかない飛彩に対し追い討ちをかけるように鈍痛が襲った。 


「当分その左腕は上がらないよ」


「……気持ちいいツボ押し名人だな。感謝するぜ」


 未だに軽口を叩くのは飛彩の戦術でもあるが、左腕に断続的に訪れる痛みを隠しながら何もなかったかのように左腕を上げる。


「ほぅ。今の毒槍を受けて拳を向けるとは」


「おいおい、自分の攻撃に技名付けちゃってんのか? そういうのは中坊の時に卒業しておけや」


 しかし、仮面の下やスーツの奥の生身の体からは冷や汗が止まらず、先ほどの背後へと一瞬にして回り込まれた謎を解き明かさない限り飛彩に勝ち目はない。


(展開使えばどうにかなるだろうが、生身の人間相手にこの力を振るうわけにはいかねぇ……クビとかそれ以前に俺のプライドが許せねぇ)


「そのふざけた仮面は外した方がいい。視野を狭めて私に勝てるとでも?」


 かつて黒斗と手合わせしていた時に感じていた相手が常に一枚上手にいる感覚を思い出した飛彩はホリィを侮蔑したスティージェンへの怒りを再び燃料として心に投下する。


「関係ねぇ。お前をぶっ潰してホリィに土下座させてやっから待ってろよ?」


ヴィランとの戦い以外で味わう死の気配に苦戦しつつも笑みを浮かべる飛彩は再びスティージェンへと特攻する。

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