【完結】変身時間のディフェンスフォース

〜ヒーローの変身途中が『隙だらけ』なので死ぬ気で護るしかないし、実は最強の俺が何故か裏方に!?〜
半袖高太郎
半袖高太郎

底見えぬ深淵

公開日時: 2021年4月18日(日) 20:21
更新日時: 2021年5月12日(水) 22:07
文字数:2,257

 左腕を思い切り振りかざしていたはずが、気がつけば凄まじい勢いで投げ飛ばされている。


 何が起きたのかもわからぬままに、飛彩は白い展開の中で黒斗に抱えられていた。


「お前ら……!?」


「みんな、飛彩がきたぞ……ここから形勢逆転だ!」


 そう叫ぶ熱太だが、展開を維持しているだけで息も絶え絶えといった様子だ。

 事実、後ろでは展開量が溜まっているはずなのに心が折れて変身できない連中がただただ震えている。


「お、おい、どういう状況だ」


「あいつの展開濃度が高過ぎてヒーロー以外は息も出来ない。こうしてヒーローは全力で展開広げて私たちを守ってくれてるってわけ」


 ホーリーフォーチュン、レスキューワールド、そして刑や春嶺、ララクが全力で展開増強、展開維持に集中して何とか拮抗状態に持ち込んでいる。


 そう語る蘭華はヒーローの展開下にいても苦しさを隠せていない。

 黒斗ですら深く呼吸をしなければすぐにでも倒れてしまいそうな様子だ。


 しかし、この状況のおかしさに唯一飛彩だけが気づくことが出来た。それは始祖の悪の背後からやってきたことも関係しているのだろうが。


「さあ、ここから逆転するぞ! みんな!」


「はい!」


「待て……待ってくれ」


 熱太や翔香が勢いづいたものの、長髪のヴィランが手をかざした事に飛彩は気づいた。


 すぐに全員の盾になるように深緑の展開を広範囲に広げて大樹の壁を作り上げる。


生命ノ奔流ライフル・ストリーム!」


 今この場にいるヒーローたちの展開量に匹敵するほどの力を注ぎ込んだ防御壁。

 これで一息つけると勘違いしたヒーローたちは飛彩の決死の表情で再び戦場へと戻らされた。


「伏せろぉ!」


 先陣きって展開力を発していたララクとホリィを抱えるように飛彩はその場から跳ねた。

 直後、黒い嵐のようなものが一瞬にして飛彩の作った防護壁を蝕み、腐食させる。


「ど、どういう事なの……!」


「ララクもわかってるんだろ? あいつは全力じゃねぇ、ただそこにいるだけだって」


「……うん。それでも私たちが全力でやるしかなかった」


 二人によって語られる「敵は何もせず、ただそこにいるだけだった」という事実。

 士気を折らぬためにもララクは黙ったいたのだろうが、情報不足が今は命取りになる。


「そんな……」


「折れるな、俺たちが折れれば世界は確実に終わる」


「強がるなよ熱太くん……敵の強さは冷静に認めた方がいい。だが、落ち着いて協力して戦おう」


 力の差、始祖のヴィランとはこれほどに隔たりがあるものなのかと全員が震えた。

 少なくともこの場にいる全員の全力がすなわち敵の平常時であるからである。


「あの人は始まりのヴィラン……あの人自身の持つ能力はわからないわ」


「何だって?」


 かつてヴィランの中枢で活動していたララクですら何も知らないと語った。

 もはやララクにヴィラン側へ与する理由もないことから、情報がないということが真実なのだろう。


「ちょっと待ってください、あの人自身とはどういう事です?」


 一同は何とか立ち上がり、再びヴィランへと相対する。

 全て防ぎ切ったはずなのに全員が致命傷を受けた様子なのは圧倒的な力の差を見せられたからだろうか。


「あの人は……全てのヴィランの能力を持っている」


「何ですって……?」


 たった一人が相手なのに大軍を擁しているような感覚があったのはそういうことかと飛彩は納得した。


「どいつもこいつも必死で俺を狙ってきたのは少しでも親玉に良い顔したかったってわけか」


「飛彩、悠長なことは言ってられんぞ? 俺たちの戦いは能力よりも展開量が決め手だ。それを大きく上回られている時点で……」


「ええ、熱太くんの言う通り、こちらの攻撃は何も届かないでしょうね」


 逃げたいという気持ちを抱えつつもここで退けば世界は終わると、この場にいる誰もが知っている。


「コクジョーの上位互換って思えば気が楽だろ」


「楽観的な気持ちにはなれないわよそれ。飛彩でしか勝てなかったんだから」


「だが、ララクの言う通り……奴自身の力がわらねぇのは厄介だ。まずは展開無効の力を凝縮して……」


「楽しそうな話だな?」


 その呼びかけは、まるで最初からその場にいたかのような自然さがあるほどだった。


 仲間の呼びかけに応えるように振り返った飛彩はヒーローの放つ白い展開域に土足で踏み込んできたそのヴィランに瞠目した。


「人間がここまでの展開力を放てるようになっているとは……どいつもこいつもこっち側の領土を増やせないわけだ」


「はあぁ!」


 攻撃という返事を出せたのは意外にもララク。

 龍の頭を模したオーラの拳を背後に現れたヴィランへと炸裂させた。


「反抗期などヴィランにはないはずだが?」


 しかし、拳が近づくだけで展開力は削げていき、拳だが弱々しく胸部の鎧へと当たるのみだ。


「リージェは人間に敗れ、ララクは飼い慣らされた……嘆かわしいが、人間の方が我らより、悪に染まった証拠かもしれんな」


「ララク!」


 飛彩に続いて熱太、刑、ホリィ、春嶺と続々と援護に向かう。

 その光景が尚更ありえないと思ったのかそのヴィランは目つきを鋭いものにした。


「悪しき者が、かように手を取り合うとは……」


 そのヴィランを中心に黒い竜巻が発生し、その場にいる全員は散り散りにはじき飛ばされた。

 誰よりも前でその攻撃を受けた飛彩は痛みに喘ぎながらも、右足の展開で闇の中を駆け抜けて蘭華と黒斗を自分の展開の中へと連れ込んだ。


「そこまで動けるか」


「!? ……みんな!?」


 全員が散り散りにされた挙句、そのほとんどが倒れ伏しながら苦しみに咽いでいる。

 翔香やエレナが変身できない連中を守り抜いたようだが、余波だけでも負傷具合は大きい。

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