そこにいるホリィは怯えている様子など一切なく、いつもと変わらぬ凛とした様子を見せている。
「ホリィ、お前何言って……もう変身出来ないんだぞ?」
まだ戦う理由があると考えたのは自分だけ、と飛彩はたじろいだ。
侮った気持ちなど一切ないのだが、力を失った仲間に戦いを強いるつもりだと欠片もなく。
しかし、そのまま歩み寄ってきたホリィは力強く飛彩の手を包むように握りしめた。
「っ!」
「私ね、ヒーローとか力があるとか関係ないと思うんだ。私は飛彩くんだけが危ない目に遭うなんて考えられない」
その言葉で蘭華は、護利隊を好ましく思っていない先遣隊に何故ホリィがいたのかを悟る。
ホリィもホリィで飛彩を守るべく独断で先行していたということだ。
「今まで飛彩くんが守ってくれた分、これからずっと私が守るから」
「ホリィ、お前……」
「こんな時にいい雰囲気になってんじゃないわよ!」
強く握っていた手をほどかせた蘭華が勢いよく乱入する。
油断するとすぐにいい雰囲気にしようとするんだから、と緊張感も忘れて頬を膨らませていた。
そんな日常が帰ってきたかのような光景に飛彩も、小さく笑いながらホリィの覚悟に感謝を示す。
「ホリィ、でも一個だけ忘れないでくれ」
「え?」
「俺が傷つくことを恐れるな」
それはかつてすべて一人で背負い込んでリージェの侵略区域に踏み込んだ時に飛彩が感じたことだった。
仲間を傷つけてしまった後悔から生まれた危険な振る舞いは、仲間の存在で過ちだったと気づくことが出来ている。
「俺たちが協力すれば、どんなヴィランにだって負けねぇ。それを気づかせてくれたのはお前らなんだからよ」
「……うん!」
その誓いに賛同するように熱太が飛彩と肩を組み、刑もクールを気取った様子で腕を組んでいる。
「はっ、後輩に先を越されるとは……ホリィは生粋のヒーローだな!」
「待て待て、僕だってそのつもりだ。こんなところで降りる気なんてないぞ」
「お前らまで……」
「飛彩」
すると熱太が畏まった様子で強く飛彩を引き寄せた。暑苦しいぞと振り払う感じでもない真剣さに力強い眼差しで答える。
「覚えているか? ヒーローになって一緒に戦うという約束を」
「……ああ」
「意識していなかったが、だいぶ前から叶っていたとは思わんか? まあ、お前は実はヒーロー志望じゃなかったとか細かい話はあるが……」
しかし、そんなものは関係ない、と赤みがかった髪が朝の冷たい風になびく。
「お前は世間的にはヒーローじゃないかもしれない。だが、間違いなく俺たちのヒーローだ」
「……ありがとよ。お前だって力なくそうと俺のヒーローには違いねえ」
「あの日の約束を真の意味で果たすのは最終決戦でだ。俺たちの勝利で幕を下ろすぞ!」
「ああ!」
「ふっ、暑苦しいねぇ」
「何だ? 刑も俺と飛彩の約束に混ざりたいのか?」
「ば、馬鹿! 誰もそんなこと言ってないだろ! 飛彩くんは僕のライバルでもあるんだ。君たちが戦うのにオメオメ逃げ帰れるか!」
素直に言葉を紡げない刑だが、明後日の方向を向きながら独り言のように言葉を続ける。
「ライバルに死なれたら困るからな……」
「ははっ、ありがとな! 刑!」
熱き友情も想われる愛情も、今までの飛彩にはなかったものかもしれない。
長きにわたる戦いでそれを手に入れた飛彩は最終決戦、自分よりも強大な相手が待ち受けていようと怖くはないと力強く拳を握り締められた。
「隠雅は危なっかしいから、守ってあげないとね!」
「ふふっ、ここでやらないって話はもう出来ないわ。まぁ、そんなつもりさらさらないけど」
「翔香にエレナさんまで……」
変身能力を失ってもヒーロー達の意志は折れていない。
やはり強さがヒーローの源ではないと飛彩は再確認した。
「残る設備も財源も何もかも投げ打って勝負に出るぞ、そしたらメイに後片付けをさせるんだ」
「黒斗、お前……」
「ララクが普通に暮らしてるんだ。それが一人増えようと変わるまい」
「ははっ、司令官も人間っぽいところあるのね!」
「お前らは俺を何だと思ってる?」
一切動じていない黒斗だが、蘭華は心の奥底に眠る黒斗の人間臭い部分を完全に見抜いていた。
しかし、茶化すつもりもなく自分にとって姉も同然だった相手を取り戻したい、裏切りも自分たちのためなのだと信じたかった。
「まー、私も賛成! メイさんがいないと私も嫌」
「だな。取り戻したいのは黒斗だけじゃねぇって」
「とにかく、ヴィランの親玉とメイとララクの奪還作戦を始める」
勇ましい返事がその場にこだまする。どれだけ強大な悪が現れ、力の差を見せつけられようとヒーローの意志は折れなかった。
立ち向かう勇気を再確認しあった絆の仲間達はいつしか円になり、闘志を一つに重ねている。
「厳しい戦いになるだろう……だが、誰一人死ぬことは許さん!」
「能力がなくても未来を決めるのは私たちですから!」
「熱き炎は心から燃えるもの! 俺はこんなところで止まる気はない!」
「あいつらに負けたら楽しい世界じゃなくなっちゃうしね」
「人々の平和を守る……ふふっ、いつの間にかどこかの誰かさんのせいで熱い気持ちがうつっちゃったみたいね」
「この世界に踏み入ろうとする悪には処罰あるのみ! だろ?」
仲間達の宣誓は闇に閉ざされた未来だろうと切り拓く力強さがある、と飛彩は展開力が高まっていく感覚に震える。
敵によって作り上げられた悪のシンボル、闇にまみれた侵略区域も恐れる必要はない。
悪だ何だと決め付けられたこの世界に残った善性が飛彩達を後押しするように勇気を与えていく。
「ありがとな……お前らの力、借りるぜ!」
飛彩達の最後の戦いが、始まりの鐘を鳴らそうとしていた。
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