「なんだこの光は! 現世のような眩さが……」
「とっても、暖かい」
闇の王ですら視界を覆う光は眩しさというより、神聖さに満ちている。
息が詰まる闇の瘴気が消滅していく中でフェイウォンは、もがくように闇弾を飛彩がいた場所へと放つ。
「はっ!」
片手で闇弾が粉砕されたことで爆音が辺りに響く。
しかし黒煙も上がらないそれは完全に光に吸収されてしまった。
「鬱陶しい。姿を見せろ!」
フェイウォンもまた闇の展開力を波濤のように巻き起こした。
そこまでやって初めて飛彩の光と拮抗し、周囲を観測出来るようになる。
だが、フェイウォンが展開力を飛彩に向けてやっと拮抗したという事実に、その場にいる全員が驚かされた。
「これが……最後の力だ」
飛彩、ただ一人をのぞいて。
「な、なんだその鎧は!?」
驚愕するフェイウォンに対し、ホリィや蘭華は親しみのようなものを感じ、これが飛彩の本来の姿なのだろうと理解した。
「真っ白な鎧? あんなヴィランがいるのか?」
「でも、とっても綺麗だね」
ララクとリージェもまた黒以外ありえないと思っていた鎧に対して驚きを隠しきれなかった。
鎧の形はそのままに、飛彩の全身を覆った鎧は真っ白に輝いている。
雪のような透き通る白は黒に汚染されるどころか、周囲を浄化して生命力に溢れる世界へと変えていった。
今まで使用してきた四つの能力も息付いた上で、五番目の能力が覚醒したのだろう。
「白き鎧……未完ノ王冠!」
「はっ、大層な名だ。だが王冠を被るのは『頂点』に立つ私のみ!」
「頂点なんざ関係ねぇ。俺は悪しきヴィランを全て消す……それだけだ!」
フェイウォンの前に立ちはだかる飛彩の表情は決意に満ちたものになっている。
仮面がそれを隠す故に飛彩の精神的な変貌にフェイウォンが気付くこともなく。
「白くなっただけで何も……!」
フェイウォンが踏み込む瞬間、ぐしゃりと金属が折れ曲がったような音が腹部で響いた。
気がつけば飛彩の白い鎧が左ストレートで打ち込まれており、ダメージを逃がせずにその身で受け入れている。
「が、がふっ!?」
「見た目なんてどうだっていいだろ?」
蹴り上げでフェイウォンの顎を蹴り上げ、視界を奪う。そのまま流れるように隙だらけの腹部に四発の拳を打ち込んだ。
ひび割れていた鎧は完全に砕け、筋肉質な肉体が露わになる。
「もう一発だ!」
そのまま身を翻しての横蹴りで、フェイウォンは体をくの字に曲げて吹き飛んでいく。
「飛彩ちゃん、すっごい」
「これが進化した五番目の能力?」
「いや、違うわ」
涙が引いている蘭華は凛とした面持ちで戦いを見守っている。
ホリィたちより一歩前に出た蘭華はゆっくりと振り返り、一つの思いを語った。
「いつもの飛彩に戻ったのよ」
「さすが蘭華、俺のことよく分かってるな」
「当然でしょ、ずっと一緒にいたんだから」
「はっ、そうだな!」
素早く勝負を決めると言わんばかりに歩法を披露する飛彩は瞬間移動も同然の速度でフェイウォンの背後に回り込んだ。
展開域で動きは把握できるとはいえ、やはり反応速度は多少遅くなる。
その多少の時間が飛彩を相手にする上では命取りなのだ。
「調子に乗りおって!」
ここでフェイウォンも本領発揮と言わんばかりに、全ての防御系の能力を引き出した。
完全防御、自動反撃、負傷蓄力、などなど数えきれない能力が発動されてフェイウォンの展開力のもとに一つの「完全なる防御」として黒い障壁が誕生する。
どれだけ弱い力で殴ろうと、それは何倍にもなって本人に返っていく能力がベースとなり様々な副次効果が付与された障壁だ。
葬れはしなくとも攻勢は入れ替えられる、そうフェイウォンは考えていた。
「邪魔だ!」
「なっ!? ……ぐばはっ!?」
薄氷のように砕けたそれを浴びたフェイウォンはそのまま顔面にも右拳を受け入れる。
体が仰け反るほどの威力よりも、複数の能力を重ね合わせた防御壁が破られたことに驚いていた。
それでも頂点に立つものとして即座に思考を切り替え、針のような蹴り上げを見舞う。
「それは針のヴィランか? それとも蜂のヴィランか?」
殴り抜けた姿勢から予測していたように腕を上部へと払い、反撃の蹴り上げを飛彩は回避する。
(またしても……?)
「そうか、始祖ってことは頂点以外にも全ての能力が使えるんだよな。通りで変な感じがしたわけだ」
噛み合わない会話だが、フェイウォンの反撃には噛み合うように全て飛彩は防ぎ切っていた。
「でも、最高に良い感じだ!」
フェイウォンと飛彩の展開力は現状ほぼ同等。しかしそれでも飛彩が攻勢を保っているのは精神的な面が大きく作用している。
今までは「現状の能力で勝つにはどのように隙をつけば良いか」という一発逆転を狙った考えに囚われていた。
しかし、五番目の能力である未完ノ王冠の覚醒、心に救う迷いの排除などから、真っ向勝負で必ず勝つという通常の思考に戻っている。
故に自身の敗北を想像しない飛彩は、頂点に立つフェイウォンと同じく圧倒的な強さを見せているのだ。
「ヴィランであることを受け入れた以上、私の誓約からは逃れられんぞ!」
目に見えない波動が飛彩を襲った刹那、臨戦態勢だった構えから棒立ちへと戻ってしまう。
「まずい! 誓約は……」
「リージェ、助けに行こう!」
「ちっ、貸しは絶対に返せよ!」
誓約の恐ろしさを体感している二人だからこそ、一目散に飛び出すがフェイウォンが飛彩に殴りかかる方が間合い的にも速く。
「教育だ」
「誓約と……先公のヴィランか?」
拳を片手で押さえ込む飛彩は自然体といった様子で、先ほどまでの棒立ちはむしろリラックスしていたのだ。
ララクたちも驚きのあまり、助けに入ろうとした足が止まってしまう。
そこでララクやリージェ、ホリィはあることに気づく。
窮地に陥った、と思うまで加勢に入らなかったのは本能的に『勝敗は決した』と感じたからだと。
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